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レジリアンス研究会


第35回レジ リアンス研究会

今回の研究会は、地球研窪田ISとの共催で行います。
日時:2011年7月28日 16:00-17:00
場所:地球研講演室
使用言語:日本

講演者:
川添善行 東京大学生産技術研究所

タイトル: 日本の風景に問われていること

要旨:
私は今、日本の風景が危機に直面していると思います。
風景を育んできた生業、まちの構造、自然とのつきあい方、そのすべてが、おおきなゆさぶりを受けています。
私たちの世代は、今後活動してゆく半世紀の間、この文明の転換期に遭遇した意味を考え続けなくてはならないでしょう。古い形態をもつ集落をみてゆくと、それぞれの社会情勢の中で、ある環境における最適解を模索してきたことが分かります。その中で、私たちはいかに未来に対する解を見つけてゆくのでしょうか。


第34回レジ リアンス研究会

日時:2011年7月25日 16:00-17:00
場所:地球研セミナー室1・2
使用言語:日本

講演者:
鈴木篤志 A&Mコンサルタント(有)

タイトル: ザンビアにおける作物多様化の進展と作物支援プロジェクトの成果

要旨:
ザンビアでは、他のアフリカの多くの国がそうであったように、ヨーロッパ植民時代に持ち込まれたメイズ(ホワイトトウモロコシ)が伝統的な穀類・作物に置きかわり、主食作物として生産、消費されるようになった。食料作物としてメイズがもつ優位性は確かに認められるものの、極端に単一作物に偏った農業生産体系と食習慣は、ザンビアが定期的に食料不足に見舞われる大きな原因となってきた。1964年の独立以来、独立政府が多くの補助金を注ぎ込み、メイズの生産を奨励したことで、メイズに偏重した農業生産が助長されたが、1990年代初めの経済自由化以降、こうした政府補助が減少したことで、農民がメイズ以外の作物生産に取り組む多様化が進展した。本発表では、当国における作物多様化の進展状況と、報告者が2006年10月から取り組んできた食用作物多様化支援プロジェクトの概要・成果について紹介する。


第33回レジ リアンス研究会
(南部アフリカ地域研究会との共催)

日時:2011年6月21日(火)14:00-16:00
場所:京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 稲盛財団記念館3階中会議室
使用言語:英語

講演者:
Lisa Cliggett ケンタッキー大学人類学部

タイトル: 変遷を続ける国立公園と地域住民:ザンビアの国立公園緩衝地帯におけるアクセスと排除

要旨:
1970年代後半以降,ザンビア中から,特に南部州のグウェンベ渓谷から,中央部にあるカフエ国立公園の境界にある動物保護区へ農民たちが流入している.これらの入植者たちは,耕地を要求する一方で,サバンナウッドランドを急速に開拓し,驚くほどのメイズや綿花を収穫している.本発表では,移動によって引き起こされる開発の歴史を探求する,具体的には,ザンベジ河流域に暮らしてきた6万人のグウェンベトンガの人びとが,1958年に強制的に移住させられたことから始まり,最終的には国立公園周辺の未開拓地への進出や土地被覆変化へと繋がる歴史である.
本発表で注目するのは,開発,経済的プロセス,そして民族間関係の間に見られるダイナミクスである.最近では,開拓地において,移民同士の権力関係の動態と,その経済・生態とのつながりが,激しい土地の争奪や,新しい強制移住,隠れた金銭取引などを引き起こし,コミュニティの間で社会・経済的な格差を広げ,妨害目的の武力攻撃や殺人も増加している.ポリティカルエコロジーの理論的背景に基づいて,発表者は,住民,環境,ライブリフッドをつなぐ様々な権力のダイナミクスを議論する.すなわち,時間,空間を通じた様々なポリティカルエコロジーは,土地被覆変化,争いや暴力の勃発など,眼に見える形の社会的な差異化を引き起こしているのである.本発表では,2004年から行なってきた6つの調査地における民族誌的なデータを紹介し,1956年にElizabeth ColsonとThayer Scudderによって開始された長期的なグウェンベトンガ研究プロジェクトのなかに位置づける.


第32回レジ リアンス研究会

日時:2010年10月22日(金)16:00-17:30
場所:地球研講演室
使用言語:日本語

講演者: 黒崎卓, 一橋大学経済研究所

タイトル: 用水路灌漑農業の洪水に対する脆弱性と回復能力:パキスタンの事例 発表者―

要旨:
パキスタンの用水路灌漑地域の家計はどのように洪水のリスクに対応しているのか? この問題を考えるため、本報告ではまず2001年04年の家計パネルデータを用いて家計レベルの厚生変動を洪水、干ばつ、虫害といったショックに関連付ける。今回の大洪水に対する分析結果の含意をまとめたうえで、前例のない規模の洪水のインパクトに関する今後の研究計画を披露する。


第44回地球研セミ ナー(第31回レジ リアンス研究会)

日時:2010年6月17日(木)13:30-15:00
場所:地球研講演室
使用言語:英語

講演者: Tom P. Evans, 地球研招へい外国人研究員・インディアナ大学地理学科

タイトル: ザンビアの食料安全保障、気候変動、土地利用:小規模農村世帯の脆弱性とレジリアンスのための空間分析とモデル 発表者―

要旨:
 ザンビアの小規模農家は生活を脅かすさまざまなショックにさらされている。多くの小農は直接あるいは間接的に地域レベルでの穀物生産に従事しているため、特に気候変動は福祉と食料安全保障への脅威となっている。小農の気候変動に対する脆弱性を評価する際には、スケールに依存する関係を考慮しなければならない。このセミナーでは、多重空間スケールでの食料安全保障と小農レジリアンスを分析する手法を報告する。特に、世帯、コミュニティ、地域レベルでのレジリアンスを明確にする概念的アプローチを議論する。2007年に収集された世帯調査データからの結果を衛星データからの土地利用データと統合し、異なる空間スケールでの小農の脆弱性を評価する。将来的な気候の変動による小農の脆弱性を研究するメカニズムとしてエージェントベースモデル手法が示される。この手法は小農のレジリアンスを空間的に見る統合的重層アプローチの一部として提示される。


