理論モデル班会議 報告                                                         (2007年10月22日 地球研)

参加者: 陀安一郎、松岡真如、中丸麻由子、高津文人、和田英太郎、酒井章子、市川昌広、谷内茂雄、山村則男、石井励一郎

1.プロジェクト内での理論モデル班の位置づけと現段階でのモデル全体構想  [石井]
2.各モデル進捗と今後の目標     [中丸・山村]
3.同位体分析手法                                      [陀安・兵藤・高津]
4.衛星画像解析手法                   [松岡]
5.議論と今後の予定

 

1. 現段階のモデル全体構想 [石井]
 本プロジェクトのなかでの理論モデル班の目標は、1.人間活動と生態系の持続性に関する新しい理論構築、2.この問題に関してサラワク・モンゴルの両地域の生態系の定量的データを取り入れた系間の比較と将来予測に資するモデル構築、の大きく2つある。
1.に関しては各班員がそれぞれの切り口で取り組んでいるが(中丸さん、山村さんからの報告:後述)、とくに2.についてはモンゴル・サラワク両班との初期計画段階からの協力が重要である。
まず両地域に共通した視点と量、各地域固有の問題を扱うモデル、地域内でもモデル化とデータ収集をおこなう対象地域や量について、空間スケールを整理することからはじめたい(図1)。
本プロジェクトの特徴は生態系内、生態系-人間活動の相互作用網の効果を取り入れることにある。従来の小面積での相互作用結果を直接大面積での影響評価へ積算し推定する単純な「原単位法」では取り込めない、その中間のスケールでおこる人間活動の特性と生態学的メカニズムを明示的にモデルに取り込み、そこから初めて得られる予測を提案したいと考えている。
たたき台として提出した図1は、これまで各班での会議で出た主な変数、メカニズム・関数、検証データなどについて、3つの空間スケールに分けて整理したものである。人間活動の空間分布を決める「移動」と「定住(土地私有化)」のプロセスが働く空間スケールは交通・流通の発達に伴い大きくなっているが、一方、生態系・生物資源分布は気候や地形の制約が大きく、移動分散の空間スケールも種固有であり、人間に比べその変化は小さく遅いと考えられる。したがって実際の人間による生態系利用とその持続性をモデル化するには、これらの複数のスケールを跨げる構造を持つことが必要ではないかと考え、空間構造のない相互作用を考える[小スケール](従来の原単位に相当)と気候傾度や経済活動を主に扱う[大スケール](国内の分布・長距離移動)の間に、生物群集(植生)の分布や人間社会の共同体の大きさに対応する[中スケール]をおいて考える。
また、上記のようなトランススケールモデルの枠組みに対応し、かつ両地域に共通して用いることが可能な定量的データに基づく実証研究手法として、衛星画像データ解析手法と同位体分析手法の利用の可能性について議論した。これらの手法はともに、観測データ・統計データとの比較からさまざまな空間スケールでの人間活動、生態系構造の双方の分析に用いられている。とくに統計データの入手が困難な小・中スケールでの利用法についての理解を深めたい。

 

2. 各モデル進捗と今後の目標 [中丸・山村]
生物資源の空間分布と人間によるその所有権の問題 [中丸] (←中丸さん、間違ってたら訂正をお願いします) (小−中スケール)
サラワクでのアナツバメの巣の所有権と利用法のあり方と巣個体群の持続性を例に。個体群動態モデル([除去+劣化]→ツバメによる営巣場所選択→再生→・・・)。人間の利用様式が「収奪的」か「保全的」をとるときの持続可能条件について、アナツバメ側の空間利用・繁殖パターンと、人間側の社会ルールと経済効果をとりいれた理論モデルから議論。
→空間構造を取り入れたモデルへの発展を視野に
→モンゴルの冬営地などの保有権と家畜密度との問題への応用が可能か。県によって制度導入に差がある。
→サラワクでは土地の所有権のあり方が世代を経ると変わる可能性がある。

生物資源と非生物資源の分布に連動した人間の移動 [山村] (小−大スケール)
モンゴルで近年顕著な都市人口の急増と産業人口の変動を例に。
大スケールの地域特性である都市-草原間の2産業形態の上での人口変動を評価する空間経済モデル。各地域での利得比較から人間の移動が起こることに着目。都市での利得に関する密度効果、移動のコストに依存した安定性の解析(場合分けした各条件下でのリヤプノフ関数を合成した安定性解析手法の開発)
→連続モデルから広域・多点モデルへの拡張
→モンゴル、サラワクでの人の移動がどの程度非都市部(田舎)の生物資源量に依存しているかは検証データが必要。

 

