ユーラシア中央部乾燥地帯のオアシス地域では,地球規模変動に連動した水資源の変化に対応して、人々の生活の場や生業の形態が歴史的に大きく変化してきました。たとえば、遊牧と農耕との共存の時代、あるいは両者が競合した時代などが、時間とともに変遷してきました。さらに農耕が次第に優勢になる過程において遊牧が衰退し、最近では砂漠化の進行によって農業を基本とする人々の生活基盤も脅かされてきています。

 このように水循環過程の変動に人間の生活が強く規制されているオアシス地域においては,適切な水利用体系を確立することが必要です.ユーラシア乾燥域における、人間の生活と自然環境との相互作用の長い歴史のなかには、水利用体系を確立するための重要なヒントがあるにちがいありません。

 

 そこで,この「オアシスプロジェクト」は、中国のオアシス地域において、過去2000年間にわたる人間と自然系との相互作用の歴史を復元することを目的としています。研究対象として、中国の甘粛省の黒河流域を選びました。黒河流域は、歴史的にまた人間文化の形成にとって最も重要なユーラシア中央部に位置します。この地域にて、水資源と水需要にかかわる素過程の観測・解析を行い、出土した歴史文書一次資料や各種プロクシーの解析データを組み合わせて、人間文化の変遷を明らかにしていきます。人間と自然系との相互作用にかかわる過去を紐解くことによって、人間にとって「発展性」とは何か、「持続性」とは何かという、いわゆる地球環境問題の本質に迫ろうとしています。

   オアシスプロジェクトでは、歴史文書やプロクシーの解読による歴史的データの復元研究とそのデータを解釈するための素過程解明研究とに大別されます。素過程研究としては、降水量変動や氷河変動などによる水の供給量の変動がどのように起きているか、河川や地下水による流出過程、また灌漑農業や遊牧産業に水がどのように使われているかなど水の循環過程を、現地観測や聞き取り調査などにより明らかにします。
 黒河は、氷河を頂く祁連山脈に発し、その山麓域からシルクロードを横切って北流し、沙漠域を越えて草原域へと続き最後に居延澤に注ぎ込んで消滅する典型的な内陸河川です。その流域では、近年のみならず2000年の昔から、人為的な農地の拡大政策が断続的に行われてきており、草原生態系とのせめぎあいが続けられてきた歴史的に大変重要な地域です。

 黒河流域には、遠く漢の時代から多くの一次歴史文書が出土していることに加えて、雪氷コアや年輪試料、湖底堆積物試料など様々なプロクシーを採取することができます。これらを解析したデータと現在の水循環の素過程研究とを組み合わせて2000年にわたる人間と自然系との相互作用の歴史を明らかにします。
 時の権力の変遷に伴い、農業と遊牧とが2000年もの長きにわたり共生と抗争とを繰り返してしてきました。どの時代に「発展性」があり、どの時代が「持続性」があったのでしょうか。

 

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