2023.09.20

研究ニュース

熱帯二次林の形成時期を高精度に特定する技術を開発
~東南アジアの森林管理や生物多様性評価への貢献が期待~

概要

 このたび高知大学、国際農林水産業研究センター、岡山大学、総合地球環境学研究所、マレーシア国サラワク森林局、マレーシアプトラ大学、マレーシアサラワク大学、三重大学の国際共同チームが、東南アジアで焼き畑や山火事などによって森林が消失した後、そこから再生した熱帯二次林の年齢(形成時期)を高精度に特定する技術を開発しました。商業伐採や農地開発などの人為的活動により、この数十年で東南アジアの原生的な熱帯雨林はほとんど消失し、残存する森林は大半が二次林(攪乱を受けた後に再生した森林)に姿を変えています。熱帯林を持続的に保全・管理するためには、熱帯二次林の適切な評価が不可欠ですが、そもそも熱帯二次林がいつ形成されたのかを特定する技術が無いことが問題となっていました。本研究は、マレーシアの熱帯二次林において、樹木の木材に含まれる放射性炭素同位体(※1)を調べ、そこから樹齢を推定することで熱帯二次林の形成時期が高精度に特定できることを明らかにしました。この技術を活用することで、今後熱帯二次林の炭素蓄積量や生物多様性などの評価が進み、適切な森林保全・管理技術の確立につながることが期待されます。本研究成果は、国際誌「Forest Ecology and Management」に8月29日付けで掲載されました。

研究の背景

 東南アジアの熱帯雨林は、生物多様性の宝庫と言われる地球環境にとって重要な生態系です。しかし、商業伐採や農地開発などの人為的な活動によって原生的な熱帯雨林は既にほとんど消滅し、残存する森林もその6割以上が二次林に姿を変えています(写真1)。熱帯林の持つ高い炭素固定能や生物多様性といった生態系サービス(※2)を持続的に享受するためには、原生林に加えて熱帯二次林の適切な評価や維持・管理方法の確立が求められます。しかし、未だ東南アジアの熱帯二次林に関する情報は乏しいのが現状です。その要因の1つとして、熱帯二次林がいつ形成されたのかを特定する技術が確立されていないことが挙げられます。森林の形成年代は通常、衛星画像を用いて判別する方法や樹木の木部に形成される年輪を数えて判別する方法などがあります。しかし、一年を通して高温多湿な熱帯雨林気候の環境では、衛星画像に写り込む雲の影響で植生の判別が困難な場合が多く、また樹木も一年中成長が可能で木部に年輪が形成されないため、熱帯二次林の形成時期の正確な特定は困難とされてきました。

写真1. 広大に広がるマレーシアサラワク州の熱帯二次林

研究内容

 本研究は、衛星画像を利用して森林の攪乱時期を6年以内の精度で特定できたマレーシアの熱帯二次林29箇所で実施しました(図1)。各箇所で20m×20mの調査プロットを設定し、プロット内の最大サイズの個体の胸高位置から木材のコアを採取し、その中心(髄)に含まれる放射性炭素同位体(14C)の濃度から樹齢を推定しました。大気中の14C濃度は、第二次世界大戦後の冷戦時代に行われた大気圏核実験によって急激に増加し、1963年に大気圏核実験が禁止されて以降は、生物圏への吸収(植物の光合成)あるいは海洋などへの溶け込みを通じて、大気から年々減少しています。樹木は光合成のために取り込んだ炭素を成長に利用するため、木材中に含まれる14C濃度を測定すれば、それがいつ取り込まれたものかを年単位で特定することができます。衛星画像から推定した森林の攪乱時期と、木材コアの髄部分の14C濃度から計算したプロット内で最大サイズの個体の樹齢との間には、有意な正の相関関係がありました(図2)。ただ、両者の間には5年程度のずれがあり、衛星画像から推定した森林の攪乱時期の方が早くなりました。これは、14C濃度を用いた方法が、森林の攪乱後に数年間焼き畑等に利用され、放棄後に侵入した樹木が人間の胸の高さまで成長してからの時間(樹齢)を推定しているのに対し、衛星画像を用いた方法は森林の攪乱を受けた時期そのものを判断しているため、両者の間に5年程度のずれが出たと考えられます。つまり、14C濃度を用いて算出された樹齢に、5年を足すことで森林の形成時期が特定できることがわかりました。