第30回レジリアンス研究会

日時:2010年4月10日(土)16:00-17:30
場所:地球研講演室
使用言語:日本語

講演者: 平井 將公 氏, 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科

タイトル: 生態資源の回復からみた生業の営み ―セネガルのセレール社会の事例―

要旨:
サハラ砂漠南縁の西アフリカのサバンナ帯には、人口密度が数百人/㎢にもおよぶ人口稠密な農村地域が多い。本発表では、これらの地域に共通する生業上の特徴である「集約的な農業」と「精緻な資源利用」に着目し、それらがいかなる技術的・制度的革新のもとに展開し、また近年の社会経済環境の変化を受けてどのように変容しているかについて、セネガルのセレール社会を事例として考察する。とくに、セレールの人々が生業の要として長年にわたって利用してきたマメ科高木のFaidherbia albidaに焦点をあて、その回復について生業との関連から詳しく説明する。


第29回レジリアンス研究会

日時:2009年10月30日(金)17:00-18:00
場所:地球研講演室
使用言語:日本語

講演者: 新保義剛 氏, 農林水産省近畿農政局土地改良技術事務所次長

タイトル: 技術協力の現場として見たアフリカの農業・農村

要旨:

サブサハラアフリカの小農の営農形態は、主として天水農業であり、特に南部アフリカにおいて灌漑施設を備えた大規模な商業農園と対照的である。しかし、小農にも多様性を見出すことはできる。サブサハラ地域の主食は主としてトウモロコシと小麦だが、同様にミレットやソルゴー等の雑穀も重要な食料である。さらに、ウガンダとその周辺では甘くないバナナが主食である。特に陸稲を含む稲は多くの国で重要視されている。日本の技術協力は、主食としてのトウモロコシやミレット等の雑穀の技術的背景は十分ではない。コミュニティーについては、井戸やため池を含む小規模の灌漑が農家グループにより運営されている。しかし、そのグループはモンスーンアジアの灌漑水利組合に比べると組織としての機能性は十分ではない。いくつかの小農をターゲットとする日本の技術協力では、乾季における灌漑を導入し、例えば市場向け園芸作物により農業収入の機会を創出し、農家のやる気を引き出して持続可能な農業の展開を目的とする。もちろん、主食の安定的な収穫確保も生活の安定と健康維持のため、重要であることはいうまでもない。残念ながら、政府が掌握する市場では主食穀物の価格は低い。そのため、主食穀物の収穫増加への意欲と収入機会の創出は両立しない。どのような技術、手段、手法がモンスーンアジアと全く異なるサブサハラアフリカの半乾燥地やサバンナに適当適切か、検討されなければならない。


第28回レジリアンス研究会

日時:2009年8月3日(月) 15:00-16:00
場所: 地球研セミナー室3、4
使用言語: 英語

講演者: Dr. Tom Evans, Department of Geography, Indiana University, Indiana, USA

タイトル: コモンプール資源システムの制度分析のための空間構造

要旨:

コモンプール資源システム(CPR)の動態は、多様な社会・経済および生物物理的プロセスによって生ずる。それらのシステムの空間構造はしばしば資源管理(森林、水、漁業資源)に影響を及ぼし、それらの資源がどの様に利用されるかを統治しながら制度や規則も発達させてきた。先行研究では、どの様な制度が社会・生態システム(SES)をレジリアントもしくは持続可能にするかを説明するためのフレームワークを扱っていたが、これらのシステムに固有の空間的関連を明確にはしていなかった。本研究の目的は、アクターと資源、そしてそのSES内の関係を、人間と環境の相互作用に固有の空間的関係に焦点を当てて記述するためのオントロジーを開発することである。コンピューターサイエンスではこのオントロジーという用語は概念的フレームワークの実行を意味する。分析のためには、オントロジーは個別のケース・スタディのデータをサイト共通のフォーマルなデータベースとして解釈するために利用される。このオントロジーを使って、どの空間構造がSESのレジリアンスや持続可能性に貢献しているのかを検討する。SESの多くの要素は明示的に空間的特長を持っており、それが部分的にアクターの近辺で資源や土地所有の規模へ影響を与えている。ここで提示するオントロジーは、システム内のアクターと資源に焦点を当て、空間的な特徴とシステムの動態に影響している制度的要因を関係づける。3つのケース・スタディ(アメリカ中西部の共有林、アメリカ南西部の灌漑ネットワーク、メキシコの漁業システム)から、どの様にこのオントロジーのフレームワークが個別のコモンプール資源システムおよび社会・生態システム一般に応用可能かを提示する。


第27回レジリアンス研究会

日時:2009年7月8日(水) 15:00-16:00
場所: 地球研セミナー室3、4
使用言語: 英語

講演者: Prof. C.R. Ranganathan, Tamil Nadu Agricultural University, Coimbatore, Tamil Nadu, India

タイトル: 気候変動が穀物の収量と収量変動及び食料生産最大化のための最適土地作付体系へ及ぼす影響の計量化 ―タミルナドゥ州の異なる農業気候ゾーンにおける計量経済分析

要旨:
本研究では、気候変動下での最適土地利用計画のフレームワークを提供する。気候変動が農業生産へ与える影響は多方面にわたる。すべての農業生産活動は非常に気候変動に対して敏感であり、作物収量の変動を伴う。よって、気候変動の影響を平均収量のみではなく、変動について研究することが必要である。定量的な情報は自然資源の賢明な利用と作付体系の最適化のために利用されるべきである。回帰分析を使った過去の研究では、平均生産性にのみ注目し、気候変動にともなう作物生産性の競合による最適作付体系にはあまり関心がなかった。都市化によって農業用地が減少している状況では、この問題はさらに重要度を増している。本研究では、この問題をタミルナドゥ州で生産されている主要作物について検討する。計量経済分析により、平均収量と変動収量、そして異なる作物収量の共分散を推計する。気候変動の影響を反映している推計された平均収量は、多目的線形計画モデルによって最大食料穀物収量、最大米収量、現在の作物生産を維持するための最小農業用地などの目的を達成するために利用される。最後に、本研究では、2020年のタミルナドゥ州の人口予測と最適食料穀物生産をリンクさせて、一人当たりの可能食料穀物量を決定する。研究の結果、降雨量と温度は生産性と穀物の変動にさまざまな影響を与え、またHADCM3A2aシナリオによる気候変動は、タミルナドゥ州の5区域での作物生産性への影響は小さかった。伝統的な稲作地区では変動の増加と共に生産性も増加した。一方、多くの他の穀物の生産性は減少し、同一的な変化はなかった。土地のみが制約である場合、気候変動による生産性の変化により、作物の最適配分により食料穀物の生産は増加する。これらの結果は政策決定者にとって人口予測下での穀物の供給と需要のギャップを知るために有効である。


