プロジェクトの概要

このプロジェクト研究では、現在および将来の人間社会にとって重要であるがまだ評価されていない「地下環境」に与える人間活動の影響を、特に人口の増加・集中が激しいアジア沿岸都市において評価しました。

地下の環境問題は、目に見えにくく評価しにくい現象であるため、長い間放置され続けてきました。 地上と地下の環境は繋がっているにもかかわらず分断されてきたのが実情です。
アジアの沿岸都市では、地盤沈下・地下水汚染・地下熱汚染などの様々な地下の環境問題が、都市の発展の程度に応じて次々と発生しています。

そこで本プロジェクトでは、都市が発展する段階で、どのように地下環境問題が変化していくのかを明らかにすることを目指しました。また、各都市における社会制度や文化多様性の調査、および最新の観測技術を用いた調査によって、地上の環境問題と密接に関わる「地下環境と地下水の持続可能な利用」についての理想的なシナリオを提言することを目指しました。

このプロジェクト研究では、以下の4つのサブテーマ・研究方法に基づいて研究を進めました。

(1)都市の発展段階と様々な地下環境問題との関係について、社会経済学的指標による解析と、歴史資料を用いた都市と水環境の復原により明らかにしました。

(2)水文地球化学データと現地及び衛星GRACEを用いた重力観測によって、地下水流動系と地下水貯留量の変動を明らかにし、可能地下水涵養量を評価することによって持続可能な地下水利用量を評価しました。

(3)地中水と堆積物中の水文化学・同位体分析とトレーサビリティーによって、地下環境の蓄積汚染量の評価と、地下水流動による物質輸送を含めた沿岸域への汚染物質負荷の評価を行いました。

(4)孔内地下水温度の逆解析を用いた地表面温度履歴の復原と気象データを用いて、都市化に伴うヒートアイランド現象による地下熱汚染について評価しました。

このプロジェクトでは「地下環境問題」という、これまであまり扱われなかった地球環境問題を、「地上と地下」および「海と陸」という二つの境界を跨ぐ水・熱・物質の輸送と、都市における「人間」活動が地下環境という「自然」に与える作用環を中心に統合的に扱いました。
過去100年の地下環境の復元と現状の地下環境問題の調査をおこなうことにより、地下環境が地上と連続して存在する、隠れた「循環系」であることを示しました。そして、「地下環境」を地上の気候変動や人間活動に対する「適応・代替・回復」力と捉え、地下環境との賢明な付き合い方・共存のありかたについて提言しています。

プロジェクトリーダー 谷口真人