図1. 衛星画像による攪乱前(A)と攪乱後(B)の様子

図2. 衛星画像から判断した森林の攪乱時期と14C分析により推定した樹木の樹齢の関係,RMSE(※3)の値が両者の間のずれの年数を表す

展望

近年、東南アジア地域の熱帯二次林は急速にアブラヤシ農園などに転換されています。今回開発した方法を用いて、熱帯二次林の形成後の時間と炭素蓄積量や生物多様性との関係を明らかにすることで、今後保全すべき熱帯二次林やその鍵を握る環境条件などが明らかになるものと期待されます。熱帯林の多くの割合を占める熱帯二次林を適切に評価し、保全を図る取組は、SDGsの目標15「陸の豊かさを守ろう」の達成に貢献します。

注釈

※1:放射性炭素同位体(14C)
大気中には安定同位体である12Cが約99パーセント、同じく安定同位体である13Cが約1パーセント、そして放射性同位体である14Cが極微量含まれている。植物は12Cだけでなく、13Cや14Cも取り込んで光合成を行っている。

※2:生態系サービス
食料、気候の安定、文化活動の材料など、生態系が我々人類にもたらす恵みのこと。

※3:RMSE
Root Mean Squared Error(二乗平均平方根誤差)の略。この値が小さければ小さいほど、誤差が小さいと言える。回帰式から求められる予測値が真値からどの程度かい離しているかを示す。0に近い値であるほど誤差が小さいことを示す。

関連情報

本研究は、科学技術振興機構/国際協力機構 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(JST/JICA,SATREPS,JPMJSA1902)、日本学術振興会科学研究費助成事業科研費
(23657022,24405032,21H05316)、住友財団環境研究助成(133184)の支援によって行われました。

関連リンク

プロジェクトのホームページ
http://www.kurs50008.sakura.ne.jp/sarawak/

論文情報

掲載誌:Forest Ecology and Management

DOI:10.1016/j.foreco.2023.121346

題名:Accurate dating of tropical secondary forests using wood core Δ14Cin Malaysia
木材コアに含まれる放射性炭素同位体を利用したマレーシア熱帯二次林の正確な形成年代特定

著者:Tomoaki Ichie1, Shuichi Igarashi1, Sae Tamura1, Ai Takahashi1, Tanaka Kenzo2, Fujio Hyodo3, Ichiro Tayasu4, Paulus Meleng5, Mohamad Alias Azani6, Mohd Effendi bin Wasli7, Masayuki Matsuoka8
1高知大学, 2国際農林水産業研究センター, 3岡山大学, 4総合地球環境学研究所, 5サラワク森林局, 6マレーシアプトラ大学, 7マレーシアサラワク大学, 8三重大学

責任者:市栄智明(高知大学)

問い合わせ先

研究内容に関する問い合わせ先

高知大学教育研究部自然科学系農学部門・教授 市栄 智明
TEL: 088-864-5149
E-mail: ichie[at]kochi-u.ac.jp

報道・取材に関する問い合わせ先

⾼知⼤学 総務部物部総務課総務係
TEL: 088-864-5114
E-mail: km03[at]kochi-u.ac.jp

岡山大学 総務・企画部広報課
TEL: 086-251-7292
E-mail: www-adm[at]adm.okayama-u.ac.jp

総合地球環境学研究所 広報室 岡田、柴田、中大路
TEL: 075-707-2450 / 070-2179-2130
E-mail: kikaku[at]chikyu.ac.jp

国際農林水産業研究センター 情報広報室
TEL: 029-838-6708
E-mail: koho-jircas [at] ml.affrc.go.jp

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