統合的水資源管理のための「水土の知」を設える

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研究プロジェクトについて

およそ20年前に提唱された統合的水資源管理は、地域社会の具体的な問題にどう適用していくのかという面で課題がありました。インドネシアやトルコを主な研究対象として、地域のステークホルダー(利害関係者)と協働して、水管理における具体的な問題解決に向けた取り組みをとおし、多様な歴史、文化、自然をふまえた望ましい水管理と地域に根ざした科学と社会との連携のあり方を探求しました。

何がどこまでわかったか

水資源を持続的に利用していくために、さまざまな組織や関係者間の調整を図りながら管理を行なう統合的水資源管理(IWRM:Integrated Water Resources Management)が提唱されています。しかし、これまでのIWRMは、歴史、文化、環境など多様な地域の問題に対する配慮が十分とは言えず、地域社会への適用という点で課題を抱えており、地域の水資源管理は新たな指針が求められています。プロジェクトでは、インドネシア、トルコを中心に、現地の農民や行政など、水の利用と管理を行なう多くの関係者とともに、地域の問題の解決に向けた協働を行ないました。

インドネシア・バリでは、ステークホルダーミーティングによって、伝統的な水管理組織であるスバックは、その水管理機能は維持されているものの、観光産業の発展などにともなう土地利用の変化や、社会の変化によって問題の質が変化していることに対応できていないことがわかってきました。関係者間の議論が重ねられ、スバックをはじめ、地方政府、NGO、民間団体などが参加する流域委員会「フォーラムダス」が設立されました。また、南スラウェシでは、農家や現地NGOなどの協力を得た「科学と社会の共創」を実践し、アッパリリとよばれる伝統的な住民集会を通じた関係者間の信頼を醸成することで、水配分の改善と農業生産量の増加が達成されました。

トルコでは、対象地域における水環境と土地の生産性の悪化の原因が、過剰な灌漑用水と肥料の使用にあり、今後予想される気候変動とともに大きなリスクであることが明らかになりました。ここでもステークホルダーミーティングをきっかけに、研究者、NGO、さらには民間の財団が支援した農民主導による夜間灌漑プロジェクトが行なわれ、従来に比べて30%以上の節水と20%を上回る収量増加が同時に達成されました。このプロジェクトは、国連開発計画(UNDP)に引き継がれ、トルコ国内のほかの地域にも広がろうとしています。

私たちの考える地球環境学

図1 社会との協働による地域の課題解決に向けた取り組み 乾燥地や湿潤地といった気候条件などだけではくくりきれない、さまざまな水をめぐる問題が地域には存在しています。プロジェクトでは各地域の実際の問題解決への取り組みをとおし、地域における望ましい水管理の探求をめざします。

図1 社会との協働による地域の課題解決に向けた取り組み

このプロジェクトでは、水管理に関する具体的な課題の解決を通して、環境・文化・社会の面で大きく異なる多様な社会において、社会の様々な関係者とともに、どのように考えて研究を進めていけばよいのか、その道筋を明らかにしてきました。その協働のプロセスは、大きく見れば、①問題の発見、②問題の解決への方向性の確認、③詳細な計画と調整、④関係者間の合意、⑤協働の実践、検証、評価というステップをたどります。ただし、常にこの順番で物事が進むわけではく、各段階における関係者の協調的行動が一連のプロセスを駆動し、信頼を醸成します。こうした協調的行動を、私たちは「スモール・アクション」と呼びました。こうしたスモール・アクションによって、信頼とともに知の共有、相互学習が起きているのです。私たちは、ステークホルダーとともに知識を生産し、多様な地域の文脈の中で、ステークホルダーが望む、正当的でかつ公平で持続可能な未来に向かう動きを導き出すことが求められています。

新たなつながり

私たちは得られた成果をステークホルダーミーティングで地域の人たちと共有を図りました。また、2015年4月の世界水フォーラムでのセッションの開催や、『水を分かつ-地域の未来可能性の共創-』の発刊を行なったほか、“Sustainable Water Management:New Perspectives, Design, and Practices”(2016年8月刊行予定)などの成果発信を進めています。

プロジェクトリーダー

氏名所属
窪田 順平総合地球環境学研究所教授

共同リーダー

氏名 所属
RAMPISELA, Dorotea Agnesハサヌディン大学教授・総合地球環境学研究所客員教授
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