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黄河研究ニュースレターNo.3 日本語要約

長武黄土高原農業生態試験所への大気境界層観測システムの設置

檜山哲哉1・樋口篤志1・高橋厚裕2・西川将典1)・李薇1・劉文兆3・福嶌義宏2

黄土高原地域は、中国乾燥域と湿潤域との間に位置し、季節的に変化する大気大循環の影響を受けながら、黄河の中・下流域の水循環に大きな影響を与えている。一方、黄土高原地域は季節変動〜年々変動の時間スケールにおいて、東アジアの水循環の動態を把握する上で、非常に重要な地域である。しかしながら、従来、この地域での地表面〜大気下層における高時間間隔での大気境界層観測データは取得されていなかった。そのため、黄土高原上や黄河流域における水循環変動の予測のみならず、大気水蒸気フローの下流に位置する中国湿潤域や日本を含む東アジア地域における水循環変動予測や気象予測は、必ずしも十分ではなかった。

そこで我々は、黄土高原地域の南部に位置する長武黄土高原農業生態試験所(N35°12′, E107°40′)において、平成16年5月に大気境界層観測システムを設置し、高時間間隔での大気境界層データの取得を開始した。この大気境界層観測システムは、下記の3つから構成されている。

このうち我々は、FROSとWPRを平成16年5月に設置し、現在までに興味深い観測データを取得している。MRは平成17年5月に設置予定である。  FROSは、地表面−大気間の運動量・熱・水蒸気・二酸化炭素の輸送量(地表面フラックス)を測定するシステムである。このシステムを設置するために、我々は前もって、現地に30mの観測タワーを設置している。このシステムには、衛星データによる地表面状態(植生状態)検知のためのアルゴリズム開発を目的とした高精度放射測定システムも含まれている。

WPRは接地境界層上部(地表面上約100m)から対流圏中部(地表面上約5km)までの大気層における風速3成分の鉛直プロファイルを、高時間間隔(1分〜10分間隔)で測定する画期的な観測システムである。一方MRは、接地境界層上部(地表面上約100m)から対流圏上部(地表面上約10km)までの大気層における気温と水蒸気の鉛直プロファイルを、10分間隔で測定する。

これらの観測は、YRiSプロジェクトの一環として、本年から平成19年夏まで継続される予定である。


渤海湾研究

柳哲雄

渤海湾現地観測を2004年9月14日〜9月19日、現地でチャータ−した2隻の漁船を用いてFig.1に示す15点で行った。1隻の漁船でCTD、光量子、ADCPなどの物理的観測を、もう1隻の漁船(Fig.2)で栄養塩、クロロフィルa、    DOなどの化学・生物パラメ−タ分析用の採水を行った。このような水平・鉛直分布観測に加えて、観測海域中央部のSta.7では9月15日23時から9月17日2時までCTD(1時間毎)、採水(2時間毎)、ADCP(毎分)、の27時間連続観測を行った。

観測は無事終了し、現在鋭意デ−タ解析中である。得られたデ−タは黄河からの流出河川水と関連した渤海の物理・化学・生物的環境特性の解明と、現在作成中の渤海流動・生態系モデルの検証に用いられる予定である。


黄河デルタ地域の広域地下水面精密測定

徳永朋祥1・茂木勝郎1・尾西恭亮1・Guanqun Liu2, 小野寺真一3・宮岡邦任4・谷口真人5

黄河デルタ地域での河川水、地下水、海水の相互作用を検討するためには、対象地域の地下水流動状況に関する情報を取得することが必要である。比較的浅い深度に分布する地下水の流動状況の把握には、地下水面分布を用いることが有効である。本予察的調査研究では、静的GPS計測を実施することにより、広域的な地下水面深度の把握を試みた。まず、静的GPS計測によって得られた標高データと、SRTMプロダクトである約90mメッシュのDEMデータの標高データの比較を行い、地下水面深度評価の目的には、DEMデータでは不十分であり、静的GPS計測が必要であることを示した。次に、今回の計測で得られた標高データを用い、地下水面深度を決定した。その結果から、黄河デルタ域では、黄河から海岸域に向かう地下水流動が想定されること、また、浅層(深度5m程度まで)とそれ以深(深度20m程度)では、地下水面標高が違うことが示された。後者の結果は、既存地質情報と組み合わせると、極浅層の地層中の地下水系とその下位に分布する海面下で堆積した地層中の地下水系の二つが対象地域に認められることを示唆している。


黄河デルタにおける地下水地表水相互作用に関するいくつかの成果

小野寺真一1・宮岡邦任2・斉藤光代1・石飛智稔3・谷口真人4・陳建耀5・劉貫群6

2004年の黄河デルタにおける集中観測が、5月と9月に行われた。ここでは、これらの調査結果の中で、大変興味深い成果について一部紹介する。地下水の測水調査が、昨年に引き続き行われた。この結果、地下水面の形状にいくつかの微小な起伏が確認された。そこで、地下水面の谷にあたるところと尾根にあたるところで、それぞれ比抵抗測定、測水、土壌採取を行った。谷にあたるところでは、地下の比抵抗が表層で高く下層で低い傾向を示し、一方、尾根にあたるところではその逆の傾向を示した。比抵抗は塩分濃度に反比例することから、谷にあたるところでは深部に塩水が侵入しているのに対し、尾根にあたるところでは淡水が保持されていることを示唆した。また、谷にあたるところでは、地下水面標高が海岸付近で0m以下にまで下がり、海水侵入を示唆しており、比抵抗の結果と一致した。また、ボーリング孔内の循環がないものとして、孔内の化学特性プロファイルをいくつかの井戸で計測した。この結果も先の比抵抗の推定を支持した。しかし、地質が均一であるかどうかも含めた追加調査が必要である。河川から海岸までのいくつかの地点で深度3mまで土壌を採取し、実験室に持ち帰った後、蒸留水及びアンモニア溶液で陽イオンを抽出し、それらの成分の分布を明らかにした。この結果、河川近傍付近ではCaが主成分であるのに対し、海岸付近ではNaが主成分であることが明らかになり、20年前に堆積以降、河川水起源の地下水によって海水起源の成分が置き換わりつつあることを示した。ただし、現在も海岸付近の堆積物中のNa量に比べて、河川近傍でもその6分の1もNaがあることから、まだ十分に置き換わっていないことを示した。これには、河川流量の減水などの影響も少なくないものと考えられる。今後、これについては定量化していく予定である。

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