第26回レジリアンス研究会

日時:2009年2月10日(火) 15:00-16:30
場所:地球研講演室
使用言語:日本語

講演者: 峯陽一, (大阪大学グローバルコラボレーションセンター(GLOCOL), 准教授)

タイトル: アフリカにおける人間の安全保障-「常」と「非常」の狭間で

要旨:
人間の安全保障の考え方は、UNDP(国連開発計画)の1994年版『人間開発報告書』で最初に打ち出され、2003年の緒方セン報告書によって拡張された。人間の安全保障は国家安全保障を相対化する枠組みであり、人々とコミュニティの下からのエンパワーメントを重視すると同時に、多国間組織に対して、脆弱な人々を保護する特別な役割を与えようとする。人々の不安全は、暴力的紛争、経済危機、自然災害、感染症の流行といったリスクの顕在化、すなわち唐突で深刻な下降によって引き起こされている。アフリカの多くの社会は、飢饉をはじめとする災害に歴史的に対処してきたが、状況はきわめて複雑になってきている。アフリカにおいては、構造的かつ長期的な貧困と状況的かつ緊急の貧困とが、歴史的に収斂しつつあるのである。今回の問題提起は実証的な事例研究ではなく、アフリカにおける人間の安全保障の観点から国際協力の政策的な枠組みを再考し、アフリカ史を読み直し、アマルティア・センのエンタイトルメント理論を再評価しようとするものである。


第25回レジリアンス研究会

日時:2008年12月5日(金) 16:00-17:15
場所:地球研講演室
使用言語:日本語

講演者: 坪 充(鳥取大学乾燥地研究センタ,准教授)

タイトル: 干ばつ対処:南アフリカ、そして南部アフリカ地域

要旨:
アフリカで最も深刻な自然災害は、餓死をも引き起こす干ばつである。1974年から1975年にかけてサヘル地域で起きた干ばつ災害の犠牲者は、32万5千人に達し、1984年のエチオピアとスーダンでは45万人もの死者が出た。アフリカ南部地域では、1992年に大干ばつが発生し、作物生育期の降雨不足のため、ジンバブエでは食料不足となり、さらに政府の不手際な政策により損失が拡大した。この危機的な災害から、干ばつ災害の防止・軽減のために干ばつ発生の事前および事後の災害管理の重要性が高まった。南アフリカは、干ばつ管理の最先端国の一つで、国や地方自治体の災害管理の統合的な運営システムを推進するために国家災害管理センターを設置しており、季節降雨を予報する気象局と連携することで干ばつ管理の強化を図っている。南アフリカのみならず南部アフリカ開発共同体(SADC)地域では、干ばつ災害を緩和するための運営上のシステム作りは、まだ初期段階にあり、干ばつ早期警戒システムの開発が急がれる。


第24回レジリアンス研究会

日時:2008年7月17日(木) 15:00-17:00
場所:地球研講演室
使用言語:英語

講演者: Tom Evans(インディアナ大学,地理学科;地球研招へい研究員)

タイトル: エージェントベースアプローチによる世帯レベルの森林伐採と植林のモデリング :ラオス,米国,ザンビアにおけるケーススタディーより

要旨:
社会・生態システムは本質的に複雑であり,それらの振る舞いを統制するマルチ 空間スケールにおける動力によって構成される.これらのシステムの重要な部分 は,どのように人間が相互作用するのか,これらの相互作用がどのように人間の 振る舞いを変えるのか,そしてそれらの動きがどのように生物物理学的な環境に 影響を与えるのかという点である.エージェントベースモデルはこれらの種類の システムダイナミクスを詳細に分析するための道具である.本セミナーでは,特 に森林伐採と植林という土地被覆変化について,社会生態システムにおける世帯 レベルでの行動を研究したエージェントベースモデル(ABMs)の過去の適用結果 について議論する.これらのABMsは,ある世帯がどのように土地利用を決定する のか,そして,その決定が分析対象の地域スケールにおけるマクロレベルの結果 にどのような影響をもたらすのかを分析することに用いられている.エージェン トベースアプローチはこのような種類の研究に有効である.なぜなら,ABMsはア クターとアクターの不均質の相互作用を特定するようにデザインされているから である.

この研究を実演するために,次の一連の研究結果を用いて例題が議論される予定 である.それは,1) 米国中西部における植林プロセス,2) ラオスにおける焼き畑農業からゴムプランテーションへの変遷,3) ザンビアにおける気候変動に対 する適応に関する研究のためのプロトタイプモデル,この3つである.本セミナー では,GISそして社会生態システムのスケール依存性を用いて,物理的な環境に 対する結合アクターの異なる方法についても議論する.本発表における全体的な 目的は,ローカルレベルアプローチのこれらの種類の研究における利点と不利点, 地球規模変化の人的側面に関する世帯ベース研究の新たな方向性について議論す ることである.


第23回レジリアンス研究会

日時:2008年6月18日(水) 15:00-16:15
場所:地球研講演室
使用言語:英語

講演者:Chileshe L. Mulenga (ザンビア大学社会経済研究所・研究員)

タイトル:
HIV/AIDSと頻繁な干ばつ下での世帯とコミュニティのレジリアンス −ザンビア・チパタのムワミ・アドベンティスト病院地域住民の事例

キーワード: 農村、世帯、コミュニティ、HIV/AIDS、頻繁な干ばつ、貧困、老 年層、若年層と社会化

要旨:
農村地域コミュニティは社会経済や生態系のショックに対し、世帯とコミュ二 ティの2つのレベルで対応する。世帯やコミュニティレベルでの対応は、社会文 化的基盤としての世帯の結束やコミュニティの存続を目的としている。ザンビア 地方におけるHIV/AIDSの高罹患率は、世帯やコミュニティ全体の存続に深刻な影 響を及ぼしている。最近の雨期の乾燥化による不作によりこの状況はさらに悪化 しており、食料不足や資産の損失を引き起こしている。すでにHIV/AIDSによって 負荷を与えられた世帯とコミュ二ティは近年の頻繁な干ばつでさらに貧窮の度合 いを深めている。

