- その他
キヤノングローバル戦略研究所フューチャー・デザイン・ワークショップ71
「本格展開が始まった国内外の窒素管理にフューチャー・デザインはどうコミットしていけるのか」
- 日時
- 2024年12月17日(火)15:00 - 16:30
- 場所
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オンライン
※参加希望の方は担当者にお問い合わせください。 - 開催
- 中川戦略プロジェクト
- 報告者
- 林健太郎氏(総合地球環境学研究所プログラム研究部教授)
- 概要
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窒素はタンパク質やDNAの形成に不可欠な元素である.しかし,大部分の生物は大気の78%を占めてどこにでもある安定な分子窒素(N2)を直接に利用できず,反応性窒素(N2以外の窒素化合物の総称)を必要とする.一部の微生物のみがN2からアンモニア(NH3)を合成でき,この過程を出発点とした窒素循環で地球の生態系は成り立っていた.人類もこの中で生きてきたが,世界人口の増加に連れ食料需要が増していった.限られた農地から多くの食料を生産するには肥料が必要である.20世紀はじめに確立したハーバー・ボッシュ法(N2からNH3を合成する技術)は化学肥料の供給を可能とした.品種・農薬・機械化という農業技術の発展と併せて,作物生産は大きく伸び,余剰生産力は飼料生産に振り向けられ,家畜生産も大きく伸びた.食料増産に支えられ,20世紀はじめに16憶人であった世界人口は2022年末に80億人を突破した.食料生産のキャップを上げ続けてきたことは人類のサクセスストーリーといえる.しかし,うまい話には裏がある.肥料や工業原料として利用する窒素の大部分が反応性窒素のまま環境に漏出する.化石燃料の燃焼や廃棄物の焼却においても反応性窒素が発生する.環境に漏れた反応性窒素は,その化学種に応じて,地球温暖化,成層圏オゾン破壊,大気汚染,水質汚染,富栄養化,酸性化といった多様な窒素汚染をもたらす.窒素利用の便益が窒素汚染の脅威を伴うこの状況を「窒素問題」とよぶ.2019年の第4回国連環境総会における「持続可能な窒素管理決議」を契機として国際窒素管理の動きが始まり,国連環境計画は2020年に窒素作業部会を設置した.日本も2022年から同部会に参加し,環境省は2024年9月に「持続可能な窒素管理に関する行動計画」を世界に先駆けて公表した.報告者は地球研において窒素問題の解決を目指すプロジェクトに取り組み,これらの活動にも携わってきた.また,フューチャー・デザインが持続可能な窒素利用の実現にも寄与しうると期待し,関連するセミナーや体験イベントも実施した.今はその先について思索しているところであり,本報告において参加者との議論を経て進むべき道を見出せたならと願っている.
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- 中川戦略プロジェクト
上田
ueda[at]chikyu.ac.jp *[at]を@に変更して下さい。