第34回 地球研市民セミナーが開催されました


地球環境問題が広く認知されながらも、抜本的な解決策が見いだせないなか、モンスーンアジアの自然共生型自然観について、あらためて再評価する動きがあります。こうした動向をふまえつつ、今回のセミナーでは、まず、中国宋代の儒学者・朱熹(朱子)の思想の概要について木下鉄矢教授が報告し、これを受けて鞍田崇上級研究員が聞き手となって、朱熹思想の現代的意義について議論が交わされました。

「朱子学」というと、古典注釈にいそしむあまり現実からかけ離れた議論に終始するものとの揶揄を受けることもあります。木下教授のねらいは、朱子学研究がはまり込んできたそうした従来のスタンスから脱却し、朱熹という具体的な一人物の生きた思想、その生命力を再興するところにありました。

このことは、朱子学における倫理性の議論に、きわめて鮮明にあらわれていたように思われます。たとえば、人間と自然を分け隔てることなく、両者の「共存」に重きを置いた考え方をとる場合、ともすると、人間の特性や役割があいまいになりがちですが、木下教授が「万物共存の哲学」を語る一方で強調したのは、自然との共存のなかで占める人間の「位置」であり、自らの位置の自覚を通じて人としての「職」=責務を果たすことの意義でした。

なかでも印象的だったのは、人間が自然のなかで独自の役割を担う根拠としてあげられた、「衆理を具(そな)えて万事に応ず」という朱熹の言葉でした。教条主義的に「かくあるべし」というのではなく、肝要なのは、その時どきの感性の力だというわけです。今日、環境問題との関連でライフスタイルの転換が求められていますが、そこに感受性の問題が決定的に抜け落ちていることをふまえれば、朱熹が見通した自然と人との関わりには、おおいに参照すべき点がまだ数多くあるように思われました。(鞍田 崇)

grayline
写真をクリックすると拡大します。

写真左から、佐藤洋一郎 地球研副所長挨拶、木下鉄矢 地球研教授、鞍田崇 地球研上級研究員


講演の様子(写真左)、対談の様子(写真中)、会場の様子(写真右)