環太平洋ネクサスプロジェクトのフィールドから ・・・・・ ①

地球研は社会と連携して環境問題の解決に取り組んでいます。この新コーナーでは、開かれた環境学をめざすさまざまな活動を報告します

せーのではかろう! 別府市全域温泉一斉調査

王 智弘 (プロジェクト研究員)

 環太平洋ネクサスプロジェクトでは2016年と2017年の11月に、大分県別府市で温泉の温度や成分の変化を調べるため、市民参加型の温泉一斉調査を行ないました。日本有数の温泉地である別府には、泉源が市内各所に分布していて、その数も日本で最多といわれています。近年は入浴だけでなく、温泉の熱を利用した発電にも注目が集まっています。

誘う

 別府市の市民生活や観光に欠くことのできない温泉を持続的に利用するには、継続的に記録をとりながら、その変化の有無を確かめることが重要です。研究プロジェクトでは、その土台づくりとして、市民が温泉の科学的なフィールド調査を体験し、地域資源への関心と理解を深める機会が必要だと考えました。企画の準備段階から市役所の温泉課や地域のNPOである別府温泉地球博物館と打ち合わせを重ね、イベントを告知するチラシを作成して参加者を募りました。

協力する

 イベント当日。午前の部の訪問調査では、参加者が11チームにわかれて市内各所に点在する約50か所の観測地点に向かいました。調査チームには温泉にくわしい「温泉マイスター」の方がたや大学生たち、研究プロジェクトのメンバーも加わります。向かう先は事前に調査の許可をいただいている旅館やホテル、市営・区営の浴場、病院や老人ホーム、個人事業所や個人宅などです。現地では、泉源の所有者や管理者の立ち会いのもと、水温と電気伝導度、pHを測ります。測定したデータをその場でスマホ画面から送信できるように、データ登録フォームも準備しました。

共有する

 午後の部では、まず、別府温泉地球博物館の由佐悠紀館長が別府温泉の熱水ができるしくみについて講演しました。つづけて、午前中の調査結果の速報を報告しました。イベント後には、くわしい結果を広く市民と共有するために、ホームページ「別府市全域 温泉一斉調査マップ」も立ち上げました。別府市全域の泉源の温度は1980年代後半に調査されていますが、それ以降は広域での調査は行なわれていませんでした。約30年前の調査結果と今回の結果を比較すると、泉源の温度に大きな変化がないことがわかりました。

願う

 比較的簡単に測ることができる泉源の温度を点ではなく広い範囲で把握することは、温泉資源の状態を理解するひとつの手がかりになります。定期的な観測による地道なデータの蓄積はだいじな取り組みですが、その活動を一部の研究者だけでつづけてゆくことは困難です。今回のイベントや今後の取り組みを通じて、地域社会のより多くの人が温泉のモニタリングにかかわるようになることを期待しています。

大分県別府市 地図
測定結果を市民と共有するための「温泉一斉調査マップ」

測定結果を市民と共有するための「温泉一斉調査マップ」(http://www.wefn.net/beppu/index.html

2017年のイベント告知のチラシ

温泉の暖かいイメージに合わせた2017年のイベント告知のチラシ

バルブ近くで泉源の温度を測る

バルブ近くで泉源の温度を測る

■プロジェクト

アジア環太平洋地域の人間環境安全保障─水・エネルギー・食料ネクサス

 水・エネルギー・食料のつながりの解明から、資源間のトレードオフを減らし、利害関係者間の争いを解決することで、人間環境安全保障の最大化をめざします。

おう・ともひろ

専門は資源論。研究プロジェクト「アジア環太平洋地域の人間環境安全保障」プロジェクト研究員。2013年から地球研に在籍。