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黄河研究ニュースレターNo.4 日本語要約


汾河流域の水資源管理の現状と課題

井村秀文1、常杪2、石峰3、大西暁生4

黄河流域は全体として著しい水資源不足に直面しているが、その事情は地域によって大きく異なる。このため、黄河流域の全体を上流域・中流域・下流域の3つに分けて議論することが多いが、我々の研究では、地域の事情をさらに詳しく分析するため、中流域を黄河本流と支流である渭河及び汾河のそれぞれの流域に区分することにした。すなわち、黄河流域を本流の上流域・中流域・下流域と、支流の渭河流域、汾河流域の5つに分けて、それぞれの地域の自然条件・社会経済条件等と水資源需給の関係を比較分析している。

中流域から枝分かれして存在する汾河の流域は、その水源地帯も含めて、半乾燥地に位置するため、全体として水量が決定絶対的に不足している。特に、1980年代以降の工業化と都市化の結果、水資源不足が急速に進行し、黄河本流からの導水によって問題を解決しようとしている。深刻な水資源不足に悩む汾河流域、特に太原市で採用されている節水対策、汚水の処理・再利用、水資源の絶対的不足と河川流量不足に起因する水汚染、地下水さらに有効な対策試案を研究することは、今後の黄河流域全体における水資源管理体制のあり方を考える上でも非常に役に立つ。この情況は、黄河流域全体の問題を考える上で多くの示唆に富む。このため、2005年2月、名古屋大学と清華大学の研究チームは、汾河流域の中心都市である太原市とその周辺について調査を行った。以下は、その報告である。


灌漑管理評価モデルの開発と黄河流域河套灌区への適用

星川圭介,長野宇規,久米崇,渡辺紹裕

筆者らが開発を進めているIMPAM(Irrigation Management Performance Assessment Model)は,灌漑地区における水移動・水収支を計算するためのモデルである.IMPAMは流域水収支や気象のシミュレーションを行う上で重要な灌漑地区における水収支に関する情報を提供するとともに,灌漑地区水収支に与える灌漑管理の影響を評価するツールとなりうる.さらに,灌漑管理を変更した際にもたらされる水収支の変化をシミュレートすることも可能である.

灌漑地区水収支は地区内の水管理(水分配,排水,灌水手法・回数など),営農管理(作付体系,土地利用など)に大きく影響されるため,水管理・営農管理体系をモデルに取り込むことが,灌漑地区水収支を正しく表現するためには不可欠である.IMPAMは,合わせて4つのモジュール(配水モジュール,排水再利用モジュール,農地モジュール,灌漑地区水移動モジュール)を組み合わせることによって,そうした管理体系のモデルへの組み込みを実現している.

このIMPAMを中華人民共和国内蒙古自治区河套灌区永済灌域における一領域(110km2)に適用し,水路からの漏水量を変化させた場合の水収支変化のシミュレートを行った.河套灌区ではほとんどの水路がライニングされておらず,取水量の60%が漏水によって水路から地中に浸透しているとされる.筆者らは,水路の容量と輪番の期間から,灌域(幹線水路)レベルでは40%,モデル適用地区である支線水路受益地レベルでは30%程度が漏水として地中に浸透しているものと推測した.その上で,適用地区内で30%が漏水によって失われる場合(シミュレーション1)という現況に近い想定に加え,支線水路をライニングし,漏水量が25%に減少した場合(シミュレーション2),およびすべての水路をライニングして漏水が起こらない場合(シミュレーション3),という2つの仮想条件を想定し,モデル適用を行った.その結果,現況の圃場への灌水量のまま漏水をなくせば,地下水位が低下し,作物からの蒸散が抑制されることが示された.つまり,現況においては,水路からの漏水が浅層地下水を涵養し,作物の生育に間接的に寄与しており,漏水を防止する際には,灌水量を増加させるなどの対策を合わせて採る必要があることが示唆された.

今後は観測データなどを用いたモデルのキャリブレーション,改良を進める.


衛星データを用いた黄河流域における土地被覆分類

松岡真如1・早坂忠裕1・福嶌義宏1・本多嘉明2

本研究では衛星データを用いて東アジアを対象に2000年における土地被覆分類図を作成した。使用したデータはTerra/MODISの地表面反射率、積雪、およびDMSP/OLSのHuman settlementsプロダクトである。MODISプロダクトの一年分の時系列データから10種類の地表面特徴量を抽出し、OLSデータと組み合わせて分類に使用した。分類手法は新たに開発したデシジョンツリー法であり、その利点として、(1)入力データと判別基準を組み合わせることで容易に拡張することができる、(2)閾値を調整することで分類結果を明示的にコントロールできる、(3)入力データに含まれる雲やエラー等のノイズに対して堅牢である、(4)地表面特徴量を用いることで他の年に適用しても安定した結果が得られる、等があげられる。本手法を用いて作成した分類図を既存の土地被覆図と比較した結果、森林、農地、草地、裸地において良い一致が見られた。また結果を中国の省別の統計値と比較した結果、森林、農地に対して土地被覆分類図は統計値よりも広い面積を算出した。農地のサブカテゴリである水田、畑地、灌漑地についてはどちらの比較においても良い一致は見られなかった。この土地被覆図は黄河流域において開発している水文モデルへの入力データとして、農地を中心とする土地被覆の空間分布と物理特性を規定する目的に使用される予定である。


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