大学利用機関法人・人間文化研究機構・総合地球環境学研究所は、地球環境問題に関連する様々な事象を、文理融合的・総合的に捉える研究プロジェクトを実施する機関として2001年に成立されました。「熱帯アジアの環境変化と感染症プロジェクト(the RIHN ecohealth Project)」は2008年より5年間の予定で開始され、熱帯アジアでの20世紀から今日までの疾病構造の変化(健康転換)を、その自然環境変化・社会環境変化・生活変化との関係で捉えることを目的としています。
この研究プロジェクトでは、健康転換の研究には歴史家の視点が不可欠と考え、「歴史・文献班(代表:飯島渉青山学院大学教授)」を組織し、歴史資料を中心に、長期的な時間軸のなかでマラリアや日本住血吸虫病などの対策史、その社会的意味に関する研究を進めています。ラオスなどの東南アジアを対象としていますが、歴史資料は乏しく、同時に、中国・雲南省や日本での歴史統計資料についても分析し、その手法や発見を東南アジアにも展開していきたいと考えています。その上で、疫学・熱帯医学・公衆衛生学研究者と歴史家との具体的コラボレーションの可能性を検証するのがひとつの狙いです。
研究の一環として、昨年8月に台湾でシンポジウムを開催し、今年8月に韓国International Congress of Asia Scholarsでシンポジウムを開催いたしました。
今回、第50回日本熱帯医学会大会のサテライトシンポジウムとして、「沖縄でのマラリア対策から学ぶべきこと--熱帯医学と歴史学の会話--」を企画いたしました。実際には、座談会と資料見学会を予定しております。大会初日に語られる熱帯医学会50年の歩み」を顧みながら、沖縄の健康転換の実態とそれをもたらした要因について、マラリアをきっかけにしながら、自由に話をしていただきます。それによって、今後の具体的研究のヒントが得られることを狙いとしております。
当日には、13時から沖縄県公文書館で沖縄県マラリア関係資料の閲覧・解説を企画しており、座談会における共通の話題にしたいと考えております。
座談会では、まず、八重山の歴史を、とくに民衆史の視点から掘り起こし、沖縄・八重山のマラリアの歴史に詳しい三木健氏(八重山地方史研究会会長、石垣市史副編集委員長)から、話題を提供していただき、その後、多田功氏(九州大学名誉教授)や宮城一郎氏(琉球大学名誉教授)から熱帯医学あるいはマラリア媒介蚊の生態などの視角から議論を展開していただきます。
そして、『マラリアと帝国』の著者である飯島渉氏(青山学院大学教授)から、沖縄のマラリア対策の台湾や東南アジアとの関係、また、感染症対策の社会的意味について議論を展開していただきます。
このサテライトシンポジウムでは、こうした討論を通じて、マラリア研究を軸に熱帯医学研究の今後、さらには生活者である私たち一人ひとりにとっての感染症研究の意味を多面的な視角から考えてみることにしたいと思います。(門司和彦)