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総合地球環境学研究所  
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Research

私は大阪生まれで、大阪府立大手前高校卒業です。1969年に京都大学の物理学科を卒業し、同大学院に進んですぐに、新設の生物物理教室に、亡くなられた寺本教授について移りました。研究室のテーマの一つとして、微分方程式による個体群動態(生物の数の変動)の研究が始まりました。その当時、センターの前身である京大臨湖実験所の所長だった森主一先生らと翻訳したマーガレフの本も刺激となり、理論生態学が自分の研究テーマとなりました。研究室の仲間(TANSKYと名乗った)とともに、生態系の構造と安定性の関係(どのような種間相互作用が系全体の安定性あるいは、不安定性に寄与するのか)と生態系の遷移の方向性(どのような方向に変化していくのか)についての研究を展開しました。

さらに、”植物群集の空間分布と遷移の数学的アプローチ”に関する研究を独自に進め、この研究で1977年に学位を取得しました。これは、植物の分布境界線が、最初ははっきりとしていなくても、種間の相互作用によって、しだいに明確になっていく機構を、パラメータ空間の中に平衡点を図示する方法(カタストロフ理論)によって示したものです。大学院時代には、京都大学の琵琶湖臨湖実験所(後に生態学研究センターに改組)にもよく通い、野外研究や、実験研究との接点を常にもつこに努めました。そのときに中西先生と”川底の付着藻類の厚さ”についての共同研究もしました。

1978年に佐賀医科大学に移ってからは、九州大学の数理生物講座のセミナーに参加し、集団遺伝学、遺伝子やたんぱくのデータ解析などの生態学以外の理論生物の研究にも触れました。同時に、九州大学の椿、汐津(ミノウスバ、ミノウスバヒメバチ)琉球大学の岩橋(ウリミバエ)、佐賀医科大学の茂木(シマカ、ヤブカ)、農業環境研の矢野(オンシツコナジラミ)らの昆虫生態学者と、実際の昆虫の空間分布と個体数変動に理論を応用しました。それらは、日本での個体群生態学研究における、実験・野外研究者と理論研究者の共同研究の先駆けの一つとなったと思います。

一方このころより、生物の生活史の適応的意義と進化のプロセスを総合的に研究する進化生態学にも研究の輪を広げ、最適採餌戦略や、オスのメス獲得競争の研究を進めました。とくに、オスのメスガードの理論的研究は、Ann.Rev.Entomol.のJ. Alcock(1994)の総説の中で大きく取り上げられました。1982年の7月より10ヶ月間、文部省在外研究員として海外留学の機会を得て、イギリスのサセックス大学とカナダのベドフォード海洋研究所に滞在しました。イギリスでは、進化生物学の大御所であるメイナード・スミス教授に多くの示唆を受け、彼の発案であるESS(進化的に安定な戦略)理論を、以後の仕事にたびたび用いました。カナダでは、プラット教授とともに海洋動物プランクトンの誕生前死亡と季節的消長を解析しました。

1983年からの3年間は、寺本英先生を代表者とする特定研究”生物の適応戦略と社会構造”の理論班に参加し、その成果に他の仕事も加えて、単行本「繁殖戦略の数理モデル」(東海大学出版会)にまとめました。この本は、その当時まだ一般によく知られていなかった進化生態学の考え方を、学生ばかりでなく、生態学の研究者にも紹介するのに役立ったように思います。また、1992年には、進化的観点を取り込んだ、新しい教科書「動物生態学」(海游舎)も共著で書きました。これは、2005年に「動物生態学新版」として改訂されています。

