第51回 地球研市民セミナーが開催されました

地球研には、世界各地のフィールドで調査をしつつ、日本でもフィールドをもって活動している研究者が少なくありません。今回の地球研市民セミナーでは、まさにそうした研究者の一人、「東南アジアにおける持続可能な食料供給と健康リスク管理の流域設計」プロジェクト研究員の矢尾田清幸さんが「農山村の人とくらし—獣害のようすとその対策」というテーマで講演を行ないました。

矢尾田さんは、プロジェクトでの研究のかたわら、農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー(農林水産省登録)として、獣害対策の実践にもたずさわっています。講演ではまず、一般の人が野生動物に対していだくイメージとは対照的な獣害被害の大きさについて示し、その問題の深刻さを訴えました。つづいて獣害の現状および対策について、矢尾田さんが関わった京都府下での獣害の事例について紹介。防除がなかなかうまくいかない原因として、シカやイノシシ、サルなどの想定される行動と実際の行動との違いや、電気柵やネットの不十分な設置などの事例を挙げました。そして最後に、獣害低減に向けたアプローチについて、GISなどを利用して獣害情報を地域レベルで作成し、共有・利用する体制を築くことが大事であるとして、話を締めくくりました。

質疑応答の時間は、さながら獣害よろず相談会のようで、近隣で家庭菜園を営まれている方がたから地球研の園芸クラブのメンバーまで、獣害防除のための具体的な質問が相次ぎました。私たちの暮らしをとりまく農山村の環境が大きく変わりつつあるなかで、人と野生動物とのつきあい方も模索されています。獣害にまつわるさまざまな言説が飛び交うなかで、正しく問題を把握し、理解、共有することが問題解決の糸口につながります。これはその他の地球環境問題とも通じるもので、身近な農山村の暮らしから環境問題解決のあり方を考えるひとつの機会となりました。(内藤大輔)

このセミナーの模様は動画で配信しております(ページ下部)。

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写真左から、安成哲三 地球研所長挨拶、矢尾田清幸 地球研プロジェクト研究員、内藤大輔 地球研特任助教


写真左から、質疑応答の様子、会場の様子