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社会・生態システムの脆弱性とレジリアンス

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地球研年報(業績一覧など)

E-04

プロジェクトリーダー

梅津千恵子 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科

研究プロジェクトについて

貧困と環境破壊の悪循環は、「地球環境問題」の主要な原因と考えられます。世界の貧困人口の大部分が集中する半乾燥熱帯では、人々の生活は環境変動に対して脆弱であり、植生や土壌などの環境資源もまた人間活動に対して脆弱です。本プロジェクトでは、この「地球環境問題」を解決するために、環境変動の影響から速やかに回復すること(レジリアンス)が重要であるという視点に立脚し、環境変動に対する社会・生態システムのレジリアンスメカニズムを明らかにしてきました。

 

何がどこまでわかったか

本プロジェクトが主な調査地としてきたザンビアでは、環境変動として2007年に起こった多雨被害に注目し、ほかの調査年と比較しました。多雨による農作物への被害状況は、農地の地形条件によって異なり、農家世帯では災害への事前対処として、農地をさまざまな地形条件下に分散させて所有していることが明らかになりました。毎週の家計調査から、世帯の食料消費の変動には、多雨による被害だけでなく、食料価格の高騰も影響していることが判明しました。また、多雨の被害によるカロリー摂取量や体重の減少が確認され、農業生産だけでなく人々の健康状態ひいては労働力供給も影響を受けていました。

農家世帯は、農作物の再播種や作付け転換、農業以外の現金稼得活動への参入など、入手可能な自然資源や経済機会、相互扶助ネットワークなどを動員して被害からの回復を試みていました。食料消費にみられるショックからの回復には、大半の世帯が1年以上を要し、特に貧困層や市場へのアクセスが限定されている世帯・地域においては、多雨のショックや食料価格の変動に影響を受けやすいことが示されました。

また、農村部の長期的観察を続けているグループの成果からは、農村社会の制度や社会構造の変容、外部からの開発のインパクトなどのさまざまな要因が、住民の環境利用の変化と複雑に関連し、地域社会の脆弱性やレジリアンスを変化させていることが明らかになりました。

半乾燥熱帯地域での世帯のレジリアンスとは、短期的には世帯の食料消費や農業生産をとおしてみた生業の回復能力、長期的にはさまざまな適応能力の束として考えられます。適応能力を高めるためには、教育や医療などの基本的サービス向上のための長期的な戦略が必要とされます。また、ある特定のリスクに対するレジリアンスだけでなく、あらゆるショックに対する包括的なレジリアンスの向上が望まれ、そのための長期的な観察の重要性が示唆されました。

私たちの考える地球環境学

社会・生態システムの脆弱性を「地球環境問題」の主要な原因ととらえ、本プロジェクトでは世帯や地域の脆弱性を規定する要因やレジリアンスの鍵となる要因を解明してきました。その結果、教育の普及、市場や資源へのアクセスの向上といった適応能力を高めるための長期的な戦略と地域の生態条件に合った資源利用が重要であることを指摘し、環境変動に対する地域社会の資源管理とレジリアンス向上のためのオプションを提示することで、地球環境学に貢献しました。

新たなつながり

2012年には研究の成果をさまざまなステークホルダー(利害関係者)と共有するためにPlanet Under Pressure 2012会合、日本地球惑星科学連合IHDPセッション、JIRCAS国際シンポジウム2012など多くの国際会議で発表しました。「水と食料安全保障」がテーマとなったWorld Water Week2012大会では最優秀ポスター賞を受賞し、地球研の研究プロジェクトがレジリアンス学際研究のフロンティアを進展させたことについて国際的コミュニティから高い評価を受けました。それにより、多くの研究者や実務家から情報提供依頼や研究協力依頼を受けています。また、5年間の研究成果を計3冊の学術書として2013年度に出版します。

図 レジリアンス・マップ
図 レジリアンス・マップ
食料安全保障のためのレジリアンス指標を計測し、州行政区(左)と郡行政区(右)に地図化した。これらの地図は、どの地域がレジリアンス強化のためのホットスポットなのかを政策決定者が認識し、地域開発政策の優先度を決めるための有用な情報を提供する

 

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