実践プログラム3

持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築

─食農体系の転換にむけて
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研究プロジェクトについて

本プロジェクトでは、持続可能な地球社会の基盤を支える食と農の新たなあり方を展開することをめざし、そのために必要となるデータの収集や分析、新たな施策の実現のための実践的な研究を、日本、タイ、ブータン、中国を現場として行います。

食の生産、流通、消費は、社会や文化の基盤に深く根ざしています。これからの食の安定した供給を確保しながら、未来の世代のすべての人々への食の安定的な供給および地域の実態に即した流通経済を構想することをめざして、地域の食と農の未来を考える委員会を設立するとともに、食と環境を結ぶスマホアプリなどの新しい具体的な手段の開発を推し進めます。

なぜこの研究をするのか

今日、アジアの食文化と農業は地球規模で広がる食農システムに組み込まれ、画一的で多投入型の農業生産、複雑な加工過程、エネルギー浪費型の流通体系によって構成されています。そして持続可能性に関する無数の問題に直面しています。温室効果ガスの排出や、資源の過剰利用、土壌劣化などの課題は、健全な地球環境の喪失にとどまらず、食と農のシステム自体の存続をも危うくしています。生物、文化、知識などの多様性が失われ、小規模農業が劣化し始めていることなどは、システムの脆弱性を高め、健やかな自律性を損なわせる原因となっています。また、グローバル化にともなう消費のあり方の変貌は、生産のあり方に強いインパクトを与え、地域の人びとの健康、食文化の存立基盤を左右しています。本来、食の消費者たる私たちは食のシステムにおいて最終的な評価を左右するはずなのですが、グローバルな食品流通への過度の依存は、生産者との距離を遠ざけ、中間過程を分かりにくく、複雑で柔軟性に欠けるものとしています。その結果、消費者団体の活動も限定的なものとならざるをえず、消費者の食に対する主導権、すなわち自分の下した評価にあわせて、周囲を変えていく権利や、安全保障の選択肢が失われつつあります。さらに、日常の食がこれまで以上に加工食品中心となることは、糖尿病や肥満の増加に代表される生活習慣病や健全な身心の維持といった、社会的な健康の問題を生み出しています。日常生活の根幹をなす食を身近なものとして取り戻し、食が自然環境や社会文化とつながっていることを意識できるような生産、分配、管理の持続可能なシステムの設立が、いま、早急に求められているといえます。

どこで何をしているのか

図1  ライフワールドの観点から将来像を描くことが、食農体系の社会文化的かつ構造的な変化をどのように引き起こすかを示す概念図

図1  ライフワールドの観点から将来像を描くことが、食農体系の社会文化的かつ構造的な変化をどのように引き起こすかを示す概念図

図2  FEASTのそれぞれのワーキンググループが、「持続可能な食の転換を促進するために必要な知識はなにか」という課題のどの部分を担うか、次の4種類の知識を示している。1)現在のシステムと文脈の知識、2)持続可能な未来像のビジョンの知識、3)未来の姿におけるシナリオについての知識、4)干渉や転換の戦略に関連する知識(Wiek et al. 2011にもとづく)

図2  FEASTのそれぞれのワーキンググループが、「持続可能な食の転換を促進するために必要な知識はなにか」という課題のどの部分を担うか、次の4種類の知識を示している。1)現在のシステムと文脈の知識、2)持続可能な未来像のビジョンの知識、3)未来の姿におけるシナリオについての知識、4)干渉や転換の戦略に関連する知識(Wiek et al. 2011にもとづく)

本プロジェクト(FEAST) では、持続可能な社会を支える食農システムの設立を図るため、食消費の場面に重点を置きつつ、日本、タイ、ブータン、中国とその他アジアの主要都市を研究拠点とします。これらの地域で、住民参加などの自発性、主体性の発揮、政策設計をはじめとする各セクターへの働きかけを、アクションリサーチの手法を通じて、調査・分析し、地域社会の新しい行動様式の実践・創設を目指します。

実際の研究では、食のシステムに関わる個人としての多様なアクターとともに、食をテーマとする諸問題をともに考え、試み、学ぶことをとおして、食のシステムの望ましい未来像を探り、人びとのつながりと行動の具体的な範型を創り出します。それによってさまざまなレベル(国~地域~市町村)における食システムの構造と制約についての現状及び問題点を明らかにし、持続可能な食農体系への社会実践に根ざした転換の実現可能性や潜在的能力を探ります。この転換のゴールとして、私たちの生活の質(QOL)や社会の健全さの向上につながるような、食と農のもつ経済的・金銭的な価値以外の根源的な価値のあり方を明示することで、市場の論理と自然との関係性を包摂するような知識やしくみ、考え方が湧出することを目指し、社会に広く開かれた議論の場を創出します。このような議論は、既存の社会経済システムのなかで、消費者として今まで当たり前に思っていたことを問い直し、自然環境や社会環境と食とのつながりを介した「市民」かつ「生産協賛者」 として、自らを再び位置づける機会を与えるでしょう。

