2026.01.21

研究ニュース

~災害用井戸の普及を目指して~
多様な災害経験に基づく地下水の活用例を紹介

<ポイント>

◇日本の震災経験を踏まえ、災害用井戸の普及状況や普及策を報告。
◇地下水が洪水や干ばつ、山火事などの災害後にも役立つ資源であることを、海外における災害事例をもとに紹介。
◇応急給水を行う際、地下水は公平性が高い資源になり得ることを提示。

<概要>

 大阪公立大学大学院現代システム科学研究科の遠藤 崇浩教授、総合地球環境学研究所の谷口 真人特任教授、カナダのUniversity of Victoria、スウェーデンのUppsala Universitetの共同研究グループは、日本における震災経験を踏まえ、災害用井戸の普及状況や、災害時に使用するための井戸の位置情報共有などの普及策について調査し、研究論文で報告しました。また、地下水が地震だけでなく洪水、干ばつ、山火事などの災害後にも役立つ資源であることを、アメリカ合衆国や南アフリカ共和国などの海外における災害事例をもとに紹介しました。さらに、地下水は「安い(Inexpensive)」「早い(Speedy)」「広い(Distributed)」代替水源として機能するポジティブなISD特性を発揮する資源であることを示し、地下水は応急給水を行うにあたり公平性が高い資源になり得ることを提示しました。
 本研究成果は、2026年1月7日に国際学術誌「Nature Geoscience」にオンライン掲載されました。

<研究者からのコメント>

遠藤 崇浩教授

2025 年 3 月、内閣官房水循環政策本部事務局と国土交通省が災害時地下水利用ガイドラインを公表しました。ここからも分かるように災害後の断水対応にあたって地下水の有効利用は大きな社会課題になっています。この論文では地震のみならず洪水、干ばつ、山火事など幅広い災害において地下水が重要な代替水源になり得ることを明らかにしました。

<研究の背景>

 近年、大規模な地震災害が頻繁に発生し、そのたびに断水が大きな社会問題になっています。断水は被災者の生活の質を著しく悪化させ、災害からの復興への深刻な妨げとなります。こうした事態を受けて2025年3月に内閣官房水循環政策本部事務局と国土交通省が災害時地下水利用ガイドラインを公表するなど、災害時の地下水利用は重要な政策課題になっています。

<研究の内容>

 本研究では、これまでの日本における震災経験を踏まえ、日本の災害用井戸の普及状況、災害用井戸に向けた普及策(事前登録、井戸の位置情報の地域共有)について紹介しました。
 また地下水が、地震だけでなく洪水、干ばつ、山火事など多様な災害後にも役立つ資源であることを、サンタクルーズ市山林火災(2020年/米国カリフォルニア州)、ケープタウン市渇水(2015-2018年/南アフリカ共和国)、エルベ川洪水(2002年/チェコ共和国)などの多様な事例をもとに紹介しました。これまで地下水は「目に見えない(Invisible)」「流れが遅い(Slow)」「利用者が分散している(Distributed)」というISD特性のため、管理しにくい資源とされてきました。しかし災害局面に目を向けると「安い(Inexpensive)」「早い(Speedy)」「広い(Distributed)」代替水源として機能し、平時とは異なるポジティブなISD特性を発揮する資源であることを示しました。また同じ災害であっても、低所得者や社会的弱者ほど大きな影響を受けるケースが多々あります。この点に関し、地下水は面的に広がる資源であるため、応急給水を行うにあたり公平性が高い資源になり得るという見方を提示しました。

<期待される効果・今後の展開>

 災害後の水道復旧までの短期における地下水利用の重要性は、持続的な地下水利用など長期的な政策課題に焦点をあてていた従来の地下水研究で見過ごされてきたテーマです。本研究では、災害時における地下水の有効活用を進めるために考察すべき課題を紹介し、新たな研究領域が進むべき方向性を示しました。今後は、令和6年能登半島地震被災地(石川県七尾市)における災害時地下水利用を詳細に解析します。七尾市の例を通して災害時地下水利用の利点と課題を明らかにし、さらに課題克服に向けた政策を提言します。
 著者の一人は日本の災害時地下水利用ガイドラインの改訂作業のメンバーです。本研究で得られた地下水の資源特性や汎用性に関する知見は今後のガイドライン改訂作業に反映させたいと考えています。

<資金情報>

 本研究は、人間文化研究機構総合地球環境学研究所招へい外国人研究員制度、公益財団法人旭硝子財団研究助成金、the National Science and Engineering Research Council(カナダ)の助成を受けて実施しました。

<掲載誌情報>

【発表雑誌】Nature Geoscience
【論 文 名】Natural hazard susceptibilities and inequities reduced by short-term groundwater use
【著 者】Tom Gleeson, Takahiro Endo, Makoto Taniguchi, Giuliano Di Baldassarre
【掲載URL】https://doi.org/10.1038/s41561-025-01884-0

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