都市と農村の相互作用システムの構築と豊かさの創造

  • FS1

研究プロジェクトについて

近現代の農村から都市への膨大な人口集中は、都市部ではスプロール化(拡大)や過剰な消費と過大な廃棄を生み出し、それにともなって農村部では非環境保全型農林水産業や持続不可能な製造業へのシフトを引き起こしてきました。本FSは、都市と農村の間を行き来するヒト・モノ・カネ・情報の流れを変革し、地球環境問題を軽減しながら、都市と農村を一体化した生活圏の豊かさを創ることをめざしています。

なぜこの研究をするのか

20世紀の豊かさのパラダイム(志向の枠組み)は、経済的な豊かさの最大化を絶対視する価値観と論理に基づき、効率化を推し進めてきました。このパラダイムのもとでは、都市に経済活動を集中化し、大量生産と大量消費による効率化が追求されましたが、これに対して強い疑問を呈すことはありませんでした。

近現代の農村から都市への膨大な人口集中は、都市部ではスプロール化や過剰な消費と過大な廃棄を生み出し、それにともなって農村部ではあまり環境負荷を考慮しない農林水産業や、とにかく安く作ることだけを考える持続不可能な製造業へのシフトが起きました。このプロセスで、5つの地球環境問題が深刻化していると私たちは考えています。①温室効果ガス排出による気候変動、②土地システムの改変(都市拡大や農地拡大など)、③生物多様性の損失、④化学汚染、⑤窒素・リン不循環の5 つです。同時に、都市と農村がお互いの環境・経済・社会をケアしない経済的な分業体制をもたらし、都市内格差や農村過疎化といった新たな社会・経済的な問題も発生しています。

過度な分業体制は実社会だけに限らず、研究においても起きています。都市研究は都市だけに焦点を当て、農村研究は農村だけに注目することが多くなっています。今、都市と農村の相互作用・相互依存全体を見つめ直す必要があります。都市と農村が相互にケアし合い、健全な相互作用を行なえるシステムをつくらなければなりません。新たな相互作用システムの開発・導入によって、地球環境問題を大きく軽減しながら、都市と農村全体の生活圏で豊かさを創造することが求められています。

これからやりたいこと

図1 不完全分業理論モデル(仮説) ゆるい移住を起点に好循環が起きる確率を高められれば、5つの地球環境問題の軽減と都市―農村生活圏の豊かさの創造が実現できる。

図1 不完全分業理論モデル(仮説)
ゆるい移住を起点に好循環が起きる確率を高められれば、5つの地球環境問題の軽減と都市―農村生活圏の豊かさの創造が実現できる。

暫定的な仮説として「都市圏と農村圏の不完全分業」理論モデルを提示しています(図1)。都市圏と農村圏の両方で仕事に従事する人を十分に多くつくると、都市圏と農村圏の間で正しい価値の伝播やそれにともなうイノベーション(技術革新)が起きることによって、都市への過剰集中が緩和されて、環境・経済・社会の側面で都市も農村も豊かになれるのではないかという仮説モデルです。ただし、不完全分業できる人の数は限られてくるでしょう。そこで、好循環を促進するもう一つの仕掛けとして「仮想移住」を考えています。これは、都市住民に仮想的に農村に移住してもらい、具体的に農村へ思いを馳せてもらうことによって都市と農村の間で価値をつなぎ、実際の経済活動を変えていくものです。

仮説モデルに基づき、日本とインドネシアで実際に「不完全分業」や「仮想移住」を行なうための方法を実験していきます。実験の成功・失敗の結果に応じて、仮説を修正し、新たな方法をテストしていきます。この実験プロセスで「小さな実感」を得て、社会実装可能なシステム(確かな方法)をつくっていきます。そして、他の地域でも活用できるように、仮説モデルを規範的理論へ昇華させ、「大きな説得」ができるようにします。これらの成果がそろうとき、5つの地球環境問題が大幅に軽減し、同時に都市・農村生活圏で新しい豊かさへのパラダイム・シフトが生じると期待しています。

メンバー

FS責任者

氏名所属
森 宏一郎滋賀大学

主なメンバー

氏名所属
林  憲吾東京大学生産技術研究所
若新 雄純慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科
加藤 浩徳東京大学大学院工学系研究科
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