これ以後、1996年に京都大学生態学研究センターに移るまでの主な研究は以下のものです。

  1. 共生関係の役割と進化
    種間関係の中で、競争や捕食に比べ、これまで無視される傾向にあった相利共生関係の進化を研究しています。これまでのところ、微生物の消化管内および細胞内共生についての適用できる数理モデルを開発し、親から子への垂直感染と互いの不用物の相互利用が共生の進化の重要な要因であることを明らかにしました。この研究で、1995年5月にウィーンで開かれた「相利関係の生態学と進化」のワークショップへ招待されました。また、相利関係の一般的総説と併せて「寄生から共生へー昨日の敵は今日の友」(平凡社)にまとめました。

  2. 動物と植物の相互作用
    植物は、草食動物に食われまいとして物理的、化学的防御をしますが、動物と植物の生態を共進化によって作り上げられたとみることによって、複雑な種間相互作用の解明をめざしています。現在化学生態学の研究者のグループ(生態学研究センター・高林ら)と共同研究を進めていますが、その第一歩として、植物の防御と成長への投資の最適配分の新理論を展開しました。この論文についてDe JUng(1995)がOikos74:545-548.で解説しています。

  3. 血縁関係に依存した個体間の協力行動と闘争
    利他行動の提供者と受益者の間に同意が成立するための条件、および、同意が成立しないときにどのように妥協が行われるのかの理論をセンターの東とともに考案しました(NatureにGodfreyの紹介あり)。この一般理論に基づいて、様々な社会性に内在する問題を解いていきました。社会性昆虫におけるワーカーとソルジャーの違い、シロアリの不妊カーストの進化、最適グループサイズなどです。最適グループサイズを内部者と外部者のゲームとして扱った論文は、総説誌TREEのニュースとして紹介され、J.Segarの総説なかにも紹介されています。

  4. 休眠分散戦略と個体群動態
    動物にとっても植物にとっても、休眠と分散は、不適な環境変化に対応する生物個体の適応戦略だと考えられ、両方の戦略をいかに使い分けるのが効果的かについての理論を開発しました。

  5. 動物の繁殖戦略と社会構造
    社会構造の成因としてオスの繁殖戦略を重視する研究をしてきましたが、最近はオスとメス交配戦略の共進化として見る研究を進めています。霊長類におけるオスの子殺しとメスの抵抗の問題、親の子育て、甲殻類におけるオスのメスガード時間などです。また、人間の社会行動の分析にもチャレンジしようと思います。

生態学研究センターでの研究

研究の進め方としては、基本的に次のように考えています。理論的研究によって進化生態学、群集生態学をより強力て魅力的なものに再構築していくと同時に、その理論的成果を野外および実験的研究で実証していくという方法をとりました。この研究方法は、これまで私が実践してきた基本的スタイルであり、多くの研究者たちとの共同研究において、少なからず成功してきたと思います。センターの研究者や大学院生との共同研究によって、この研究方法がさらに大きく実を結んできたと感じています(論文リスト参照)。

具体的には、「生物多様性と種間相互作用の進化的観点からのアプローチ」に挑戦してきました。多様な生物種の共存機構は、もはや個体群動態だけの問題でないことは明らかです。長い進化の歴史の中でお互いが影響を及ぼし合いながら共進化してきた結果、現在の生物群集の微妙なバランスが維持されていると考えられます。このとき、これまで種内の生物の形質進化に主に用いられてきた進化生態学の手法(たとえば、進化的安定戦略:ESS)を、種間関係に応用することによって新しい群集生態学の構築に貢献しました。また、多様な生物間相互作用が新しい種を形成していくという多様性創出メカニズムにも挑戦しました。生物間相互作用を重視した種分化理論を研究することによって、従来の集団遺伝学による進化理論に新しい展開をもたらしました。具体的には、性選択による種分化の機構に貢献しました。

2007年6月より、総合地球間休学研究所に移り、プロジェクト「生態系ネットワークの崩壊と再生」に取り組んでいます。この研究は、今までの純粋生態学研究とは違って、社会文化的側面も取り扱います。研究生活の最終フェーズにこのような機会を得たことは自分としてもさらに新しい展開ができることを期待しています。

 

 

 
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