ネパールの山岳未電化地帯の急峻な傾斜地を女性や子供が1日何時間もかけて水汲みするような地域において、太陽光発電ポンプによるコミュニティ給水システム(SWPS: Solar Water Pumping System)の導入が試みられています。われわれの目には一見SWPSに対しては強い需要があり、実際に導入された村では一定の便益がもたらされているように映ります。しかし、技術導入するかどうかは地域ごとに判断するため、導入された村の変化を観察しただけではSWPSが本当に正の便益をもたらしたかどうかを科学的に確認したことになりません。また、仮にSWPSが常に正の便益をもたらす技術であったとしても普及にはいくつかの困難があります。ひとつは技術的な課題、もうひとつは集団意思決定に関する課題です。技術的に大きな課題は、それぞれの地域で地理的、水文学的条件と需要規模に応じて毎回異なる技術設計が必要となることです。また、現在のシステムの基本構成は天候に大きく左右されるもので、給水サービスは安定しません。太陽光で発電した電気はそのままポンプの駆動のみに使われ、天候によって貯水タンクが溢れ続けることもあれば、何日も空になってしまうこともあります。これに対して集団意思決定に関する課題とは、コミュニティのどの範囲(何世帯)でまとまって給水システム導入の検討をするか、初期費用はどう調達して、最終的にどのように負担するか、水量や利用時間などの割当て、維持管理方法や費用負担を含めて導入された給水システムを使うルールをどのように決めるか、守るかという問題です。ネパールでは、これまで水源を分けてきた複数のカーストが混在する村、地理的には村を跨いで隣の村の一部住民と共同で給水システムを導入した方が合理的な村などで集団意思決定に関する課題がより大きくなります。そして技術的課題と集団意思決定に関する課題はいずれも導入する技術の規模に大きく影響を受けるため、研究の中心課題として導入する技術の規模に着目しています。
研究プロジェクトについて
再生可能資源の利用可能性を飛躍的に高めるためには、地域資源を有効に活用する分散型システムの技術とその望ましい適用規模が重要な鍵を握ると考えます。本FSは貧困に苦しむ途上国の生活限界集落における水とエネルギー供給を同時に改善させるインフラ技術に着目し、社会的な費用と便益をできるだけ正しく計測し、それらに影響を与える技術的、社会的、文化的な要因を広範に検討し、それぞれの地域においてより最適な規模とは何かについて考えます。
なぜこの研究をするのか
これからやりたいこと
写真1 ネパール山岳地帯での水汲み
本FSでは、これまでに研究を行なってきたSWPSの事例から、より一般的な解を見いだすために、水とエネルギー供給を同時に達成する複数のインフラ技術を異なる国の生活限界集落の事例とあわせて比較検討するための研究計画の具体化をめざします。具体的には表1にあるように、途上国の条件不利な生活限界集落として、ネパールの山岳民族、ミャンマーの湖上生活者、インドネシアの離島住民を対象として、いずれも太陽光発電を利用した給水システム、生活排水・し尿処理システム、淡水化システムをそれぞれの地域に導入する際の課題を検討します。検討する手法としては、自己選択による歪みを除去した正確な効果の計測をするための家計調査と無作為化比較実験、住民の選好を計測するための無作為化コンジョイント分析、住民の利他性を計測のためのフィールド経済実験を中心としながら、社会開発学や応用倫理学との接合をめざした定性・定量相補融合法、工学や自然地理学・水文学との融合をめざした統合モデリング手法などを総合する枠組みの検討を行なっています。最終的にめざすところは、これらの手法を組み合わせて最も困難な貧困地域で普及可能な技術やその導入方法に対する科学的な知見を積み上げ、再生可能資源の利用可能性の飛躍的な向上に貢献することです。
対象国 | ネパール | ミャンマー | インドネシア |
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条件不利地域 | 山岳地帯 | 水上生活 | 離島 |
主な宗教 | ヒンドゥー教 | 仏教 | イスラム教 |
特徴 | 標高差 カースト レミッタンス (仕送り) |
水上輸送 (物質、人) 汚染処理 寄付文化 |
淡水化 家族主義 |
メンバー
FS責任者
氏名 | 所属 |
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金子 慎治 | 広島大学大学院国際協力研究科 |
主なメンバー
氏名 | 所属 |
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吉田雄一朗 | 広島大学大学院国際協力研究科 |
川田 恵介 | 東京大学社会科学研究所 |
後藤 大策 | 広島大学大学院国際協力研究科 |
造賀 芳文 | 広島大学大学院工学研究院 |
山中 勤 | 筑波大学大学院生命環境科学研究科 |
今井 剛 | 山口大学大学院創成科学研究科 |
伊藤 高弘 | 神戸大学大学院国際協力研究科 |
豊田 知世 | 島根県立大学総合政策学部 |
伊藤 豊 | 秋田大学大学院国際資源学研究科 |
小松 悟 | 長崎大学多文化社会学部 |
山本 裕基 | 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科 |
佐藤 寛 | アジア経済研究所新領域研究センター |
DHITAL, Ram Prasad | Alternative Energy Promotion Centre (AEPC), Ministry of Population and Environment (MoPE), Nepal |