3. 安定同位体分析手法  [陀安・兵藤・高津]
人サンプル(毛髪、骨コラーゲン)の安定同位体分析の利用について [陀安]
毛髪の同位体はその人の食性を反映していることを利用すると、異なる地域、時代の食性の差異を知ることができるかもしれない。これは家畜などの動物とも合わせて同位体マップを描ければ、食物網構造の変化を知る手がかりになるだろう。
ただし対象となる地域での潜在的食物のうち、各食物がもつ同位体マップ上での特性(シグナル)があり、較正をおこなう十分なバックグラウンドデータ(ダイエットの聞き取りなど)が必要になる。また過去のサンプルは数が少なく入手困難なことが障壁。
→C4植物(自生、輸入飼料由来)やマメ科植物の分布に地域性などがあれば可能性。
→サンプリングの段階で成否は決まる。十分な質と量のサンプルを。
→大スケールでの人の食物源として依存している生態系特性のパターン抽出・モデル検証の可能性

14C同位体分析を用いた食物年齢推定法の利用について             [兵藤]
生物サンプル内の14C比から炭素の固定された年代が推定できる手法を用いれば食物網解析に時間軸を加えることができ、窒素同位体比とあわせることで食物網内の分解系の重要性や、生態系内の炭素の回転速度の評価ができる可能性。
草原、熱帯林など土地被覆ごとの物質循環特性を知る手がかりになる。
→中・大スケールでの食物網・物質循環特性

土地被覆・地形特異的な植物の安定同位体比の特性の利用について [高津]
これまでのモンゴル各地での植物−人間の同位体分析データから、斜面の上下で植物の窒素動態比が異なることを紹介。人間の同位体比の変化は必ずしも食物網上の位置の変化だけでなく利用している生物の由来する地形も反映することに注意しなければならない。
→十分なサンプルと、同位体効果のメカニズムとシグナル要因がわかれば、乾湿傾度、地形、人間活動影響などと関連させて、食物網のベースとなる植物の同位体地図 を描けるかもしれない(同位体GIS構想、まだまだ現実的ではないが)
湿度変化の指標となる酸素同位体比と、光合成活性の指標となる炭素同位体比を年輪サンプルについて分析すれば、森林の衰退など古環境の変動過程を知る手がかりが得られるかもしれない。

 

4. リモセンによる土地被覆分析手法  [松岡]
衛星データによる土地被覆分類の概要の説明後、空間スケールに応じた利用可能な衛星・センサー・データの特性について解説。被覆に特異的な反射特性パターンから土地被覆を推定することはどのスケールでも共通だが、とくに国全体などを含む大スケールでは時間解像度の高いデータが利用できるため、植物の季節変動を利用する事ができる、雲の影響を軽減する事ができる。より小さいスケールを対象とした解析にはLandsatなどを用いるが、較正用の地上データを用いて分光反射特性を利用する・クラスタリングや最尤法などがよく用いられる。より微小なスケールでは地図情報(GIS)や画像データのテクスチャーなども用いることで推定をおこなう。
あくまでも「土地被覆」であって「土地利用」ではないので、その変換には十分な背景情報が必要。
モンゴルでの利用に関しては、空間スケール:大〜中、対象期間:1980年代前半〜2000年代前半で、時空間解像度の異なるNOAA/AVHRR, Aqua/MODIS(広域・短周期)、Landsat/TM, ETM+(詳細・長周期)を併用することで、石井らがモデル化を進めているような木本と草本の占める土地被覆について時間変化が追える可能性が高い。とくに、木本→面積の変化、草本→生物量の変化、まで推定できれば、人間による資源利用形態と結びつけて考えやすくなるのではないか。「衛星データから草本植生の変動が分かるのか?」「衛星データから植生量を推定できるか?」は取り組みたい課題。これらの解析に必要なデータ(可能なら時系列で):・植生量(草本)・気象データ(日射量、気温、降水量 etc.)・放牧の位置と頭数など。
ただし衛星画像データから得られた各指標が変化する理由が、複数ある場合はその吟味が必要。
→サラワクについてはおそらくより高空間分解能をもつデータを用いる必要があるだろう。
→超高解像度データを用いれば定住化による土地の囲い込みの様子もわかる可能性

 

5. コメントと議論
「役立つモデルとプロジェクトにするために」 [和田]
・現在広く認知されている問題と結びつけること(温暖化、水不足…)
・衛星画像データとシミュレーションをフルに用いてアジア→世界へと結果を広げて見えるようにすること
・説得力を持つためには視覚的な要素も重要
・後の研究に使えるデータベースを残せるか

モデルとのつながり:
土地被覆を生物資源供給可能量の指標、人間を含む動物の同位体比をそれが実際に依存している生物資源の指標と位置づけ、「地域の人が依存する食糧としての生物資源の供給源としての生態系がどの範囲か」というような視点をもったときに、ひとつの共通軸となるモデルスキームは作れるかもしれない。

問題点と課題: 
同位体分析用のサンプルの困難。十分な質と量のサンプルを、背景となる同位体効果のメカニズムやその指標要素の把握とともに得ることが必要となる。個体差などによるバラつきを消せるか。

リモセンのデータ依存性。解析の精度は質のよい画像データがどれだけ入手できるかに依存する。モデルのイメージが具体化すれば、目標となる指標と使用を検討すべきデータの見当もつくだろう。とりあえずは簡単なところからはじめればいいのではないか。
→モンゴルでの遊牧と土地被覆変動を関連付けたモデル試作を提示する(石井)