特集3

第17回地球研地域連携セミナーの報告

理想の食卓から考える地域の未来 能代で持続可能な食のあり方を探る

報告●太田和彦(地球研プロジェクト研究員)

第17回地球研地域連携セミナー『30年後の能代のために、明日のごはんを考えよう──能代の食の未来とトランジションの可能性』を、秋田県能代市で開催した。この地域連携セミナーは、地域の直面する環境問題の根底を探って、地域の人とともに解決法を考えるのが目的だ。今回は持続可能な社会にむけた「農」と「食」のあり方について、能代市の住民とともに考えた

 今回の地域連携セミナーは、2つの講演とワークショップというかたちをとった。いずれもテーマは「食」と「トランジション」である。
 まず、地球研准教授で「持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築──食農体系の転換にむけて」(FEAST)プロジェクトのリーダーであるスティーブン・マックグリービーさんが、フードポリシー・カウンシルなどを紹介した。これらは、食農システムの関係者と自治体、NPO、そして一般市民が協力しあって、未来の「理想の食卓」を実現するための課題と向き合うしくみである。
 次に、秋田県立大学教授の谷口吉光さんが、2016年に、FEASTプロジェクトが能代市で行なった3回のワークショップの成果を紹介した。これは「30年後、能代で囲む理想の食卓はどのようなものか」、「それを実現するために、いま、なにをしなければならないか」というテーマで、多様なバックグラウンドをもつ能代市の皆さんにご参加いただいた意見交換会のまとめである。今回のワークショップは、この意見交換会の拡大版といえる。
 ワールドカフェ形式を模した今回のワークショップでは、能代松陽高校の高校生たちを交え、活発な議論が行なわれた。京都、長野、秋田のおいしいガッコ(漬物)とお茶も、リラックスした雰囲気をつくるのに一役買っていたように思える。伝統食材のさまざまな料理法を学校での紹介したり、漁業資源を守るために他県との連携するというワークショップ中に出たアイディアは、最後に模造紙にまとめられ、全員に発表された。
 この報告では、お開きのあとにお話を聞かせていただいた3人の方のインタビューをご紹介したい。

ワークショップの進め方

ワークショップの進め方
  1. ❶ 参加者は少人数ごとにテーブルに分かれ、各テーブルで話しあいをします。
  2. ❷ 時間がきたらテーブルホスト以外はべつのテーブルへ移動します。
  3. ❸ テーブルホストが、そのテーブルのまえの参加者の話しあいの要点を説明し、新しい参加者はそのテーマを引きついで話しあいをします。
  4. ▶ 最後にテーブルホスト、コーディネーターが話しあいをふり返り、まとめます。

ふだんは出会わない人たちとの意見交換

(夏坂浩史さん、能代松陽高校3年生)

太田●夏坂さんは谷口さんのトランジションの新聞記事を読んで、この地域連携セミナーにも興味をもってくれたのですよね。それはどういう問題意識からなのでしょうか。

夏坂●私は将来、行政職員になりたいと考えています。そのため、地域の活性化について能代市でどのような取り組みがあるのか知りたいと思い、今回の講演に参加しました。そこで「食と農業をつうじた地域活性化」という方法があることがわかりました。
 あと、JAや農家さんなど、自分がふだんの生活のなかで会う機会がない方たちと意見交換をできる場を設けていただき、じっさいにいろんなお話を聞くことができてとてもよかったです。

太田●そう言っていただけてとてもうれしいです。ワークショップの意見交換のなかで、印象的だった点としてどんなところがありますか。

夏坂●今回は「魚」と「米」のテーブルに参加しました。皆さんからのお話を聞いてとくに印象的だったのは、「米」のテーブルでJAの方がされていた、農家の後継者不足に悩んでいるというお話です。課題の一つとして、お米をつくるときにつかう機械などがとても高いため、補助金が求められているということでした。新規就農者をどのようにサポートしてゆくかという課題に対して、私は行政職員の立場から取り組みたいと考えており、若い人がもっとお米づくりに取り組みやすい環境を整えられるのではないかと思っています。

太田●夏坂さんが関心をもっていることを、仕事としてやっている人たちとじっさいに会う機会をつくることができて、なによりです。

地産地消の試みをつながりやすくする

(高橋陽子さん、「コンポスト見なおし隊」隊長)

