表紙は語る

歓迎の歌

阿部健一(地球研研究基盤国際センター教授)

阿部健一_歓迎の歌

 大阪大学の若い友人たちに誘われて、久しぶりに中国雲南省に行った。20年ほど前には頻繁に通い、少数民族の住む辺境の地にも足を運んだことがあった。その後、急速な経済発展を遂げた中国だから、彼らの生活も近代化されて、かつての景観・生業が失われていることは想定内である。それに「かつて」といまをつなげてゆく作業は悪くない。よく練られた計画に沿って移動し、見聞きしたものすべてを楽しんだ。
 ただ「ラフ族の歌を聞きに行こう」と言ったときは乗り気ではなかった。少数民族の伝統芸能といいながら、都市在住の漢民族の、それなりによくできた観光客相手のショーを見せられるにちがいないと思ったからだ。
 予想はみごとに裏切られた。
 連れてゆかれたのは、町から遠く離れた集落。谷間に臨む開けた木張のステージがしつらえられている。すでに準備は整っていた。民族衣装を着た一団が待たせることなくステージにあがった。
 歌は、ぎこちなく始まった。しかしすぐに声が舞台に響きだし、踊りも熱を帯びてきて見ているほうはいっきに引き込まれる。歌い手は女性。男性は、日本でいえば笙、タイやラオスのケーンにあたる竹製の笛を吹きながら踊る。見せるためというより、みずからが楽しんでいるのがいい。ギターはキリスト教の宣教師が残していったもの。雲南の少数民族にはキリスト教徒が少なからずいる。ゴスペルのようだと思ったが、どこかで共通するところがあるのだろうか。
 最後に歌ってくれた『さよならは言わない』は国内でもけっこう知られている曲だそうだ。別れの悲しみを次に会えることへの期待へと替えた詞も印象的である。「作詞作曲したのは彼だよ」と教えられた方向に目をやると、ごくふつうの農家のおじさんがいる。日に焼けた顔に刻まれたしわが、笑うとだれよりも深い。

撮影:2016年9月

撮影場所:(中国雲南省 ビルマ国境沿いの町 西盟)

●表紙の写真は、「2016年 地球研写真コンテスト」の大賞受賞作品です。