表紙は語る
少女と犬
蒋 宏偉(地球研研究基盤国際センター特任助教)

「少女と犬」は、ほぼ10年前に、私が中国海南省五指山市で調査したときに、撮影した写真である。7月のある日の夕方、ちょうど二期作めの田植え準備の最中であった。少女たちは、家の犬を連れて、水田の隣で遊びながら、両親の作業の終わりを待っていた。調査の終了後には、海南省の村に行く機会がめっきり減り、少女たちが村から離れるまえに会えることはなかった。
近年、何回か村に訪れる機会があった。だんだんに年をとってゆく両親から、当時の子ども、少年、少女の話をよく聞くが、写真のような村の風景をもう見ることはできなかった。新しくできた家が集落中に整然と並んでいる。静かに並んでいる。かつてよく目にした若い人びとが遊んでいる風景は、もう見ることができない。
こうした風景は中国農村地帯の常態となりつつある。年月とともに高齢化の道をたどるのは、日本の過疎地域だけではない。急激な都市化と一人っ子政策を背景に、数多くの中国農村もこうした状況になりつつある。
もう一度「少女と犬」のような風景を見たい、そして写真を撮りたい。もうできないかもしれない。近代化は私たちの生活向上に寄与したものの、私たちの生活にあるべきものも奪ったかもしれない。これから、「少子高齢化」が急速に進むアジア社会の問題について、研究者のみならず、地域住民とともに考えてゆくべきであろう。
撮影:2007年7月
撮影場所:中国 海南省五指山
●表紙の写真は、「2015年地球研写真コンテスト」の応募作品です。