2024.06.14
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世界水プロジェクト(2002~2006年度)の初期プロジェクトリーダー沖 大幹 教授が水のノーベル賞「ストックホルム水大賞」を受賞
2001年に設立された地球研の初期のプロジェクトの一つである世界水プロジェクト(2002~2006年度)で2002~2003年にプロジェクトリーダーを務めた沖 大幹教授(東京大学大学院工学系研究科)が、「水のノーベル賞」とも呼ばれる「ストックホルム水大賞(Stockholm Water Prize)」の2024年の受賞者に選ばれました。仮想水貿易、デジタル河川網の構築、水循環研究への人間活動の影響についての世界的に著名な研究によるものです。
沖 大幹 教授
ストックホルム水大賞は、世界で最も権威ある水に関する賞です。1991年以来、スウェーデン王立科学アカデミーの協力のもと、ストックホルム水財団によって、水に関連する優れた功績を残した人々や団体に授与されています。
2024 年 8 月のストックホルム世界水週間に授賞式が催され、沖教授が記念講演を行う予定です。
バーチャルウォーター貿易を世界で初めて包括的・定量的に算出
沖教授がプロジェクトリーダーとして率いた地球研の世界水プロジェクトは、食料など生産に水を大量に必要とする物資の貿易による仮想的な水の出入り(仮想水貿易:Virtual Water Trade)について、世界で初めて主要穀物に加えて主要な肉類や工業製品も考慮して定量的に算出しました。例えば、海外から輸入された牛肉や小麦粉を使ったハンバーガーを1個食べると輸入国では999リットルの水を生産に使用する必要がなく、その分の水を他の用途に使えるので、食料などの輸入は水の輸入に相当するともみなせます。この成果は、人口増加や地球規模の気候変動による水不足の問題を解決するための議論の指標となっています。沖教授は気候変動対策を策定する際の重要な基盤となっている国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書の執筆にも携わっており、プロジェクトの成果は第4次報告書(2007)に反映されました。沖教授は引き続き第5次報告書(2013-2014)と第6次報告書(2021-2022)にも貢献しています。
図: 2000年の仮想投入水の地域間移動(穀物) (“Virtual water trade and world water resources”(Oki T, Kanae S, 2004)の図を和訳。沖教授提供)。仮想投入水量(virtually required water)とは、消費国(輸入国)でもしそれを作っていたとしたら必要であった水資源量のこと。この図が掲載された論文は経済学や食料科学などの他分野からも多く引用されており、世界の水利用の捉え方そのものに影響を与えた。
思い描いた研究に自由に取り組めた地球研、知の殿堂をさらに発展させて
今回の受賞に際し、沖教授は「大変な名誉で感激しています。引用されている業績はいずれも地球研在籍中に推進していた課題ばかりです。当時はまだふんだんにあった予算で、思い描いた研究に自由に取り組ませていただいたのが本当にありがたかったと思い返しています。地球研に深く感謝すると同時に、恩返しをする気持ちでいっぱいです」と述べるとともに、地球研への期待について「気候学、生態学、人類学、社会学、法学、哲学、経済学、医学、農学、林学、水文学といった様々な分野の専門家が、遠慮せずに意見を戦わせ、新たな地球環境学を総合的に構築する地球研の役割は、創立以来20年を経て、ますます増していると思います。好奇心の趣くままに、人と違う発想による斬新な研究を、多様な研究者の連携による創意工夫と試行錯誤で育む知の殿堂をさらに発展させてください。期待しています」とメッセージを寄せました。
関連リンク
●世界水プロジェクト(地球規模の水循環変動ならびに世界の水問題の実態と将来展望)
●プロジェクトの主な成果論文
Global hydrological cycles and world water resources
Taikan Oki, Shinjiro Kanae
Science, 313(5790), 1068-1072, 2006年8月
A 100-year (1901-2000) global retrospective estimation of the terrestrial water cycle
Hirabayashi Y, Kanae S, Struthers I, Oki T
Journal of Geophysical Research, D: Atmospheres, 110(19), 1-23, 2005年
Virtual water trade and world water resources
Oki T, Kanae S
Water Science and Technology, 49(7), 203-209, 2004年