表紙は語る

短い夏にせっせと育つ

林 健太郎(教授)

林健太郎さん_短い夏にせっせと育つ
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 「北極」または「極北」は雪と氷の世界、とのイメージをおもちと思います。ところが、短い夏には地表が露出し、花ばなが咲き、鳥たちが訪れ、獣たちが行き交う島じまがあります。北緯80度付近に位置するスバールバルもそのような土地です。雪解けまもなくに生まれた鳥や獣は、数か月のうちに大きく育たなくてはなりません。さもないと、南に飛び立つことも、諸島に残り厳しい冬を耐えることもかないません。

 ホッキョクギツネは、「猫のような犬」とも称される和猫サイズの小柄なキツネです。この表紙の子ぎつねは両手にすっぽり収まる大きさ。すでに親離れして、みずから餌を探していました。あと2か月ほどでやってくる冬に備えて、なんでも食べて大きくなります。褐色の毛は、冬に向けて真っ白でふわふわな毛に換わり、氷点下数十度でも平気です。小さいけれど優れた旅人。ひと冬に何千キロも旅するものもいます。タフな獣ですが、温暖化の影響は確実におよんでいます。気候も餌も競合者の事情も変わります。愛らしく、たくましく、したたかな極北の獣たちが永らえること、そして、植物や鳥や海獣も含めて、このように素敵な生きものたちが極北に暮らしていることをぜひ知ってほしいのです。

撮影:林 健太郎

撮影日:2017年7月

撮影場所:スバールバル諸島スピッツベルゲン島