2025.11.28
研究ニュース
インド・パンジャブ州では、稲わら焼却による大気汚染とその健康リスクは十分理解されていない
総合地球環境学研究所とインドとの共同研究Aakashプロジェクト*のワーキンググループ3の研究者らは、パンジャブ州の2,202世帯を対象に、稲わら焼却による大気汚染とその健康影響に対する認識を調査しました。多くの住民はデリーの深刻な大気汚染を懸念している一方で、地域での稲わら焼却に伴う煙が自らの健康に及ぼす影響を理解している人は少ないことが明らかになりました。家族に健康問題を抱える世帯では、煙の危険性をより強く認識していました。本研究は、地域に根ざした環境健康コミュニケーションの重要性を示しています。
研究の背景と目的
インド北部パンジャブ州では、稲わら焼却が農作業の一環として慣行化しており、地域内外の大気汚染に影響を及ぼしています。しかし、こうした焼却が自らの生活環境や健康、さらには人口密集地域であるデリー首都圏(NCR)に及ぼす影響を、住民がどの程度認識しているのかは明らかになっていませんでした。Aakash プロジェクト(総合地球環境学研究所とインド研究者チーム)は、22 地区・2,202 世帯を対象に調査を実施しました。
主な研究成果
都市部の大気汚染は「深刻」、地元では過小評価
約 46%の住民がデリーの大気汚染を「深刻」と認識していた一方、パンジャブ内の汚染を「深刻」と捉えていたのは 25%にとどまりました。
家族の健康経験がリスク認識に影響
家族に呼吸器・循環器などの健康問題を抱える世帯は、稲わら焼却の煙をより強く健康上の脅威として認識していました。また、空気汚染に関する健康リスクを知っている世帯ほど、焼却問題を「対応すべき課題」ととらえていました。
図1.大気汚染とその健康影響に関する認識に関する質問票調査結果
デリーの大気汚染は「深刻」と認識されている一方、地元の汚染は過小評価される傾向が見られました。また、煙が健康に影響すると答えた世帯は多くはありませんでしたが、稲わら焼きそのものを「大きな問題」と捉える住民は多数でした。
まとめ
本研究は、住民が大気汚染を「都市の問題」として認識する一方で、身近な農地での稲わら焼却が自らの環境・健康に及ぼす影響を見えにくくしていることを示しました。また、健康経験やリスク情報への理解が、問題認識を高める重要な契機となることが明らかになりました。これらの結果は、地域に根ざした環境保健教育や、科学的観測データに基づくわかりやすい情報発信の重要性を示唆しています。
注釈
*Aakashプロジェクト『 大気浄化、公衆衛生および持続可能な農業を目指す学際研究:北インドの藁焼きの事例』では、観測データとモデルシミュレーションを用いて、パンジャーブ州のわら焼きとデリーの深刻な大気汚染との関連を科学的に検証します。その結果をもとに、文化的背景や、大気汚染が及ぼす健康への悪影響に対する住民意識も配慮しながら、大気浄化・公衆衛生の改善・持続可能な農業への転換に向けた人々の行動変容を推進していきます。
論文情報
タイトル: Perceptions of air pollution from stubble burning and its health risks in Punjab, India
掲載誌:Scientific Reports
著者:Zhesi Yang, Kayo Ueda, Tomohiro Umemura, Kazunari Onishi, Hiroaki Terasaki, Tomoki
Nakayama, Yutaka Matsumi, Kamal Vatta, Hikaru Araki, Sachiko Hayashida, Prabir K Patra
論文公開日:October 27, 2025
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-025-21235-8
お問い合わせ先
大学共同利用機関法人人間文化研究機構 総合地球環境学研究所 広報室
担当:片岡
TEL:075-707-2128
E-mail:kikaku[at]chikyu.ac.jp [at]を@へ変更してください。