演者は学生の頃から、長いこと、実験室でタンパク質の精製をしたり、ヒト癌細胞を培養する実験バイオ科学者として過してきた。そういう実験科学が、人類社会に直接、しかも大きく貢献すると思っていた。長いこと、そう思っていたが、そういう実験科学をいくら続けても、研究システムを変えないと人類社会に大きく貢献することはないと、少しずつ感じていた。
1995年に文部省在外研究の機会が与えられた時、アメリカのNIH(国立生命科学研究機構)・国立がん研究所の研究費配分事務局に5カ月滞在し、アメリカの研究費配分の思想・実務・文化を調査研究した。人間の行為の1つの根幹は「カネ」だと思ったからだ。そのアメリカで学んだことは、「研究費はアメリカ国民の幸福の増進」が目的であって、目的は科学の発展でも、ましてや科学者の発展でもないということだ。科学や科学者の発展は手段であって目的ではない。
それ以来、「バイオ研究技術を(日本)国民の幸福に結びつけるにはどうしたらよいか?」という行動する学問「バイオ政治学」を提唱している。
本講演では、「アメリカの研究費配分制度」、「日本の研究不正」を例に、日本の政治はもっと現場の科学者を取り込み(あるいは双方向の交流をし)、健全な科学技術社会の構築を目指すべきだという主張を展開したい。また、現場の科学者は、自分の狭い専門領域だけでなく、科学周辺の問題(つまり、国民の幸福に結びつける行為)に対応すべきだという主張も展開したい。
【白楽ロックビル】(1947年生まれ、59歳20カ月)
現職:お茶の水女子大学大学院・ライフサイエンス専攻・教授
1974年 名古屋大学・理学研究科・分子生物学修了(理学博士)
1976年 筑波大学・生物科学系・講師
1980年 米国NIH国立がん研究所(分子生物学部)に2年間 留学
1995年 文部省在外研究で米国NIH・研究費事務局+豪・ウーロンゴン大学・研究政策センターに10カ月間留学
2006年 サバティカル:欧州22ヵ国の26大学・3研 究所訪問
【専門】
細胞接着分子の生化学+バイオ政治学(研究政策、研究者倫 理、メディア研究)
第6回 10月18日(木)
「『史上空前の論文捏造』と“変容する科学” 〜番組取材の現場から〜」(仮題)
村松秀 (NHK科学・環境番組部専任ディレクター)
第7回 11月22日(木)
「市民のための歴史、理系のための歴史〜歴史教育の再生をめざして」(仮題)
桃木至朗(大阪大学教授)