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黄河研究ニュースレターNo.2 日本語要約

(1) 中国における地表面放射収支

河本和明(地球研)・徐 健青(地球フロンティア)・早坂忠裕(地球研)

本稿では地表面における下向き短波放射量を評価する2つの手法を紹介し、その比較を通して両手法の地理的特徴を調べる。1つめの手法は人工衛星データを主に使ったNASAラングレー研究センターで開発された Langley Parameterization for Shortwave Approximation(S(Langley)と表記する)である。この手法は雲の光学的厚さや雲頂高度、雲量といった国際雲気候学計画(ISCCP)の雲プロダクトや水蒸気、気温等の気象要素を入力として経験的に決定するものであり、1983年7月から1994年10月までのデータが準備されている。次に定常気象観測による方法では晴天時には可降水量と地表面気圧で放射量をパラメタライズし、曇天を含んだ全天の場合には日照時間を用いて雲の効果を定式化している(S(N)と表記する)。このデータセットは1970年から30年以上の蓄積がある。これら独立に得られた2つの放射量を比較したところ、一般にBeijingやShanghaiなどの大都市圏ではS(N)が小さく、一方Hailer やHefeiなどの郊外の中規模の都市ではS(N)とS(Langley)はよく一致し、またLhasa やMadoiといったチベット高原に近い西部一帯では概してS(N)が大きいことがわかった。大都市での違いはS(N)におけるエアロゾルの仮定の妥当性について、チベット高原に近い西部での違いはS(Langley)における地形の扱いについて更に検討する必要を示唆している。

(2) 中国の日降水量解析データ構築についての進捗状況

Pingping Xie(NOAA), Mingyue Chen (NOAA),谷田貝 亜紀代(地球研)

我々は、気象・水文水資源分野への応用を目的とした日降水量グリッドデータセット構築を行っている。データがどれだけ入手できるかという点と、ユーザーの要求とを考慮し、次の3つのデータセットを作成することを予定している。1)東アジア(70E-140E/0-60N)における0.5度格子の雨量計に基づくデータ、1961年以降現在まで(基本プロダクト)、2)1)を黄河流域について0.1度格子におとしたもの(派生プロダクト)、3)近年について衛星と雨量計を結合解析した0.25度グリッド、東アジアについてのデータ。

我々は、できるだけ多くの雨量計データを集め、長期にわたって入力データの変遷の少ないconsistentなデータセット作成を目指している。現在までのところ全球通信システム(GTS)、中国気象庁関係、黄河水利委員会のデータをあわせて東アジアで約2500地点のデータを入手している。グリッドデータ化アルゴリズムはChen et al. (2002)と概ね同様で、1年間365日それぞれの降水気候値を作成し、日々のデータの気候値に対する比(ratio)の空間分布に最適内挿法を適用し、最後に気候値とその比の値を掛け合わせることによってデータを作成する。今後は、この気候値の成分に、地形効果を入れる予定である。

(3) 黄河流域の広域水収支の経年変動

谷田貝 亜紀代(地球研)

1990年代後半から、気象分野の再解析客観解析データが配布され、経年変動が議論できるメリットを生かし多くの研究に用いられている。報告者はすでに、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)の作成した15年分の再解析(1979-1993)データにより、すでにユーラシア内陸についての水収支の見積もりを行ってきた(Yatagai, 2003)。大気水収支法を用いると、客観解析データと河川流出量との対比や、グリッド降雨データとあわせて解析することにより蒸発量変化の見積もりなどが可能である。現在、ECMWFによる第2世代再解析(ERA40)データを用いて黄河流域の水収支の経年変動の解析を行っている。

(4) 中国における下向日射量・大気放射量の評価について

徐 健青(地球フロンティア),早坂忠裕,河本和明(地球研), 萩野谷成徳(気象研)

ルーチン気象観測データから下向日射量・大気放射量を推定する方法を紹介・応用した。下向日射量はジョルダン係数を用いて,日照時間から推定した。下向大気放射量は湿度,気温,及び下向日射量から算出した。また地形の影響も考慮し、観測データを用いて計算結果の検証を行った。中国における31の気象観測所について,30年(1971−2000年)間の日射量・大気放射量を計算した。日平均値から見ると,日射量は140−240Wm-2,大気放射量は220−380Wm-2で変化していることが明らかになった。また日射量と大気放射量の最近30年間の気候変化も調べた結果、31ヶ所中,Hotan と Lushi以外29ヶ所では,大気放射量が増加傾向にあることが明らかになった。日射量に関しては,大都市で減少傾向にある。 また、すべての観測所で気温は増加傾向にあり、ほとんどの場所で,水蒸気圧は増加傾向である。日照時間で計算した日射量はNASA Langley Research Centerの地表面放射収支データにある衛星データを用いて作られた日射量とも比較した。日照時間で推定した日射量S(N)と衛星データで推定した日射量S(Langley)は郊外と思われるところに位置する観測所でよく一致し,大都市と思われるところでS(N)<(Langley),チベット高原でS(N)> (Langley)となった。日射量の地理的分布のマップも提出した。

(5) 黄河デルタ域での地下水・河川水・海水相互作用に関する予備的結果

谷口真人(地球研)・小野寺真一(広島大)・宮岡邦任(三重大)・徳永朋祥(東大)・陳 建耀(地球研)・Guanqun Liu (中国海洋大)

黄河デルタ班の研究目的は、黄河上流域での気候変動や取水に伴う水循環変化や、デルタでの堆積・侵食環境変化、周辺地下水環境変化が、黄河流出量および地下水流出量にどのように影響を与えているかを明らかにし、それに伴う(河川および地下水による)渤海湾への物質負荷量の変化について解明することにある。2002年8月と2003年9月に以下のような観測を行った。測定項目は(1)水質分析を含む地下水測水、(2)ピエゾメータ法による河川水―地下水動態・地下水―海水動態調査、(3)比抵抗トモグラフィー法による塩水―淡水境界面の推定である。(1)の水質調査からは、黄河デルタの地下水は深度方向に水質の変化が見られる傾向が明らかになり、酸素・水素・窒素・炭素などの安定同位体の測定とあわせて、地下水の起源と流動方向を特定できる可能性があることが明らかになった。また(2)の調査結果の地下水ポテンシャル分布からは、黄河から地下水、地下水から渤海への水の流動が明らかになり、地下水流動方向に伴う水質の変化、および黄河断流の影響が地下水水質に残存している可能性が明らかになった。また、(3)の調査では、地下の比抵抗値から読み取れる地下水の塩分濃度の違いから、デルタ内では浅層に比較的淡水に富んだ水が存在し、それに対して深層には塩水に飛んだ地下水が存在することが明らかになった。また地下水は、沿岸に近づくほど同深度で塩分濃度が高くなること、潮汐の影響をうけて塩淡水境界面が変動することなどが明らかになった。

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