東南アジアには、泥炭湿地林が主として海岸部に広く存在しています。この泥炭湿地林は、木材や葉などの有機物由来の土壌であり、酸性度が著しく高いなど特異な性質があります。泥炭湿地にはメランティなどの大木が生えていますが、これが倒れて泥炭湿地に没すると、水中であるため分解されることなく何千年も経過します。こうして大木や落ち葉が折り重なってできた泥炭層は時に10 メートルにも及び、魚、植物、動物の希少種の宝庫になっています。このような水にあふれた泥炭湿地林は農耕住居には向かず、人々はその周辺部に住み、漁、非木材林産物採集を行なってきました。
この泥炭湿地林が、過去30年間に急速かつ大規模に開発されてきています。ティッシュペーパーやコピー用紙の材料となるアカシアの木や、洗剤、食用油、チョコレートなどの材料になるヤシ油を生産するためのアブラヤシがこの地に大規模に植林されました。
これら泥炭湿地林からプランテーションへの移り変わりの過程で、非常に深刻な環境の変化が引き起こされます。まず、温室効果ガスである二酸化炭素の排出です。アカシアもアブラヤシも冠水した泥炭湿地では育たないため、排水を行ない地下水位を下げます。すると、地中に堆積していた未分解の有機物が分解を始め、大量の二酸化炭素が空中に放出されます。それと同時に、排水により地表面の高さと周辺泥炭湿地の水位が下がってしまうため、広大な乾燥泥炭地を生み出しますが、これはたいへん燃えやすいという性格があります。ここでは消し忘れた煙草の吸い殻や野焼きがもととなり、大規模火災につながります。あるいは、アブラヤシ農園の除草などを目的とした火入れも、飛び火により周辺地に火災が生じます。この泥炭地火災は、深刻な煙害、ぜんそくの多発、飛行場閉鎖、一斉休校、そして膨大な炭素排出と地球温暖化をもたらしています。一度火災にあった土地が森林に戻ることはきわめて難しい状況です。