本ワークショップでは、日本や東南アジアでみられる森林保護制度が、森林やその周辺で森林を利用しながら暮らしている人々(森に暮らす人々)にどのような影響を与えているのかを報告し、森林保護と彼らの森林利用がどのように両立できるのかを考える。
世界の森林は依然として急速に劣化・減少している。地球温暖化や生物多様性の減少といった地球環境問題が声高に叫ばれる中、国際的には森林は炭素貯留や生物の生息地としての役割が認識されるようになった。たとえば、気候変動枠組条約の締約国会議では、二酸化炭素削減という御旗の下、少しでも自国に有利な条件を取り付けるために表舞台や水面下でさまざまな駆け引きが演じられている。その結果が国際レベルあるいは国レベルにおいて、環境保護の政策・制度となり現場へ降りていく。
東アジアから東南アジアにかけては、森林が切れ目なく分布しており、そこに森に暮らす人々がみられる。彼らと森との間には、物質的・経済的なつながりばかりでなく、信仰や世界観の形成など文化的にも強いつながりがある。その森林が商業伐採、農業開発、ダム建設などさまざまな開発によって消失し、そこに暮らす人々が大きな影響を受けてきたことはマスコミなどによってたびたび報告されてきた。しかし、開発だけが彼らの暮らしに影響を与えてきたのではない。環境保護のための政策や制度も、ときに彼らの森林利用を大きく規制し、彼らの暮らしに打撃を与える。
二酸化炭素の削減や生物多様性の保全は、国や国際的なレベルにおいて重要な課題であり、そのための森林保護は欠かせないだろう。しかし、そのためにその森林に暮らす人々の生活が損なわれていいはずがない。ここに本ワークショップが検討するジレンマがある。
森林保護の制度は数多くみられる。ワークショップでは、最近の新しい動向に着目しつつ、いくつかの制度を取り上げる。各々の制度は、国や地域ごとの社会的、文化的、生態的な環境を背景として、その効用や森に暮らす人々への影響は異なってくる。そこで各発表者は、ひとつの地域に話題を限定し、地域性を十分考慮した議論をする。
ワークショップでは、森林保護制度を森に暮らす人々からの「距離」により3つに分けて検討を試みる。すなわち、国際的な制度、国による制度および住民参加型の制度である。国際的な制度は、もっとも森にすむ人々から「距離」があり、彼らの森林利用への配慮は小さくなる可能性がある。逆に参加型の制度は、配慮はいき届きやすいはずであるが、実際にはどうであろうか。各発表者が示す事例を通じて、森林保護と森に暮らす人々の森林利用のジレンマをどのように解決していくか、今後に向けてのヒントをさぐる。