ムワミ・アドベンティスト病院診療域の世帯とコミュ二ティでは、HIV/AIDSの 脅威と頻繁な干ばつに耐えるために社会・文化的な変革が求められている。若年 層の適切な社会化と頻繁な干ばつに耐えうる農業生業システムへの移行が、世帯 とコミュ二ティのレジリアンスにとって必要である。

HIV孤児の社会化へは問題が多くあり、その原因は保護者が圧倒的に老齢の祖母 であり、保護者自身がサポートを必要としていることに加え、女性であることが 女性と男性の社会的役割分担により、孤児を若い男性と社会化させることを困難 にしている。また、老齢の保護者は身体的に弱く長距離を歩けないことから、地 域での生活に必要な野生果実、根菜類、食用昆虫、小動物の知識を効率的に伝達 することが出来ない。農業による生業システムを変えることは他の農業システム に関する知識と経験不足のため同様に困難である。貧困のため補助なしに技術的 な解決策を取ることは難しい。

HIV感染を防御する若年層の社会化、頻繁な干ばつに耐えうる生業システムが農 村地域の世帯とコミュニティのレジリアンスにとって非常に重要である。


第22回レジリアンス研究会

日時:2008年4月11日(金) 15:00-16:15
場所:地球研講演室
使用言語:英語

講演者: Dr. Lawrence Flint(地球研招へい研究員、ENDA)

タイトル: 急激な環境変動下の社会生態レジリアンス−ザンベジ河上流渓谷氾濫源における気候変動への適応
要旨:
 近年、食料、水、繊維、エネルギーの需要拡大を満たすため生態システムからいまだかつてない供給を求めるようになった。これらの需要は生態系のバランスに圧力を与え、自然環境が許容量を取り戻す能力を減少させ、生態系サービスを供与する能力を弱体化させた。社会経済開発と環境持続可能性との間に明らかな緊張関係が存在している。
 生態系の財とサービスの減少を引き起こした直接的な原因は、生息地の変化、外来種の侵入、枯渇、汚染や気候変動と変化などである。これらのプロセスは社会生態的レジリアンス喪失の脅威を与え、環境と社会経済変化の双方に対する感度を高める。
 本報告では、社会経済の脆弱性とレジリアンスを検討する科学的方法、特にこれら広範囲の問題に対する学際的アプローチについて議論する。また、脆弱性に対する社会経済レジリアンスと適応の本質を分析する。レジリアンスに影響を与えている政治経済、社会文化的ネットワークとダイナミズムについて歴史的、現代的生産の文脈の中で議論することによって説明される。
 経済活動と「河川文明」を擁する人間の居住地域である氾濫原生態システムを研究の対象とする。事例として現在生物物理的、社会経済的変化を示しているザンビア西部ザンベジ河上流渓谷のBulozi「自然」氾濫原に焦点を当てる。この氾濫原は現在のLozi民の祖先が居住し、彼らは生態財とサービスを氾濫原から得、強力で活気に満ちた政治経済を生み出してこの地域を独占し、余剰食料を使って軍を擁し経済的機会を享受した。
 今日、Buloziは低開発の地域とされており、この状況は気候の変動によって悪化しているが、この要因は長い年月の間に社会的に蓄積された脆弱性に対して追加の要因となるのみである。本報告ではBuloziの脆弱性の原因とレジリアンスを高めるための適応的能力を議論する。
 人々の外的内的圧力に対して適応し、社会生態システム(SES)のバランスを維持する能力は、在地的「所有」の立場から問題に対処する能力に依存している。同時に、社会生態システム(SES)のバランスを保全しながら、社会が生活水準を向上する機運、コントロール、動機を再び取り戻すためには、現在の生産行為を修正し、生産活動を多様化する彼らの能力に依存している。


第21回レジリアンス研究会

日時:2008年2月15日(木)15:00-16:30
場所:地球研セミナー室1・2
使用言語:日本語

講演者:
伊藤千尋(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
中村哲也(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

タイトル及び要旨
** 
「農民の生計戦略としての出稼ぎ労働—ザンビア南部州の事例から—」
 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 伊藤千尋
要旨:
アフリカ農村は農業を基盤としているが、現金経済の流入によって農業のみで生計を 維持することが困難となっている。そこで、農民は生計を多様化させ、起りうるリス クに対応してきた。ザンビアの農村地域でも、農業活動は現在に至るまで重要な世帯 収入源となっているが、古くから「出稼ぎ労働」をはじめとする農外活動が農家世帯 の経済にとって重要な役割を果たしてきた。
ザンビアは植民地期から国内外への労働移動が盛んであったが、それらは鉱山やプラ ンテーションへの労働力供給という文脈で発生し、現在の農村からの出稼ぎ労働とは 形態も背景も異なっている。そこで、本報告では出稼ぎ労働を農民の生計戦略の一つ として捉え、農村への影響とその役割を明らかにすることを目的としている。今回の 発表では、調査村における出稼ぎ労働の特徴を紹介し、その役割を検討したい。
** 
「ザンビア南部丘陵地における農耕民トンガの生業に関する研究」
 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 中村哲也
要旨:
1950年代後半に、ザンビア南部のザンベジ河ではダムの建設に伴い、大規模な人口湖 がつくられた。その結果、5万人以上のトンガ人が移住を余儀なくされ、湖畔平野部 へと移動した。しかし、彼らはそこで、干ばつと慢性的な土地不足に悩まされ続け た。こうした背景のもと、平野部から再び移住する人が現れ始め、調査地はその候補 地のひとつであった。
調査村は、湖畔平野部と高原地帯の間のミオンボ林に覆われた丘陵地に位置する。発 表者は、平地で農業を主たる生業として暮らしてきた「農耕民」トンガが、丘陵地と いう環境のなか、どのような生業を営み生計を維持しているのかについて、彼らの社 会構造との関連で考察することを目的としている。