太田●高橋さんは能代市を中心に活動されている「コンポスト見なおし隊」の代表をされていますが、今回の講演とワークショップで新しく発見されたことがあれば教えていただけますか。

高橋●スティーブンさんのお話を聞いていて、おもしろいなと思ったことでいいですか。スティーブンさんが日本の農村をひじょうに美しいとお話してらっしゃいましたね。でも、日本の農政はアメリカ型の大規模農業をめざして展開しているはずなんです。けれど、アメリカの方からすると捉え方がちがうんだなという。それはちょっと意外でしたね。

太田●現在の農政もうまくはいってないわけですよね。

高橋●あと、ワークショップでもお話が出た、地産地消。能代はひじょうに地産地消がさかんなんですよ。どこに行っても産直のお店があるし、スーパーにも産直のお店が入っていて、だれがつくっている作物なのかがよく見える、わかるようになっているので、すごく豊かな地域だと私は思っています。でも、五番めのテーブル「山里海を守る」でお話がありましたけれど、能代はまだ地産地消をばらばらにやっていると思います。

太田●たしかに、今回の皆さんのお話を聞くと、「もう始めているよ」という声が多かったのが印象的でした。いままではばらばらにされていたことを、どうやってつながりやすくするかは大きな課題ですね。

高橋●そうです。これをきちんと意味づけて、自治体として政策のようなかたちでお互いをつながりやすくすれば、トランジションというのも能代でできるかなと思いました。

太田●「能代ではもうこんな活動が始まっていますよ、いかがですか」と市に働きかける。

高橋●そうそう。(笑)「こちらではこうやっているよ」、「あちらではこんなことをやっているよ」、と情報共有ができればほんとうにトランジションできると思います。

食というキーワードが拡げる関心

(大柄沙織さん、北羽新報記者)

太田●北羽新報さんには、FEASTプロジェクトの2回めのワークショップをおおきく取り上げていただきました。今回の地域連携セミナーにもご参加いただき、ありがとうございます。いつもインタビューしていただいている人に、逆にインタビューをしたいのですが、なにがきっかけで興味をもっていただいたのか、うかがってもよろしいでしょうか。

大柄●そうですね。第一報は、谷口先生からのプレスリリースだったのです。能代に絞った話題だったので興味をもちました。さらに、秋田は農業県ですので農業を切り口にしているということ、TPPの問題や、地域を取り巻く環境が厳しいなか、とてもタイムリーな話題だなと思い取材させていただきました。

太田●今回は農だけでなく、食という観点からも、能代の30年後を考えるワークショップを行ないましたが、そこはいかがでしたか。

大柄●すごく拡がりのある、多くの人が関心をもてるキーワードだったと思います。農というと、農業に従事している人だけの問題という捉え方をする人もいると思うのですけど、食となると全員にかかわりますから。

太田●なるほど、食べずに生きる人はいないですものね。生活のほとんどすべての側面とかかわりがあります。

大柄●そうです。食というキーワードがあることで、それが市民全員で考えてゆかなければいけない問題であることをあらためて感じました。

地域連携セミナーを終えて

 ワークショップはあっという間に終わってしまい、楽しかったがもっと話したいことがあったという声もいただいた。それぞれのテーブルでは新しいアイディアが次つぎに生まれ、1時間30分では足りなかったように思えた。セミナーを契機に、能代市とその周りでいままで出会わなかった方がたが話をする場が今後もつくられれば、これに勝る喜びはない。今回のワークショップで生まれたアイディアは、FEASTプロジェクトのWebサイト(http://feastproject.org/)で掲載している。

ご協力いただいた皆さま

地図
第17回地球研地域連携セミナー フライヤー
8つのテーブルには「お米」、「山菜」、「魚」、「加工品」、「山里海を守る」などのテーマが設けられている

8つのテーブルには「お米」、「山菜」、「魚」、「加工品」、「山里海を守る」などのテーマが設けられている

ワークショップにご参加いただいた皆さま

ワークショップにご参加いただいた皆さま。模造紙に書ききれないほどの意見が交わされた

おおた・かずひこ

専門は環境倫理、食農倫理。研究プロジェクト「持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築──食農体系の転換にむけて」(FEAST)プロジェクト研究員。2016年より地球研に在籍。日本版フードポリシー・カウンシルを研究中。