表紙は語る

象神さまのお祭り

遠藤 仁
(人間文化研究機構 総合人間文化研究推進センター研究員/秋田大学国際資源学研究科 現代中東地域研究拠点 客員研究員)

遠藤仁_象神様のお祭り

 インド西部を中心に、雨季の終わりの8月末か9月初めに開催される、ヒンドゥー教の神ガネーシャの祭り「ガネーシュ・チャトゥルティー(Ganesh Chaturthi)」。マハーラーシュトラ州のプネーのものが有名であるが、各地の水場でも行なわれている。
 祭りの開始までに、木の骨組みに泥で成形され、さらに豪華に彩色された大小のガネーシャ神が毎年大量につくられ、11日間つづく祭りの最終日に川に流される。写真を撮ったラージャスターン州南部の街では、大きな川はない。代わりに湖があるため、湖に浸して、祭りは終了となる(湖では溶けきらないので流さない)。
 近年の祭りでは、大音量のボリウッド・ミュージック(インド映画で用いられる現代的な音楽)と踊りまくる若者、さらには色つきの粉の振り撒き合いなどが見られ、まさに狂乱の相を呈している。
 最近のインドの祭りは、ヒンドゥー教のものにかぎらずこのように騒がしいものが多く、「本来の意味を喪失しているのでは」と部外者は思ってしまう。それでも伝統文化が賑わい、つづくのはよいものだという考えもあるが、ガネーシュ・チャトゥルティーはイギリス植民地下で、独立運動の人集めの方便で開始もしくは大規模になったといわれている。そのため、その歴史は浅い。
 フィールドワーカーとしては、このような祭りに接したさい、「伝統」や「文化」ということばについて深く考えてしまうが、けっきょくは巻き込まれていっしょに踊り出してしまうのである。

撮影:2015年8月

撮影場所:インド ラージャスターン州

●表紙の写真は、「2015年 地球研写真コンテスト」の応募写真です。