第20回レジリアンス研究会

日時:2007年11月22日(木)15:00-16:30
場所:地球研セミナー室3・4
使用言語:英語

講演者: Prof. Gear Kajoba, University of Zambia (招へい外国人研究員)

タイトル:VULNERABILITY AND RESILIENCE OF RURAL SOCIETY IN ZAMBIA: FROM THE VIEW POINT OF LAND TENURE AND FOOD SECURITY ( ザンビア農村社会の脆弱性とレジリアンス - 土地所有制度と食料安全保障の観点 から)

要旨:
 植民地前のザンビア農村社会では、農業システム生態系は一般的な環境条件に対し 持続的かつレジリアントであり、従来の共同体的な土地保有の下で食料安全が保証さ れた。
 しかし、植民地政策による労働移動と土地分配により、Bemba族のチテメネシステ ムやLozi族の氾濫原での耕作等の生産システムは影響を受け、男性不在により農村地 域の脆弱性が高まる結果となった。一方、ザンビア南部のトンガ族は、ハイブリッド メイズや牛耕等の近代的耕作技術を積極的に導入し、土地制度も共同体的所有制度か ら個人所有へと変化させ、レジリアンスの高さを示した。
 1964年の独立以来、UNIP政権は強力に地域開発を推し進め、メイズ生産の補助 や、植民地政府の土地制度を維持する保守的政策を実施した。しかし、食料安全は保 障されず、小規模農民が政府とメイズのみの生産に過度に依存する状態となった。  MMD政権により1991年から2001年までに実施された新リベラル政策は、天 候の不順も災いし、政策や環境変動に対する食料生産システムの脆弱性を増大させ た。しかし、2001年以降現在に至るまで、土地所有のエンパワーメント政策によ り、男性女性ともに土地所有を保証し、地域社会のレジリアンスを再構築するための 政府の介入政策が行われており、国家と世帯の食料安全保障を推進する努力がなされ ている。


第19回レジリアンス研究会

2007年7月30日(月) 15:30-16:45 (地球研 講演室)(日本語)

タイトル:聖書を生きる—南部アフリカの社会変動とその対応としてのキリスト教独立教会の展開

発表者:吉田 憲司 (国立民族学博物館)

要旨:
1990年ごろを境に、アフリカのザンビア東部州では、人びとのキリスト教への入信と聖霊憑依の急激な増加をみた。発表者が過去10数年にわたって追い続けてきた、ザンビアにおけるズィオン聖霊教会の活動の現状を報告するとともに、その淵源を南部アフリカ全体に探る。


第18回レジリアンス研究会

2007年6月20日 15:30-16:45 (地球研 セミナー室3&4)(英語)

タイトル:適正技術のための土壌管理オプションの融合と環境変動下での生態レジリアンス

発表者:Moses MWALE (Zambia Agricultural Research Institute)

要旨:
(訳)食料へのアクセスの不足と食料供給量の不足はアフリカでの主要な問題であり、人間の福祉と経済成長のための基本的な課題である。低農業生産は、低所得、栄養不足、リスクへの脆弱性、エンパワーメントの欠如をもたらす。アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)は、食糧安全保障と持続的国家経済を確保するために年間平均6%の農業生産性の増加が目標である。土地荒廃と土壌肥沃度の枯渇、すなわち土壌養分の枯渇が、半乾燥熱帯(SAT)での食糧安全保障と自然資源保全に対する大きな脅威であるとかんがえられている。アフリカでは、農民に経済力を与えること、効率的で、有効な、手頃な農業技術を用いて持続的な農業集約化を推進することによって、貧困と土地荒廃の間にあるサイクルを壊すことが必要である。そのような手頃な管理システムは貧しく、小規模な生産者にとって利用しやすく、そのアプローチは技術的、制度的な変化を促進するために全体論的でありダイナミックでなければならない。 本論文は、ザンビアでの土壌とその管理に基づく知識を普及することが目標である。土壌保全と保全型農業の問題を含んでいる。主な取り組みは、1.土地荒廃を軽減するのに利用可能な技術を棚卸しすること、そして農民参加型アプローチから農民の事情を踏まえた最善の策をどのように示し、適用するかということ、2.適切なツール、方法、戦略の利用を通じて持続的な土地管理やマーケティングオプションのための最善の策を拡大すること、3.環境変動下で結果として生じる生態レジリアンスを研究することである。


第17回レジリアンス研究会

2007年4月23日 15:30-16:45 (地球研 セミナー室1&2)(日本語)

タイトル:アフリカの生態環境と人口扶養力

発表者:荒木 茂(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 教授)

要旨:
アフリカ大陸の人口分布は,地域の生態環境に根ざした在来の生業,農業に依存して著しく不均一であり,ザンビア南部州における干ばつに対する自然的,社会的レシリエンスを考える場合も,地域農業の実態把握が不可欠である.これまでにおこなったタンザニア,ザンビア,ナミビアの生態環境と農村調査をもとに,耕地の拡大と人口の動態がどのような状況にあるのかを概説し,ザンビア南部州の農業理解の一助とする.


第16回レジリアンス研究会

2007年2月22日 15:30-17:00 (地球研 講演室)(日本語)

タイトル:ザンビア南部における農村女性の現金稼得戦略

発表者:成澤 徳子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻 博士課程)

要旨:
ザンビア南部のトンガ農村社会において、従来、現金稼得は主に男性の役割 で、女性の現金収入源は地酒の醸造・販売にほぼ限られていた。90年代以降、市場経 済化や旱魃・牛疫の発生等による一連の複合的影響により、トンガにとって、従来の 生業である農業と牧畜からの現金収入が減少している。これは女性にとっては、男性 が持つ現金にアクセスする機会が減少していることを意味する。そのなかで、女性の エンパワーメント向上を目的とする開発プログラムが近年活発に行われてきたが、女性たちがいかにして個人的な現金稼得を実現しているかについてはいまだ明らかにされていない。そのため本発表では、ザンビア南部州モンゼ県東部の農村で行った現地調査の結果をもとに、近年の社会経済変容のなかで、トンガの女性たちが現在どのように生業を多様化し、現金稼得活動を展開しているのかを明らかにすることを目的とする。その結果、男性を含む当該社会に受容されやすい形で女性たちが個人的な現金へのアクセスを実現してきた過程には、ローカルな社会活動空間を自分 たちの「いちば」に組み替える彼女たちの創造的実践があることを提示する。


