辻野亮 Riyou Tsujino

2010年12月13日

研究テーマ

  1. 樹木の地形特異的な空間分布にはたす更新初期段階での現象
  2. 植食獣ヤクシカが森林構造に与える影響
  3. 深泥池湿原植生とシカの関係 またはここ
  4. 長野県秋山地域における植物種多様性の空間分布と人間による利用
  5. 京都市深泥池湿原植生の変化
  6. 大峯山系(前鬼・弥山)におけるシカと森林のかかわり
  7. 人と自然のかかわりの歴史

キーワード:地形特異性;樹木;実生;水分動態;森林構造;植物種多様性;ヤクシマザル;種子散布;外生菌根菌;ヤクシカ;人為的攪乱
調査地:信越国境秋山地域(長野県),屋久島(鹿児島県),深泥池湿原(京都市),大峯山系前鬼・弥山(奈良県)
調査対象:植物,哺乳類,キノコ



学歴

平成9年4月1日 京都大学理学部入学
平成13年3月24日 同上卒業
平成13年4月1日 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻植物学系修士課程入学
平成15年3月23日 同上修了
平成15年4月1日 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻植物学系博士後期課程進学
平成18年3月23日 同上博士後期課程研究指導認定
平成18年3月23日 京都大学博士(理学)












職歴

平成17年4月〜平成18年3月 日本学術振興会特別研究員(DC2)
平成18年4月〜平成19年3月 日本学術振興会特別研究員(PD)(資格変更)
平成19年4月〜平成22年4月 総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員
平成19年4月〜平成19年9月 龍谷大学国際文化学部・非常勤講師
平成20年4月〜平成20年9月 龍谷大学国際文化学部・非常勤講師
平成20年4月〜平成20年9月 神戸大学発達科学部・非常勤講師
平成21年4月〜平成20年9月 龍谷大学国際文化学部・非常勤講師
平成22年4月〜平成20年9月 龍谷大学国際文化学部・非常勤講師
平成22年4月〜現在 総合地球環境学研究所・プロジェクト上級研究員
現在 総合地球環境学研究所・D-02「日本列島における人間-自然相互間の歴史的・文化的検討」 プロジェクト上級研究員


所属学会

日本生態学会(2001年より)
日本菌学会(2005年より)
日本哺乳類学会(2006年より)


講義など

龍谷大学(瀬田)・「環境論入門」と「地球資源論」2010年度前期水曜3・4限


業績

【研究論文】

【総説・著書】

【研究発表】

国内学会
国際学会

【その他】

【新聞】

連絡先

〒603-8047 京都市北区上賀茂本山457番地4
大学共同利用機関法人・人間文化研究機構・総合地球環境学研究所 4研究室
Tel: +81-75-707-2478
Fax: +81-75-707-2507
E-mail: turi@chikyu.ac.jp

旧連絡先(2006年3月まで)
〒520-2113 滋賀県大津市上田上平野町字大塚509-3
京都大学生態学研究センター
Tel: +81-77-549-8200
Fax: +81-77-549-8201
E-mail: turi@ecology.kyoto-u.ac.jp(もうつかえない)



研究テーマ

樹木の地形特異的な空間分布にはたす更新初期段階での現象

植生は植物に対する撹乱や種間競争,被食圧,環境条件傾度への反応によって決定される.局地的な地形条件は生態的特化や植物種多様性の主因と考えられている(Whittaker 1956).それゆえ地形特異的な植生分化のメカニズムが研究されてきたが,十分明らかにされたとはいえなかった.これまでの問題点は,@環境条件と植生の関係は環境条件と成木樹木密度との静的関係のみが注目されていたことと,Aしばしば成木の環境条件への応答が種の分布パタンの決定要因であると思われてきたことにある(Collins and Carson 2004).そこで,優占樹種によって競争排除されずに多様な樹種が共存している鹿児島県屋久島の暖温帯常緑樹林において,地形と樹木の動的な関係や種子散布から成木にいたるまでの全生活史段階を対象として,地形特異的な樹木の空間分布を明らかにすることを研究目的とした.

1) 種子散布から成木段階までの地形特異的な樹木の分布型

樹木の地形特異的な空間分布を決定する重大な生活史段階を明らかにするために,50×50 m調査区内における高さ30cm以上の毎木調査と種子トラップによる落下種子の回収を3年間行った.生活史段階を種子散布から稚樹,若木,成木の4段階に分けて定義した.上部または下部斜面域に偏って分布していた稚樹〜成木段階と比べて,種子散布は地形に対して幾分均等に散布されていた.これは樹木と環境条件との関係が生活史段階によって異なることを示している.おそらく地形特異的な樹木の空間分布は種子散布や実生・稚樹の生残ステージという樹木の更新段階において決定し,その後の生活史段階の生残は地形特異的な空間分布の維持メカニズムにそれほど影響しない(Tsujino and Yumoto 2007).

