表紙は語る

僕の仕事

上原佳敏(プロジェクト研究員)

僕の仕事

 「ぼくが汲む!」そう言わんばかりに、男の子が父親からボトルを受け取り、泉の湧水出口にて泳ぎながら水を汲む。「その水を見せてよ!」と声をかけると、ボトルを高だかと上げてくれた。その姿を見つめる父親の温かい眼差しが心に残っている。
 私たちは、フィリピン最大の湖であるラグナ湖にそそぐ一河川で、川の栄養素といきものの多様性の関係性について調査をしている。この地域を流れる川は想像を絶するほど汚いため、正直、水を触りたくはない。いつもゴム手袋、胴長、マスクの完全防備で調査に臨む。この河川の周辺には、いくつもの泉があり、過去には利用されていた形跡がある。しかし、現在は水道が整備されたことにより、人びとが泉を利用しなくなり、関心が削がれ、ごみであふれてしまっている。そのような状況のなか、この写真の泉は人びとの信仰の対象とされ、飲料水として、遊びの場として利用されている。この泉の周辺では水が澄んでおり、日本のペットショップで売られているような魚が泳ぐなど、とても美しい状態を保っている。
 父が子といっしょに水汲みをすることで、自然を利用しつづけ、自然との関係性を維持することにつながる。どうしたら、この自然を次の世代に残すことができるのだろうか。その答えの一つがここにある気がした。

撮影:2015年12月

撮影場所:フィリピン シラン市

●表紙の写真は、「2016年 地球研写真コンテスト」の応募写真です。