タイトル:ザンビア南部、グウェンベ渓谷におけるソルガム栽培

発表者:淡路 和江(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻 博士課程)

要旨:
ザンビアの南部に位置するグェンベ渓谷は、国内でも最も降水量の少ない地域 のひとつであり、たびたび大規模な干ばつの被害を受ける地域として知られている。 このように厳しい自然環境のなかで、地域住民は比較的耐乾性の高いソルガムを基幹作物として、その特徴を生かした農耕を営んでいる。今回の発表では、グェンベ渓谷で行われているソルガム栽培に注目し、不安定な気候条件下でのソルガムの栽培管理の特徴を作付体系と品種の特性から明らかにする。


第15回レジリアンス研究会

2006年11月9日 15:30-17:00 (地球研 セミナー室1&2)(日本語)

タイトル:早期警戒システム(Early Warning System: EWS)への国際社会の取り組み~国際機関とエチオピアの動向を中心に~

発表者:飯塚 裕貴子(内閣府 国際平和協力本部事務局)

要旨:
自然災害や紛争が多発している国々では、国際機関や援助組織が主導する「早期警戒システム」が人々の食料安全保障に寄与するものとして構築されてきた。しかし、近年は、従来のデータ収集にもとづいた早期警戒分析にくわえ、より政治・社会要因を考慮した分析が注目を集めている。たとえば、国連食料農業機関(FAO)では、早期警戒システムの効果をさらに高めるために、社会のレジリアンス・フレームワークを構成する要素として、政治社会的要因を盛り込んだアプローチ(Twin Track Approach: TTA)が議論されている。一方、サハラ以南のアフリカ諸国のなかでは、エチオピアにおいて、もっとも早く旱魃の早期警戒システムが導入され、国際機関の協力のもと、長年にわたってEWSの組織づくりが進められてきた。今回の発表では、国際機関における最新の議論をふまえたうえで、おもにエチオピアのEWSの歴史や情報収集体制について報告する。FAOを含めた国際社会が進めるTTAなどの新しい取り組みからみたとき、現実にアフリカで実施されている早期警戒システムにどのような問題点があるのか。アフリカの旱魃対応における“人間安全保障”の課題と可能性について考えてみたい。


第14回レジリアンス研究会

2006年10月2日 15:30-17:15 (地球研 セミナー室1&2)(日本語)

タイトル:インド・ミゾラム州のメロカンナ大開花が及ぼす影響

発表者:柴田昌三(京都大学大学院地球環境学堂・助教授)

要旨:
インド・ミゾラム州を中心とする数万k㎡にわたる地域には、Melocanna bacciferaというタケ類が分布している。多くの竹種の開花周期が明らかでない中で、本種は数回にわたって48年に一度の開花が記録されている世界でも希有の種であり、その生態的な開花特性の解明が試みられている。2007年は開花の年にあたっており、大きなチャンスである。一方、前回の開花時と比較してミゾラムの社会構造は大きく変化しており、定住化の促進と焼畑農地の管理方法の変化が、メロカンナの開花によってどのような影響を受けるのか、は従来、メロカンナの開花がミゾラム社会に壊滅的打撃を与えてきたとされることを考えた時、興味の尽きない点である。

タイトル:ザンビアフィールド調査報告

発表者:吉村充則(地球研・助教授)


第13回レジリアンス研究会

2006年7月27日 16:00-17:30 (地球研 セミナー室1&2)(英語)

タイトル:気候リスクへのレジリアンスを高めるための気候情報の適用―インドの事例

発表者:Prof. V. Geethalakshmi(地球研招へい外国人研究員、タミルナドゥ農業大学気象学部)

要旨:
(訳)リスク管理の計画は気候の変動を考慮に入れ、洪水や旱魃などの災害の傾向を同定し、対応する能力を高めなければならない。過去における気候の時空間変動の予測とモニターの分野での格段の進歩にもかかわらず、気候の極端な変動は人々の資産や生命の損失を招く原因となっている。1990年代、世界中で自然災害は500-600回発生し、6000臆ドルの損失と20臆人に被害を与えた(Anthes, 2005)。自然の気候変動、地球温暖化と気候変動の影響と程度、人口増加とそれに関連する問題、これらの変動に対する社会と人間の反応には多くの不確実性が存在する。しかし、これらの不確実性は気候リスクに対して対峙し、管理しない言い訳にはならない。過去のトレンドと将来に起り得る変化に対する地域の理解は、気候関連のリスク管理戦略を考える際に役立つ。早期警戒システムはリスク管理と計画の重要な部分である。予期すること防御は緊急時に対応するよりも効果的でコストも低い。インド亜大陸のケーススタディを例としていくつか紹介する。


第12回レジリアンス研究会

2006年7月3日 (地球研 講演室)(英語)

共催:コモンズ研究会、琵琶湖-淀川プロジェクト

タイトル: 制度分析の研究方法を求めて:資源管理制度の多様性からの視点

発表者:Elinor Ostrom(インディアナ大学・政治理論と政策分析ワークショップ代表)

要旨:
(訳)政策分析について書かれた多くの教科書では、政治・経済発展や持続的資源を達成するために制度の重要性が強調されている。しかし、研究者によって制度の意味も異なり、その分析方法もかなり様々である。昨年プリンストン大学から出版された拙稿Understanding Institutional Diversityで提示した制度分析と開発 Institutional Analysis and Development (IAD)の枠組みを概説し、共有資源(灌漑、森林、牧草地、漁業資源)に関連したフィールド調査から発見したルールの多様性を示しながら、その枠組みを掘り下げる。多様なルールが存在することから、複雑な社会・生態学の課題に対して単純に解決策のみを提示する問題点を指摘し、政治的提案に際しては非常に謙虚であることを提案する。我々が直面する多様な問題に対処するには、解決に向けたよりよい制度の青写真を知っているかのようにふるまうよりも、人々が長年の経験に照らし合わせてよりよいルールをつむぎだせるような条件を整備することのほうが、より有効な方策となる。地域の状況と変化に適応できる制度を構築することによってレジリアンスを高めることが可能である。


第11回レジリアンス研究会

2005年11月25日 15:00-17:30 (地球研 会議室)(日本語)