このような転換は具体的には、これまでの人びとの食生活や消費行動パターン、生産、加工、流通、小売、調理の各過程における社会的実践と構造的な制約、その社会文化的な意味、消費者団体の活動、各級の食を含む社会経済政策などの分析を通じて、その客観的な構造だけでなく心の奥深くに根差している主観的な概念を変えることをめざしています。日々の生活の細部を、「ライフワールド」の概念を用いて考えることによって、単に細部にとどまらずその背後にある生産や消費に関わる意味と個人の「内面性」を見極めることを試みます。このようにして、個人の「内面性」と公共性の相即的な転換を引き起こそうとしています。

FEASTでは次の5つのワーキング・グループ(WG)に分かれて知見を探求し、統合することをめざしています。

  1. WG1 フードシステムマッピング&モデリング
  2. WG1では日本とタイを拠点に、食の供給と消費のしくみに関する既存および新たに調査によって得られる、統計的、空間的な背景情報を分析し、食料供給圏(foodshed)の地図化を試みます。食の供給システムや消費者の食生活・消費行動を、市町村・都道府県・国全体の3つのレベルにおいて、GIS マッピングや空間モデリングなどの複数の統計手法を活用して、空間的に分析します。こうして把握したしくみの相対的な持続可能性を判断するためには、「持続可能な食システムをどう把握するか」を明確に述べる必要があります。そのため、私たちは「地域における食の全体的保障(holistic local food security)」という概念を新たに提唱しています。この概念は、環境に優しい食料の生産と入手可能性の、具体的な許容能力を含意し、人びとのよりよい生活と食に対する主導権、生産者の生計の安定といった社会経済的各要素と両立することをめざしています。

  3. WG2 地域社会における食の倫理と消費行動への働きかけ
  4. WG2では、アクションリサーチを通じて、日本の各地域(京都、長野、秋田)のコミュニティに根ざした実践に取り組み、日本における食のガバナンスの実践例をつくり出します。そのために、次の3つのテーマのワークショップを通じて、地域の人々とともに考え、試み、学ぶ機会を創ります。(1)地域の食のシステムにおいて様々な役割を担うアクターと共に、当該地域の食をめぐる喫緊の問題をとりあげ、研究の焦点となる対象を明らかにするためのもの。(2)産業界で食にかかわる革新的な取り組みを行なっている人びとと、未来のあるべき食のビジョンを描き、その実現に向けていま何が必要かという発想で現行の消費や生産をとらえ、転換の手段を考えるためのもの。(3)食に関わる倫理について一般市民とともに広く考えるためのもの。それぞれのワークショップの結果として、地域における食のガバナンスのしくみとしての「フード・ポリシー・カウンシル(FPC)」の作成、産業界および市民の参加者と共に各々の消費実践の見直しと検討、そして食の倫理のガイドラインの作成を目指します。また比較のために、北京とバンコクで、食にかかわる社会的実践が上記の3つのテーマに即してどのように展開されているのかを調査します。

  5. WG3 環境配慮型生産者への転換に向けて
  6. WG3では、現代の工場的な食供給における分業の在り方から、地域に根差した柔軟な農業経営と、生態系との良好な関係を築けるような環境配慮型の食料供給への転換に向けた新しい道筋を見出します。人々の価値観を支える「物語」としての未来のビジョンを描くために、(1)未来において、伝統的な食農体系と知識はどのような役割を果たすか、(2)これからの農業者が農業に勤しむ際に、彼らをどのように支援し、意欲を鼓舞するためには何が必要か、(3)天然の食料資源の持続可能なマネジメントに消費者はいかに貢献できるのか、という3つの研究課題に取り組みます。具体的には、日本、中国、およびブータンの世界農業遺産(GIAHS)の認定プロジェクトにおいて、フィールドワークや事例研究、ワークショップを活用して、これらの研究課題をより明確に探究します。

  7. WG4 農村地域の持続可能性を支えるツール
  8. WG4は、フードラベリング、企業の社会的責任、炭素評価といったツールを探求します。これらのツールは日本の農村地域の再活性化をめざした、市場を通じた支援のユニークなしくみと組み合わせることで生態系と健全に統合した農業生産実践を支えます。具体的な取り組みとしては、地域独自のエコラベル表示の創設、および既存のモデルケースである京都府亀岡市について、指標の分析と開発、地域の農業経済モデリング、市場調査といった手法を用い研究を進めます。

  9. WG5 フードチェーンの見える化
  10. 日常的には、食品流通システムはブラックボックスとなっています。WG5では、食品の背景情報の可視化のためのスマートフォン・アプリの開発に着手します。そのために、さまざまなライフ・サイクル・アセスメント(LCA)データと多様な持続可能性の評価の指標を活用します。LCAとは、食品の生産、加工、流通、小売、調理、廃棄に至るまでの過程における投入資源や、生態系への環境負荷を定量的に評価するものです。このようなデータ群は、生態系、社会、健康への影響という3つの焦点となる契機を軸として組織化されることで、多様な食のカテゴリーの構造を明らかにします。さらに、このプロジェクトの影響を最大化し、実現可能性に向けて着実に進むためには、食品産業の鍵となるステークホルダーとの緊密な連携が必要となります。

