農業活動と環境破壊の連環に関する統合的研究

─分析、改善実践、再統合を通した対応策の構築
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研究プロジェクトについて

本FSでは、今日の近代化やグローバル農業の拡大にともない顕在化している「農業起源の環境劣化の加速度的拡大」を緩和するために、1) 農業による環境劣化の発生プロセスを分析的に整理し、2) それに基づき個別的研究活動・改善実践を行ない、3)その成果を統合することによって実践的な対応策構築アプローチを可視化し、これらの俯瞰的な理解をめざします。

なぜこの研究をするのか

農業が地球環境に及ぼす負の影響は、20世紀初頭におけるハーバー・ボッシュ法(大気中窒素の工業的固定)の開発を契機とした化学肥料の広範な普及により、加速度的に拡大しています。その現れ方は、農耕地の外延的拡大と自然生態系の破壊や生物多様性の減少、遺伝子修飾作物の拡大にともなう生態系の攪乱、砂漠化にともなう生産基盤の脆弱化、生態系における炭素・窒素循環の攪乱など多岐にわたります。しかしながら、世界人口が100億人に達しようとしている現在、近代農業の恩恵なしに人類の将来を構想することもまた不可能です。今こそ私たちが直面している農業と環境の対立を直視し、これを克服しうるような技術的・思想的・社会的視座を獲得する必要があります。

農業が環境劣化を引き起こしている局面をより広く見てみると、人類が自然の草地や森林を開墾し、農耕活動を拡大し始めて以来、継続的に経験してきたことでもあることがわかります。今日の問題点は、「農業が環境を破壊する」こと自体にあるというよりは、農業や資源・生態環境をめぐる問題の進行速度や規模であるといえるでしょう。

本FSでは、今日世界各地で普遍的に見られる「農業起源の環境劣化の加速度的拡大」を緩和しうるような知恵の獲得をめざします。より具体的には、1) 農業による環境劣化の発生プロセスを図に示すような農業-環境連環モデルを用いて分析的に整理し、2) それに基づき個別的研究活動・改善実践を行ない、3) その成果を統合することによって実践的な対応策構築アプローチを可視化し、これらの俯瞰的な理解をめざします。

これからやりたいこと

図 農業による環境負荷発生を理解するための基本スキーム ―農業ー環境連環モデル

図 農業による環境負荷発生を理解するための基本スキーム  ―農業ー環境連環モデル

前述したような問題意識のもとで、前述の農業-環境連環モデルにおける①、②、③にかかわる地球環境問題と対応させ、世界各地の在来農業および近代農業のなかから代表的な事例・課題を選択し個別研究を行ないます。

具体的には、以下の5課題を考えています。

  1. (1) 近代化にともなうラオス山間地における伝統的焼畑農耕(①の外部投入を欠く資源利用)の崩壊と③生産基盤の劣化(②のCO2放出をともなう)を克服するための新たな食糧生産システムの構築。
  2.  (2) タンザニア北部において、グローバル経済のなかで変容する伝統的なバナナ・コーヒー栽培(①外部投入資源供給の不安定化が③生産基盤の劣化をもたらしつつある)の安定化をめざす研究。
  3. (3) カザフスタン南西部アリス川流域における統合的流域水・生態資源管理の確立。近代的生産システム(畜産業、天水農業、灌漑農業)の確立にともない顕在化した半乾燥地における①の水資源投入の地域間分配最適化および第一次生産と生態資源保全の両立をめざした資源利用デザインの提示。
  4. (4) インドネシア・スマトラ島の泥炭低地林、低地林および山地林を開拓したアブラヤシ栽培(湿潤地での典型的な近代的・商業的農業)における③生産基盤の持続性および一次生産と熱帯林保全の両立を図る資源管理体系・価値観の創出。
  5. (5) 資源利用・環境負荷の最適化の観点による日本の山間地小規模農業の再構築(農業の近代化過程における①・②のバランスを確保し、③を再認識させる課題)。

人類の生存を担保するものとしての農業に対し、その拡大に起因する地球環境問題は見えにくく、その重要性は見過ごされやすいものです。本FSでのアプローチは、実感できるプロセスとして地球環境問題を「環境知」とともに明示し、生態学的あるいは社会・経済的な学術としての理解にとどまらない、私たちの生と密着した「環境」を感受しうる論理を構築するのが将来的な目標です。

メンバー

FS責任者

氏名所属
舟川 晋也京都大学大学院地球環境学堂

主なメンバー

氏名所属
北山 兼弘京都大学大学院・農学研究科
池谷 和信国立民族学博物館
田中 樹総合地球環境学研究所
中尾 淳京都府立大学大学院生命環境科学研究科
杉原 創首都大学東京大学院都市環境科学研究科
吉野 章京都大学大学院地球環境学堂
佐藤 正弘内閣府経済社会総合研究所
大石 高典総合地球環境学研究所
矢ヶ崎 泰海京都大学大学院地球環境学堂
SIPASEUTH, Nivongラオス農林省農地保全開発センター
KILASARA, Methodソコイネ農業大学農学部
PACHIKIN, Konstantinカザフ土壌・農芸化学研究所
SABIHAM, Supiandiボゴール農科大学農学部
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