タイトル:西アフリカ、マリ共和国における現地気象観測(2001-2004)

発表者:菅野 洋光 (かんの ひろみつ)((独)農業・生物特定産業技術研究機構東北農業研究センター連携研究第1チーム長)

要旨:
西アフリカマリ共和国において、JIRCASのプロジェクト「西アフリカの気象変動予測の高度化による穀物生産のリスク軽減技術の開発」のもと、2001年~2004年まで現地気象観測を行った。マリの南西部の2つの村を調査サイトとして選定し、それぞれに気象観測装置1台(気温・湿度・風・気圧・雨量)と雨量計15台を展開し、村の気象状況を詳細に観測した。その結果、(1)降水量の村内の特徴的な分布パーン、(2)朝と夕に集中する降水現象、(3)雨季のステージが分かれること、(4)湿度・気圧等の特徴的な季節変化、などが明らかになった。この他、気象台の観測データ解析による降水帯の季節内移動の把握、高層データ解析による季節変化の把握なども行った。さらに、(1)空港からの機材持ち込みに関するトラブル、(2)シロアリに木製台座が食われて雨量欠測事件、(3)牛にケーブルをかじられて欠測事件、(4)原因不明のデータロガーストップ現象、など、失敗談も入れてご紹介したい。最後に東北地方における農業と気象について手短にご紹介して、アフリカとの比較を行えればと思っている。

タイトル:圃場特異的な降水量変動に農家はいかに対処しているか:西アフリカ,マリにおける実証

発表者:櫻井 武司(農林水産省 農林水産政策研究所 アジアアフリカ研究室 主任研究官)

要旨:
JIRCASの「西アフリカの気象変動予測の高度化による穀物生産のリスク軽減技術の開発」プロジェクトでは,2001年~2003年にわたり,マリの南西部の2つの村で農家家計調査と現地気象観測を行った。それぞれの村の各所に設置した15台の雨量計により各圃場の降水量を測定したところ,農家は自分の圃場の降水量変動を経験的に予測し保険的行動を行っていること,また自分の圃場で少雨を経験した農家は事後的な所得補償行動をしていること,を確認した。このことは,一つの村という狭い空間内においても,降水量の変異は大きく,それに対処する農家の行動にも多様性があること示している。すなわち,地域レベルで定義する「旱魃」は,個々の農家の経済厚生を必ずしも反映していない可能性がある。


第10回レジリアンス研究会

2005年10月21日 15:00-17:30 (地球研 会議室)(日本語)

タイトル:「持続可能な開発」理念の再構築:生態系レジリアンスを軸として

発表者:小嶋公史(こじま さとし)((財)地球環境戦略研究機関(IGES)長期展望・政策統合プロジェクト研究員)

要旨:
1987年に出版されたブルントラント報告書によって提唱されて以来、「持続可能な開発」の理念は人類共通の目標として、国際政治の場をはじめ様々なレベルで使用されてきた。しかし「持続可能な開発」が具体的に何を意味するのか、その実現にはどのような施策が必要なのかについて、膨大な議論・研究がなされてきたにも関わらず、共通の認識は形成されていない。本発表では、「持続可能な開発」の目的を「持続可能性に関する制約条件を満たした上で、現代世代の貧困を撲滅すること」と定義し、持続可能性制約条件として「生命維持システムを支える生態系のレジリアンスを損なわないこと」と定義することを提言する。その中で、持続可能性を追及する学問としてのエコロジー経済学の最近の動向について触れる。また、そのように定義された「持続可能な開発」を政策分析に反映する試みの一つとして、モロッコの水問題を対象としたケーススタディについて簡単に紹介する。


第9回レジリアンス研究会

2005年7月21日 15:00-17:15 (地球研 会議室)(日本語)

タイトル:ザンビア東部における社会変容と農地利用の変化-チェワ農民による新しい畑の創出をめぐって-

発表者:吉川竜太(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻)

要旨:
1980年代半ば以降の農業政策の変遷に農村社会がどのように対応してきたのか、栽培作物と農地利用に焦点を当て明らかにする。また、その対応と居住形態の変化との関連性についても考察する。

タイトル:コーヒーの国際価格変動に対する農村社会の対応―エチオピアにおける1990年代の経済自由化と『コーヒー危機』

発表者:松村圭一郎(京都大学大学院人間・環境学研究科・助手)

要旨:
コーヒー価格自由化後の経済変動のなかで、コーヒー栽培に依存する農村 部がいかに対応してきたのか。価格の乱高下に見舞われた1990年代半ば以降のローカル 社会の動きを、土地利用変化など農民の生業活動の変化と社会変容という面から捉える


第8回レジリアンス研究会

2005年6月10日 11:00-12:15 (地球研 会議室)(日本語)

タイトル:湖沼生態系のレジリアンスに関する最近の研究紹介

発表者:谷内 茂雄(地球研・助教授)

要旨:
湖沼生態系におけるレジリアンスに関する、最近の研究紹介をおこなった。最近の生態学における、生態系に関する見方の変化、レジリアンスという考え方の意味を整理し、Carpenterなどによる実験と比較、モデルを組み合わせた、湖沼のレジームシフト研究の紹介をおこなった。参考文献:Kathryn L. Cottingham and Stephen R. Carpenter "Predictive Indices of Ecosystem Resilience in Models of North Temperate Lakes" Ecology, 75(7), 1994, pp.2127-2138.


