熱帯泥炭地域社会再生に向けた国際的研究ハブの構築と未来の可能性に向けた地域将来像の提案

  • FS1
  • FS2

研究プロジェクトについて

熱帯泥炭湿地林は東南アジアに広く分布し、膨大な地下部の炭素蓄積と、湿地林という特徴的な生態系が維持されてきました。しかし近年、大規模な開発によって破壊され消失の危機に瀕しており、大規模排水による乾燥化、火災による二酸化炭素排出など、重要な地球環境問題となっています。本FSは、多様な熱帯泥炭地域の生態的・社会的な特性に対応した保全と利用の方策を、地域の人びとと検討・実施し、将来的な熱帯泥炭地域のあり方を提示することを目的としています。

なぜこの研究をするのか

写真1 泥炭社会の脆弱性を示す、広大な荒廃地。国の森林区域も、泥炭火災により森林が消滅した。「森林への火入れ禁止」との看板がむなしく立てられている。

写真1 泥炭社会の脆弱性を示す、広大な荒廃地。国の森林区域も、泥炭火災により森林が消滅した。「森林への火入れ禁止」との看板がむなしく立てられている。

写真2 火災防止のために本FSと地域住民が中心になり、泥炭地の排水路に作成した簡易型ダム

写真2 火災防止のために本FSと地域住民が中心になり、泥炭地の排水路に作成した簡易型ダム

東南アジアには、泥炭湿地林が主として海岸部に広く存在しています。熱帯泥炭土壌は、ミズゴケなどからできる寒帯の泥炭土壌と異なり、葉や幹などの植物遺体由来の有機物から成る土壌です。湿地の湛水した条件により有機物の分解が進まないため、長期間かけて蓄積した泥炭層は時に10メートルにも及び、膨大な炭素の貯蔵庫として機能してきました。固有の植物も多く存在しますが、湛水した泥炭湿地林は農耕住居には適さず、人びとはその周辺部に住み、漁業や非木材林産物収集活動を行なってきました。

この泥炭湿地林が、過去30年間に急速かつ大規模に開発されてきています。ティッシュペーパーやコピー用紙の材料となるアカシアの木や、洗剤、食用油、チョコレートなどの材料となるヤシ油を生産するためのアブラヤシがこの地に大規模に植林されました。

これら泥炭湿地林からプランテーションへの移り変わりの過程で、非常に深刻な環境の変化が引き起こされます。まず、温室効果ガスである二酸化炭素の排出です。アカシアもアブラヤシも冠水した泥炭湿地では育たないため、排水を行ない、地下水位を下げます。すると、地中に堆積していた未分解の泥炭が分解を始め、大量の二酸化炭素が空中に放出されます。それと同時に、排水により周辺泥炭湿地の水位が下がってしまうため、広大な乾燥泥炭地を生み出しますが、非常に燃えやすいという性格があります。そのため、捨てタバコや野焼きが原因となり、飛び火により大規模火災につながります。この泥炭地火災は、深刻な煙害、ぜんそくの多発、飛行場閉鎖、一斉休校、そしてさらなる二酸化炭素排出につながっています。あまりに規模が大きいため、一度火災にあい荒廃した土地が森林に戻ることは極めて難しい状況です。

これからやりたいこと

このような深刻な問題に対して、本FSでは、まずはじめにインドネシア・スマトラ島のリアウ州において、気象・水文環境、土壌の理化学性、植樹の可能性、住民社会の成り立ちを調査・研究し、自然科学・社会科学の両面から現地の問題把握と地域の将来を考えた解決策の検討を進めていきます。具体例のひとつとして、地域住民や地元県林業局と協働で、これまで荒廃地化し放棄されている住民の私有乾燥泥炭地を再び湿地化し防火します。まず、第一に火災を防ぐことが重要だからです。将来的には、湿地に適応可能な在来泥炭湿地樹種や商品作物などを住民の主導により植える試みを開始します。これらの樹種は市場でも良い価格がついており、その販売収入から地域住民の福祉が向上します。

さらに、東南アジアや南米ペルーなどほかの地域でも、泥炭火災などの深刻な問題に対処するため、住民の意思決定に役立つ泥炭マップを作成し、泥炭地や泥炭社会の特性を明らかにしながら、地域の特性に合った泥炭修復の方策を検討します。どのような制度と組織のもとで、住民が泥炭修復の方策を自ら進んで積極的に行なうのかを研究し、未来ある泥炭地域社会の将来像を描いていきます。

メンバー

FS責任者

氏名所属
水野 広祐京都大学東南アジア研究所

主なメンバー

氏名所属
甲山 治京都大学東南アジア研究所
岡本 正明京都大学東南アジア研究所
伊藤 雅之京都大学東南アジア研究所
内藤 大輔国際林業研究センター
杉原 薫政策大学院大学
佐藤 百合アジア経済研究所地域研究センター
鈴木 遥京都大学総合地域研究ユニット
PAGE, Susanレスター大学
SABIHAM, Supiandiボゴール農科大学
GUNAWAN, Harisリアウ大学
SETIADI, Bambangインドネシア政府技術研究応用庁
PONIMAN, Arisインドネシア地理空間情報庁
  1. HOME
  2. 研究プロジェクト
  3. 研究プロジェクト一覧
  4. プレリサーチ・予備研究
  5. 熱帯泥炭地域社会再生に向けた国際的研究ハブの構築と
    未来の可能性に向けた地域将来像の提案
↑ページトップへ
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
総合地球環境学研究所

〒603-8047 京都市北区上賀茂本山457番地4

Tel.075-707-2100 (代表)  Fax.075-707-2106 (代表)

みんながわかるちきゅうけん