表紙は語る
水はつなぐ
押海圭一(地球研特任技術専門職員)
宿で借りたぼろぼろの自転車にまたがり、アンコールワットで日の出を拝んだあと、広大なアンコール遺跡をとくにあてもなくさまよっていた。11月のカンボジアはちょうど雨季が明けたころでとても暑く、日本の晩秋の空気に慣れた身にはかなり堪えた。
太陽も真上に上がったころ、通りかかった大きな湖のような遺跡で、ほとんど裸の子どもたちが発砲スチロールのかけらを即席の浮き具にしながら、楽しそうに泳ぐようすにシャッターを切った。風もなく鏡のような水面に、子どもたちの小さな水しぶきだけが音を立てていた。ガイドブックによると、この遺跡はスラ・スラン遺跡という名で、東西700m、南北350mの巨大な人口池と、それを東向きに臨むテラスで構成されており、12世紀の王族が沐浴をするためにつくられた、とあった。
アンコールワットのような石づくりの遺跡は、長い年月を経てもその存在によって、見ているわれわれを過去の世界、過去の人びととつなげてくれる。同じように、スラ・スラン遺跡の水も、そこで遊ぶ子どもたちと過去の王族、さらにはそれを見ている自分をつなげてくれているように感じた。
あまりの暑さにぼくも泳ごうかと思ったけれど、子どもたちをびっくりさせるのも悪いと思い、やめておいた。
撮影:2014年11月
撮影場所:カンボジア スラ・スラン
●表紙の写真は、「2015年 地球研写真コンテスト」の応募写真です。