第7回レジリアンス研究会

2005年4月28日 15:00-17:30 (地球研 会議室)(日本語)

タイトル:生業活動と環境保全の両立を目指す村落開発の試み-タンザニアでの事例から-

発表者:田中樹(たなか うえる)(京都大学大学院地球環境学堂 陸域生態系管理論分野・助教授)

要旨:
東アフリカの山地帯では、増加する土地圧力の下、生態環境や土地資源が急激に劣化しつつある。深刻な現実として、劣化の主な原因は、食料や世帯収入を得るための現地の人々による日常的な生業活動である。人々のニーズとこれらの問題を同時に解決し、加えて地域社会の活力を高めるような具体的な活動オプションを示すことが強く求められている。この発表では、タンザニア東部のウルグル山塊での村落開発活動を通じて得られた経験や発見を、特に住民参加が持つ潜在性や在来生業システムにある知識や技術の活用の仕方、そして関与する外部者の役割に注目しつつ紹介する。紹介する活動オプションの例は、「養蜂を通じての木を植えないで森を回復する活動」、「伝統的な焼畑耕作が持つ潜在的な食料安全保障の仕組みの再評価」、そして「伝統的屋敷林システムの構成要素にバニラを加えることによる焼畑耕作での間接的な労働負荷の軽減と世帯収入源の創出」である。


第6回レジリアンス研究会

2005年2月14日, 10:00-17:00 (地球研 会議室)

レジリアンス インキュベーション セミナー


第5回レジリアンス研究会

2004年10月25日, 13:00-17:00 (地球研 会議室)


第4回レジリアンス研究会

2004年9月27日, 13:00-17:00 (地球研 会議室)


第3回レジリアンス研究会

2004年7月26日, 13:00-17:00 (地球研 会議室)


第2回レジリアンス研究会

2004年6月28日, 13:00-17:00 (地球研 会議室)


第1回レジリアンス研究会

2004年5月31日, 13:00-17:00 (地球研 会議室)


その他のセミナー

地球研セミナー

Date and Time: 16:00-17:30 Wednesday 23rdMay 2007
Venue: Research Institute for Humanity and Nature (RIHN) Lecture Hall

Title: Social and Biophysical Dynamics of Reforesting Systems: Tensions between Macro-scale Theories and Local-scale Findings

Speaker: Tom P. Evans1 and Jacqui Bauer2
1 Associate Professor, Department of Geography and Co-Director of Center for the Study of Institutions, Population and Environmental Change (CIPEC), Indiana University
2 Assistant Director, Workshop in Political Theory and Policy Analysis, Indiana University

Historical trajectories of land cover change in developed countries have provided the basis for a theory of forest transition. To briefly summarize, Forest Transition Theory (FTT) suggests that nations experience dramatic deforestation during a frontier period of heavy resource use and this deforestation phase is eventually followed by a period of reforestation after some period of economic development. A considerable amount of research has focused on the drivers of deforestation but we have a less complete understanding of the diverse factors contributing to reforestation and the prospects for a transition from deforestation to reforestation in different economies. This presentation summarizes research findings to date from a project examining this deforestation-to-reforestation process in the Midwest United States and compares the context there to the potential for reforestation in other regions (in the US and internationally). In this analysis we address how local level findings can elaborate on generalizations within the context of FTT. We also present the framework for a community-level study of livelihoods and natural resource management in Uganda, Kenya, Mexico, and Bolivia. Decentralization and property rights reform policies formulated at the national level for large geographic domains often fail to account for the complexities involved in land use at the local level, and can thus fall short of their goals of sustainable natural resource management and improving local livelihoods. The project is a combined effort of Indiana University’s International Forest Resources and Institutions (IFRI) program, the Center for International Forestry Research (CIFOR), and the Program on Collective Action and Property Rights (CAPRi/International Food Policy Research Institute) to identify the institutional conditions and interactions that will deliver benefits equitably to local people while sustaining natural resources.

植生システムの社会生態ダイナミックス:マクロ理論とローカルな知見の不整合
[要旨]
途上国における植生被覆の歴史的変遷は、森林変遷理論の基礎を提供してきた。それは森林変遷理論(FTT)によれば、国家は資源消費が高い開拓時代に急激な森林伐採が起こり、この森林伐採の段階はある程度の経済開発の後に植林の段階を迎える。多くの研究が森林伐採の要因を分析しているが、植林に貢献している要因や、異なる経済環境で森林伐採から植林へ以降する見通しに関する知見は少ない。この発表では、アメリカ中西部で森林伐採から植林へ移行するプロセスを検証するプロジェクトの現在までの成果を要約し、アメリカやその他の地域での植林の可能性について比較検討する。いかにローカルレベルでの知見を森林変遷理論についての一般化へ使うことが可能かを示す。また、ウガンダ、ケニア、メキシコ、ボリビアでの生業と自然資源管理のコミュニティレベルでの研究の枠組みを提示する。広い地理的範囲での国家レベルの分権化と所有権制度の改革政策は、しばしばローカルレベルでの土地利用の複雑性を反映することが出来ず、結果として持続的自然資源管理と地域の生業改善の目標達成を困難にしている。このプロジェクトは自然資源を持続させ、地域住民の公平な便益を供与する制度条件と相互関連を模索するための、インディアナ大学国際森林資源と制度プログラム (IFRI) 、国際森林研究センター (CIFOR)、集団的行動と所有権プログラム (CAPRi/) による共同研究である。

Tom P. Evans is an associate professor in the Department of Geography, Co-Director of the Center for the Study of Institutions, Population and Environmental Change, and faculty affiliate with the Workshop in Political Theory and Policy Analysis at Indiana University. His research interests lie in the study of human dimensions of global change, modeling social-ecological systems, geographic information systems, remote sensing, and land use/land cover change. His current research focuses on the study of land cover change and more specifically the drivers and constraints to forest regrowth at a set of international field sites (United States, Brazil, Guatemala, Bolivia, Laos and China). Dr. Evans completed his Ph.D. in geography from the University of North Carolina at Chapel Hill (USA) where his research focused on deforestation in Northeast Thailand. He is currently serving as a Visiting Fellow at the East-West Center in Honolulu, Hawaii (USA).

Jacqui Bauer is the Assistant Director of the Workshop in Political Theory and Policy Analysis at Indiana University in Bloomington. She has a Bachelors Degree from University of Michigan in Japanese Language, and a Masters in Public Affairs and a Masters in Environmental Science from Indiana University. Prior to coming to the Workshop in 2005, she worked for over five years with the Indiana Rural Community Assistance Program, three of them as State Director. This organization works with low-income rural communities throughout the state to address drinking water and sanitation concerns. In her current position, she oversees a project, funded with money from the US Agency for International Development, to evaluate the effects of decentralization on forests and livelihoods in Uganda, Mexico, Kenya, and Bolivia. Her interests include developing a better understanding of community forestry in Japan and Southeast Asia (especially Vietnam) and rural water and sanitation issues in Vietnam.


最終更新日: 2013-02-01 17:14 JST Jump to Top Page Top