ワークショップデザインの考え方 |
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一枚の絵をじっくり見る、自分の読み取りをもとにコミュニケーションするという活動は、鑑賞教育の一手法といえるでしょう。しかし、このワークショップはそれ以外にも、多くの学びの可能性を内包しています。たとえば、コミュニケーション力、言葉による表現力の育成があげられます。また、総合的な学習の時間のテーマとして取り上げられることの多い次の3つの学習に寄与します。
国連子供環境ポスターは、世界の子どもたちが環境について感じたこと、伝えたいことが表現されています。しかし、その読み取りに正解があるわけではなく、また環境について多くの知識を保持することを要求することもありません。絵はどれも、見るものが地球環境についておのずと考えるように描かれており、絵の中の様子をつぶさにみていくことで、誰もが自己の視点で絵の中の出来事を読み取り、メッセージを編むことが可能となっています。子どもたちは、絵の向こうにいる自分と同じ年代の作者の思いを意識し、また第三者へとその思いを伝えるという活動を通して、環境問題を他人事ではなく自分の問題として捉えることができます。
このワークショップで、自分の選んだ絵がどこの国や地域のものであるかが子どもたちに伝えられるのは、活動全体の終盤になってからです。その国名には子どもたちに馴染みのないものが多く含まれています。しかしながら、絵をじっくり見、描き手のことを慮り、その代弁者になる活動は、描き手とつながっているということを自ずと育むということが、子どもたちのコメントから読み取れます。どこにあるどんな地域のことかはわからなくとも、地球上のだれかと深い関わりを持ったことが実感されていました。だれもがいろんなことを考えていること、遠く離れた場所にあっても共通することがあり共感し合える思いのあることに気づくことが、一枚の絵を介して可能となるのです。また絵は、使われている紙の質感にも、色づかいにも、なにかその地域らしさがあり、日頃よく目にする日本の子どもが描いたものとは違う印象を与えます。ポスター全体が持つ個性が文化的背景を伝えてくれているのです。様々な地域の子どもが描いた絵を使うことで、自ずと国際理解がはじまります。
活動の中には、情報の受け手としての立場、送り手としての立場の双方が含まれており、子どもらは、それぞれの立ち場から絵や社会と向かい合うことになります。一方的に絵を解釈するだけでなく、その解釈について子どもたちで吟味する機会(グループによる絵の分類)や、描き手に問う姿勢(手紙)を持つことで、情報の背後にある人や社会、また表象の対象となるものへの真摯な姿勢が育まれます。また、情報を受け取り、伝えることの難しさやあやふやさも全てのフェーズの中で感じとることができます。
(佐藤 優香)