人の生老病死と高所環境

─「高地文明」における医学生理・生態・文化的適応
  • FS
  • PR
  • FR1
  • FR2
  • FR3
  • FR4
  • FR5
  • CR1
  • CR2

研究プロジェクトについて

地球規模で進行する高齢化と生活習慣病を「身体に刻み込まれた地球環境問題」として焦点を当てました。高所環境に対する人間の医学生理的適応と、「高地文明」とも呼びうる生態・文化的適応を調査し、近年のライフスタイルの変化がいかに高所住民の生老病死における「生の質(QOL: Quality of life)」に影響を及ぼしているかを明らかにすることにより、地球環境問題の解決に向けた高所ならではのモデルや知恵を提示しました。

何がどこまでわかったか

写真1 祭礼ラーソイシー 神木の周りで神との会食を楽しむ村人たち(小林尚礼2010年撮影、小林2013ヒマラヤ学誌)

写真1 祭礼ラーソイシー 神木の周りで神との会食を楽しむ村人たち(小林尚礼2010年撮影、小林2013ヒマラヤ学誌)
この日のために、村外に出ている村人たちも帰省し、高齢者はコミュニティで重要な役割を演じる。共食をする高齢者は、日本の地域在住高齢者においても、うつが少なくQOL は高い

写真2 ラダーク・チャンタン高原(4700m)で暮らす遊牧民

写真2 ラダーク・チャンタン高原(4700m)で暮らす遊牧民
配偶者との死別により、うつ症状を有しながらも毎日の家畜の世話を続ける高齢者。年に10回もの移動牧畜が必要な厳しい環境にもかかわらず、村単位で移動する社会的ネットワークのサポートがある

国際関係、開発政策、市場経済化の影響で変容しつつある高所住民のライフスタイルと健康の関係を明らかにしました。具体的には、農・牧外労働、高齢化、低酸素適応に潜む生活変化への脆弱性による生活習慣病の増加を示しました。たとえば、チベット人は低いヘモグロビン濃度で適応できる遺伝子を多く獲得してきたことにより、若いときは慢性高山病や糖尿病にかかりにくいですが、加齢により多血症をともなう糖尿病への脆弱性が生じます。酸化ストレスの高値とライフスタイルの変化によって促進される「低酸素適応遺伝子の老化にともなうトレードオフ仮説」を、「糖尿病アクセルモデル(低カロリーと低酸素への適応が生活変化による糖尿病増加を加速するモデル)」の背景として提唱しました。

私たちの考える地球環境学

本プロジェクトでは、地球規模で進行する高齢化とそれにともなう生活習慣病を「身体に刻み込まれた地球環境問題」ととらえています。高所環境では、低酸素への医学生理学的適応は続いていますが、文化的適応は今まさに変化しています。長年かけて培われてきた高地への身体の適応と、近年の急激なライフスタイルの変化がどのように影響しあうのかを明らかにし、高地文明の未来可能性を「老人知(老人の経験知とそれをサポートする社会の知恵)」に学びながら、環境負荷の少ないライフスタイル、高地の人々の幸せな老い、より良いQOLを追求してきました。その結果を私たちのライフスタイルに逆照射し、中山間地の問題に対しては、地域のネットワークを生かし、高齢者の生活習慣病、認知症、うつなどの予防に役立てていきます。

新たなつながり

本プロジェクトの趣旨である「地域に即したヘルスケア・デザイン」が、ブータンの国民総幸福(Gross NationalHappiness)に合致し、2013年度からのブータン王国第11次5か年計画として進み始め、本プロジェクトメンバーらが中心となって、京都大学ブータン友好プログラムとして引き続き協力を続けています。

成果出版として、“Aging, diseases and health in the Himalayas and Tibet from medical, ecological and cultural viewpoints: studies on Arunachal Pradesh, Ladakh, and Qinghai”、『遊牧・移牧・定牧-モンゴル、チベット、ヒマラヤ、アンデスから』、『ヒマラヤ学誌15号(本プロジェクトの特集を掲載)』を刊行しました。また、アルナーチャル地域編と牧畜論に関する2編の地球研和文学術叢書と、地球研英文叢書の第3章Human health at high altitude、ラダークに関する英語論文集“Ladakh: Ecology,Disaster, and Health” を出版予定です。

さらに、第33回日本登山医学会で会長講演を行なうなど成果を発信しました。CR事業「高所住民に学ぶ―老人知より老人智へ」の成果出版につなげる研究会も毎月開催しています。

プロジェクトリーダー

プロジェクトリーダー

氏名所属
奥宮 清人京都大学東南アジア研究所
  1. HOME
  2. 研究プロジェクト
  3. 研究プロジェクト一覧
  4. 終了プロジェクト
  5. 人の生老病死と高所環境
↑ページトップへ
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
総合地球環境学研究所

〒603-8047 京都市北区上賀茂本山457番地4

Tel.075-707-2100 (代表)  Fax.075-707-2106 (代表)

みんながわかるちきゅうけん