農業が地球環境に及ぼす負の影響は、20世紀初頭におけるハーバー・ボッシュ法(大気中窒素の工業的固定)の開発を契機とした化学肥料の広範な普及により、加速度的に拡大しています。その現れ方は、農耕地の外延的拡大と自然生態系の破壊や生物多様性の減少、遺伝子修飾作物の拡大にともなう生態系の攪乱、砂漠化にともなう生産基盤の脆弱化、生態系における炭素・窒素循環の攪乱など多岐にわたります。しかしながら、世界人口が100億人に達しようとしている現在、近代農業の恩恵なしに人類の将来を構想することもまた不可能です。今こそ私たちが直面している農業と環境の対立を直視し、これを克服しうるような技術的・思想的・社会的視座を獲得する必要があります。
農業が環境劣化を引き起こしている局面をより広くみてみると、人類が自然の草地や森林を開墾し、農耕活動を拡大し始めて以来、継続的に経験してきたことでもあることがわかります。今日の問題点は、「農業が環境を破壊する」こと自体にあるというよりは、農業や資源・生態環境をめぐる問題の進行の速度であるといえるでしょう。また、問題の多くが集中する「開発途上国」と呼ばれる地域では、私たちがそれを緩和するための知恵あるいは適応する術をいまだ獲得していない、という点にも注目する必要があります。
本FSでは、今日の近代化やグローバル農業の拡大にともない、特に開発途上国において顕著にみられる「農業起源の環境劣化の加速度的拡大」を緩和しうるような知恵の獲得をめざします。同時に、この問題を助長しているグローバル農業の一方的な拡大に一定の歯止めをかけうるような、「在地の環境知の結集と組織化、論理化および展開可能性」を探求していきます。