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第11回地球研市民セミナーが開催されました。

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  2006年3月3日、第11回地球研市民セミナーが開催され、白岩孝行地球研助教授が、海の生態系を豊かにする栄養塩を注ぐ川や森の役割について、大陸と日本列島を結んで解説しました。

 以下はその講演要旨です。

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「アムール川・オホーツク海・知床−巨大魚付林という考え−」

白岩孝行

 我が国から世界自然遺産として推薦した「知床」が、2005年7月14日、南アフリカ共和国ダーバンで開催された第29回世界遺産委員会において世界自然遺産に登録されることが決定された。知床の世界自然遺産としての価値は、北半球で最も低緯度に位置する季節海氷域に位置し、海と陸と川がシステムとして豊かな生態系や生物多様性を維持している点である。しかし、このシステムは世界遺産への推薦書が描くような知床に限定したローカルな現象というよりは、アムール川・オホーツク海・知床という巨大なシステムとして捉えるべきと我々は考える。そしてこれを「巨大魚付林」と命名する。
 オホーツク海は世界三大漁場のひとつであり、その豊かな海洋生物資源はわが国が消費する水産資源の11%を担っている。オホーツク海を含む北部北太平洋海域は、冬季の鉛直対流によって深層から大量の窒素やリンなどの栄養塩が表層にもたらされる豊かな海だが、最近の研究では、鉄がその生物生産を制限していることが分かってきた。植物に必須の元素である鉄は水に溶けにくく海洋表層では不足しがちであるため、植物プランクトンは大気や河川を通して陸から運ばれて来る鉄に依存する。陸から遠い北部北太平洋の中央部では夏季には鉄が不足し大量の栄養塩が利用できずに表層に残るが、オホーツク海では栄養塩が完全に無くなるまで生産が続く。これは、アムール川から供給される大 量の鉄のおかげであると我々は考えている。鉄は森や湿地から生み出される腐植物質と結合しなければ水に溶けにくい。アムール川流域の変遷、即ち、森林の伐採・火災、農地・都市化、湿地の縮小などは、それ故、水産資源の宝庫であるオホーツク海〜北西部北太平洋の生産力の命運を握っている可能性がある。
 このようにアムール川流域の自然環境はオホーツク海を支える源と考えられるが、その一方で昨年11月に起こった中国吉林省の石油化学工場の爆発事故によるニトロベンゼンの流出事故に代表されるように、オホーツク海にとって好ましくない物質をもたらすこともまた事実である。また、最近稼動を開始したサハリンの海底油田も、事故の際にはオホーツク海に壊滅的な影響を与えることが心配される。「溶存鉄」と「汚染物質」というアムール川がオホーツク海にもたらす正負の側面を同時に考え、またアムール川流域における種々の人為的改変の背景を考えることによって、アムール川・オホーツク海・知床という巨大魚付林の生態系を保全していくための方策を今後4年間でさぐりたいと考えている。
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