2) 胸高直径5cm以上の樹木の生残・生長量と生育地形との関係

樹木の生残・生長の地形差をとおして樹木の地形特異的な空間分布におよぼす生育地形の影響を明らかにするためにベルトトランセクト (2.62ha) を設置した.普通種17種のうち5種が凸地形に (グループA) ,3種が凹地形に (グループB) ,9種がどちらの地形にも (グループC) 分布していた.グループAの死亡率・更新率・胸高直径生長量は同じ地形においてはグループBよりも大きかった.グループA・Bともに凸地形で幹死亡率が最も高く,凹地形で最も低かった.そして更新幹密度はグループAは凸地形で,グループBは凹地形で高かく,若いステージの研究が個体群動態による植生分布パタンの形成を理解するのに重要であると考えられた(Tsujino et al. 2006).

さらに,実生の生残動態と地形の関係,種子散布過程と地形の関係を明らかにしてゆかねばならない.つづく...

植食獣ヤクシカが森林構造に与える影響

全国的に植食獣シカ増加して森林構造に多大な影響をあたえ,場合によっては壊滅的な打撃を与えているところもしばしば見られる.たとえば大台ケ原ではシカによって林床植生が笹のカーペットが広がるという単純なものになっている上に針葉樹の樹皮をシカが採食するために,若い樹木が採食によって少ないだけでなく成木も立ち枯れてしまうという状況もみられる.森林に対する採食圧が厳しくなり,森林を成立させ続ける維持更新が阻害されているのだと考えられる.

ところで屋久島の西部照葉樹林は世界自然遺産に登録されるなど,国際的に貴重な自然植生が示されている.また野生のヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)やヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)が生息していることも有名である.ヤクシカの個体数密度はAgetsuma et al. (2003)やTsujino and Yumoto (2004)によると1km2あたり60頭前後生息していることがわかっている.これは宮城県の金華山島などで森林崩壊したとされる個体数密度に近いものがあり,屋久島の森林を保全する上でもヤクシカと植物の関係を調査研究することは非常に重要なことであると考えられる.

そこで,屋久島西部低地林地域でヤクシカがどの程度増えたのかを明らかにするために1988から89年と2001年から2002年の1年間ずつ道路を歩いてシカの数を数えるというロードサイドセンサス調査をおこなった.すると,Distance sampling method(距離標本法)による推定密度は,1988年で2.55 頭/km2,2001年で40.74頭/km2であった.ただし個体数密度の増減傾向を明らかにする上で1988年の密度推定は発見例が少なくて正確とはいえない.そこで目視によるシカ発見率を比較すると,13年間で6.16倍になっていることがわかった(年率15%の伸び).これは西部低地林地域だけでの値ではあるが非常に大きな値であると考えられる.周辺森林の伐採によってシカの餌資源量が変化して個体数密度が増加したのかもしれない(Tsujino et al. 2004).

次に樹木の生涯においてもっとも脆弱と考えられる当年生実生の生残率と死亡率にはたすヤクシカの影響を実験的に示すために,防鹿柵を設置して9種の種子をまき,柵内外の生残率と死亡率の比を比較した.シカの好んで採食する嗜好植物種と不嗜好植物種の関係や実生のサイズに注目した.すると大きな種子由来の実生は柵内での生残率が有意に高かった.しかしこの傾向はシカの嗜好性とは一致しなかった.小種子由来の実生よりも大種子由来の実生はシカの活動の影響を大きく受けて柵外での死亡率を高めていた.一方,不嗜好植物種の生残率は嗜好植物種ほど減少しなかった.高密度のシカによる物理的な攪乱はすべての樹種に影響があり,シカの採食は嗜好種で重要であることがわかった.また,見通しが利かない照葉樹林ではロードサイドセンサスは良い方法とはいえないので,より有効といわれている糞粒法を改良してヤクシカの生息密度を推定したところ,非常に高密度(51.5‐63.8 頭/km2)な値が確認された(Tsujino & Yumoto 2004).

展望

このようにヤクシカの採食による森林更新への影響は近年大きくなってきたものと考えられる一方で,ヤクシカの採食圧が地域によってまちまちでそれほど深刻な影響を受けていないように見える地域もある.これの現象は屋久島全島でヤクシカが増加拡散の途中段階にあり,ある地域では深刻な影響が出ている一方で拡散が行き届いていない地域ではまだ影響が顕在化していないだけかもしれない.
そこで,
1. 採食圧による森林更新への大きな影響が全島的に広がるのかを予見するために,ヤクシカが近年どのように分布拡大しているのかを明らかにしたい.
2. ヤクシカがいることによって植物の多様性は下がる一方なのか,中規模に攪乱する程度の個体数密度ならば植物の多様性を高める要因になりはしないか探りたい.
3. また,森林の植物種多様性は草食獣ヤクシカだけでなく森林の人為的攪乱によっても影響を受けることから,国内の森林のおよそ40%を占める人工林がヤクシカの分布を伴ってどのような相乗効果を生み出すのかを明らかにしたい.