    開発には、これまでに蓄積されてきた既存のLCA情報はもちろん、上記過程にかかわる多様なアクターと協働して新たなLCA情報を収集し、集めた情報を生態系への影響、社会への影響そして健康への影響の3つの要素を軸に整理する必要があります。そのため、食品産業にかかわる人びとと緊密に連携をとり十分な相互理解の上で、逐次的に開発を進めています。

写真1:左から ブータン農風土 オランダの生協本部 農家と研究者交流会(中国) 子どもの食育(日本)

【左上】ブータン農風土 【右上】子どもの食育(日本)
【左下】オランダの生協本部  【右下】農家と研究者交流会(中国)

これまでにわかったこと

研究の本格的なスタートにあたり、これまでの予備研究と数多くの先行研究を見直し、関心を共にする研究者や現場の人びととのネットワークを拡大し、長期にわたるより広範な研究活動を効率的に進めるためのチームを立ち上げてきました。特に昨年度は1年間をかけて、食の持続可能なつながりの姿をはかる、自然環境、社会経済、そして文化という尺度を定めようとしてきました。また、地域の食のガバナンスを実践するしくみのひとつの実例として、フードポリシーカウンシル(FPC)の発生や発展に関する現地調査を北米で行ないました。FPCは、地域の食をめぐる問題解決のために、食システムにかかわる多様なステークホルダーが連携して、新たな政策やプログラムを構築する取り組みを進める組織で、1980年代以降に北米各地で設置・展開されてきました。わたしたちは、FPCのような、地域の食のガバナンスを実践するしくみが、日本でも展開できる可能性があるかを検討しました。それ以外では、5つのワーキンググループにおいて、他の研究機関と連携により、十数件の学術的なセミナーやシンポジウムを開催してきました。

伝えたいこと

FEAST プロジェクトは、食に関わる社会のさまざまなステークホルダーとの緊密な関係のもとで、現実世界での社会的変革を、手を取り合ってデザインし、ともに現実化していこうと努めています。具体的には、食に関わるシステムを構成する生産・加工・流通・小売・消費のそれぞれの段階における社会的実践の転換により、環境を保全し、自然・文化資源の賢明な利用へと結びつけようとするものです。さらに、公正で透明性の高い食のシステムを実現することで、将来世代にわたる生活の質を高めることをめざしています。このような変革は、地域社会の主導に根ざしたボトムアップな仕方でなされるときにもっとも効率的になります。それゆえ、地域社会のみなさんと手を取り合い、食と農のもつ非経済的な価値を再評価し、市場の論理から抜け落ちた知識やしくみ創りに取り組みます。

社会の中で、食品の消費と食料の生産はかけ離れているように感じられていますが、私たち消費者がLCAなどを意識しながら「どこで何を食べるか」を選択することを積み重ねることで、地域の食の生産に多くの影響を与えます。つまり、一般の私たちは孤立した消費者ではなく、地域における食農システムの一部である「生産協賛者」であるといえます。また食と農のシステムのあり方に、自らの評価に基づいて声をあげることができる「市民」としての権利を有する者でもあるのです。

本プロジェクトでは、地域レベルで食のガバナンスを実践する組織を作り、私たち消費者が食のシステムの生産協賛者であることの自覚を得、食に対する既存の価値観を問い直す機会を創り出します。このようにして、私たちは食農システムの変革の実現へと進むのです。地球研が設立された京都のような様々な場所で、この変革が実現することを目指し、5 年間のプロジェクト期間にとどまらずさらなる未来へ向けた変革という松明の火をかかげることを目指しています。

集合写真

メンバー

プロジェクトリーダー

氏名所属
MCGREEVY, Steven R.総合地球環境学研究所准教授

京都大学農学博士。農業および農村地域の持続可能な開発、エネルギー転換等を活用した、農村の活性化への新しい取り組みや、地元のコミュニティにおける食の消費と産のやり方の連携について研究をしている。

サブリーダー

氏名 所属
田村 典江総合地球環境学研究所プロジェクト上級研究員

プロジェクト研究員

氏名所属
小林 舞プロジェクト研究員
RUPPRECHT,Christoph David Dietfriedプロジェクト研究員
太田 和彦プロジェクト研究員
松岡 祐子プロジェクト研究推進支援員

主なメンバー

氏名所属
土屋 一彬東京大学
秋津 元輝京都大学
立川 雅司茨城大学
須藤 重人国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
柴田  晃立命館大学
稲葉  敦工学院大学
原  祐二和歌山大学
谷口 吉光秋田県立大学
中村 麻理名古屋文理大学
TANAKA, KeikoUniversity of Kentucky
岸本 文紅国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
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