環境破壊はさまざまな理由で引き起こされます。無視できないのが戦争です。第一次世界大戦では機関銃、戦車、毒ガス兵器などの大量虐殺兵器が次々と生まれました。第二次世界大戦においては、空襲によって多くの市民が犠牲となっています。その最たるものが広島と長崎への原子爆弾の投下でしょう。本FSでは、戦争や化学兵器、核爆弾などの大量破壊兵器が引き起こす環境問題を「軍事環境問題」ととらえ、さまざまな視点からその実態の把握に取り組もうとしています(図)。
戦争が始まると、戦場となった地域では生活を破壊され、人々は住み慣れた土地を離れざるを得なくなり、見知らぬ土地で難民として暮らすことになります。ある地域に大量の難民が流入すると、人口が急増しその地域にもともと住んでいた人々の生活を逼迫させます。また、戦争が終わって故郷に戻っても、家屋や道路などが破壊されています。そのうえ、化学兵器や地雷、不発弾などのために、もとの生活にすぐ戻れるわけではありません。復興には長い年月がかかり、戦争で疲弊している当事国には環境問題を解決するような余裕はなく、国際的な支援を必要とします。
戦争や紛争だけがこうした軍事環境問題を引き起こすわけではありません。平時においても、軍隊は実弾を使って大がかりな訓練を行ない、軍事基地周辺では飛行機墜落事故、騒音被害、貯蔵設備の不備などから生じる水質汚染や土壌汚染によって、環境に多大な負荷をかけているという事実があります。それと同時に、多くの地域住民が不慮の事故への脅威や騒音問題で苦しんでいます。しかし、「お国のため」という言葉のもとで彼らの苦しみは無視され、その抗議の声は抑えられてしまいます。人々の声を丹念に拾い、軍事環境問題を地域住民の視点から考えようとすることも本FSのねらいです。