特集2
女性目線で地球研を語る
いま、ここにしかない環境をだいじに
話し手● 大元鈴子(地球研プロジェクト研究員)
+小林 舞(地球研プロジェクト研究員)
+ 鎌谷かおる(地球研プロジェクト研究員)
+大林玲子(地球研管理部財務課長)
+ 辻村はな子(地球研管理部財務課財務企画係員)
+増田真帆(地球研管理部企画連携課共同利用係員)
編集●王 智弘+鎌谷かおる
地球研の横顔をざっくばらんにお伝えする「ほろ酔い地球軒」。今回は、研究員と事務職員との座談をお届けします。
じつは、ふだん研究員と事務職員のあいだにコミュニケーションの機会はそれほど多くはありません。学者や専門家だけでなく、社会全体に開かれた研究をめざす地球研。そういう意味では、研究員を支える事務職員は、いちばん身近な対話の相手になりえます。それに、研究所も研究者だけで維持されているわけではありません。組織への思いも人それぞれです。
今回メンバーは女性ばかり。研究の世界はまだまだ男性が多数を占める社会。しかし、環境問題を抱える地球に住む人間の半数は女性です。ワインのまわりを飛び交う女性目線のことばが、いつもの地球研像に彩りを与えてくれました
鎌谷●いまは忙しい時期ですか。
大林●財務課は、来年度の予算確保のために文科省に提出する資料づくりや事前相談に忙しいですね。これがなかなかむずかしい。
鎌谷●たくさん勝ちとってください。(笑)
大林●それには「こんなことをしたい!」といういい案が出てこないと。
鎌谷●予算を獲得する仕事は、お好きですか。
大林●研究者の先生と相談しながらポンチ絵をつくって、作戦をたてて文科省にプレゼンに行くのは好きですね。結果はクリスマスプレゼントになったり、お年玉になったり……。一喜一憂しながら待ちます。ともかく腕しだい。
大元●祝杯になるかヤケ酒になるかですね。
大林●これまでの地球研は予算はついていましたが、これからはそういう時代ではない。高齢化が進んで医療費も年金ももっと必要になるでしょうし、少子化で働く人が減って税金が入らないのに、日本は自然災害が起こりますし。
鎌谷●それでも日本の将来にとって必要だと理解してもらえる研究には、研究費がつきますよね。
大林●それを一般の人に説明しないと……。
鎌谷●それはすごくむずかしい。
大林●地球研のおもな財源は運営費交付金、つまり国民の税金なので、地域社会の課題解決や活性化に貢献するとか、成果を人びとにアピールしてゆくことがだいじだと思います。
霞ヶ関でプレゼンを
大林●若い研究者のみなさんと、いちどいっしょに文科省に行ってみたいな。
小林●なぜですか。
大林●厳しいやりとりを体感してほしい。先生が緊張されるので「だいじょうぶです、私がいますから」と言うのですが、話が長くなったり、相手の反応がぜんぜん見えなくなったり、真意をうまく伝えられない。
小林●聞く人たちが威圧的だからとか?
大林●それはないです。
小林●みなさんスーツ着用ですよね。(笑)
大林●いちどそういう場を経験するとプレゼンがじょうずになりますよ。
小林●研究者も研究はだいじだからと甘えているところがあると思う。学問の世界で業績を積むための作法は知っているけど、実社会に貢献するとなると、どうすればよいかわからない人は多いかも。
言葉とコトバとKTB
小林●事務職員とは使用する言語も表現方法もちがう気がする。対話でそのギャップを埋められればよいが、若手研究者は書類作成のだいじなポイントがまだわからない人が多いから。
大林●行政文書はむずかしいですからね。
辻村●特有の言い回しをつかいますね。
大林●私が文科省で教わったことは、「公文書は字間と行間を読め」。ちなみに、「打ち合わせは空気を読め」。
辻村●私はまだ、公文書はあまりうまく書けません。漢字のつかい方にも特有のルールがありますね。
大林●「から」と「より」もちがうし、「及び」と「並びに」、「又は」と「若しくは」も、つかう順番が決まっている。
鎌谷●専用の辞書はあるのですか。
辻村●マニュアルがあります。
小林●ほんとうにちがう言語みたい。
大林●丸つき数字、かっこや片かっこをつかう順番も決まっている。
辻村●それに「イ、ロ、ハ」をつかう。
大元●私なんか、かわいいとか、読みやすいという理由で選んでいました。順番なんか気にしたことがなかった。
大林●どこで切れるのかわからない壮大な文章ができあがったりします。論理的という意味では論文にちかいかも。
辻村●ご興味があればいつでも事務室にきてください。研究資料にはなりませんが。
大林●地球研独自の用語はありますか。
大元●学術用語ではないけど、地球研の英語名が壮大すぎて、所属を名乗るのが恥ずかしいときがありますね。リサーチ・インスティテュート・フォー・ヒューマニティ・アンド・ネイチャー。地球上の現象のすべてを対象にしている。(笑)
小林●「地球研」って、キラキラしている。(笑)
大元●なんだか地球を守れそう。あと、「2研」や「10研」は、最初はわからなかった。
辻村●研究室の番号だと気づくのに3か月かかりました。(笑)
小林●あとは「未来可能性」、「フューチャラビリティ」。
大林●新しいことばもつくっている。ことばの省略も多いですね。IS(インキュベーション研究)やFS(予備研究)、PR(プレ・リサーチ)とか。
思いきり気負ってます
鎌谷●仕事でむずかしいと感じることはありますか。
大林●公務員や大学職員は長年男社会だったので、まず「飲みニケーション」です。飲み会に参加するのも、仕事の一つですね。
鎌谷●研究の世界も男社会です。
大林●むかしよくいわれたように、まず同じ釜の飯を食うことがだいじ。男性は飲まないと本音をしゃべらない人が多いので、飲み会をして男性陣のスイッチを解放する。
小林●私はアメリカの大学から日本に戻って、そのことを発見しました。ふだんは言いたくても言えない。飲み会でないと議論ができないのは、不健康な感じもする。
大林●考えようによれば、昼間の会議のプレゼンに失敗しても、飲み会で挽回できるという利点もあります。(笑)
小林●でも、そうまでしないと自由に議論できないのは息苦しい。それは男性の世界だからでしょうか。
大林●女性はそうでもないですよ。飲まなくてもしゃべる。(笑)
鎌谷●私を見ましたね。(笑)
大林●男性はふだん中身より面子を重んじる人が多い。飲んだらようやく開放されて本音が出る。(笑)女性は臨機応変です。実をとる人もいれば、名をとる人もいる。場によってどうすることがいちばんよいかを選ぶし、すぐに結論に行くので話が早い。本質を先に聞きたがります。
鎌谷●女ばかりの職場と男ばかりの職場では、どちらが仕事をしやすいと思いますか。
大林●どちらもむずかしい……。女性は意思がはっきりしているから、言いすぎてしまう。たぶん女性のほうが、感情も強い。
鎌谷●でも引きずらない。
大林●引きずらないです。(笑)
鎌谷●ご自身が財務課長というリーダーとして働いていて、どうですか。
大林●思いきり気負って仕事しています。
鎌谷●それをどういうときに感じますか。
大林●つねにです。毎晩体重を量るのですが、月曜日から金曜日までは右肩下がりで、土日で少し増えます。
鎌谷●まとめ食べをするのですか。(笑)
大元●ちがうと思います。(笑)
大林●予算がないと研究ができなくなり、出張も行けず、備品も買えず、いずれ人員も減らさないといけなくなる。予算を確保するのは、とにかくだいじです。「事務屋」の誇りもあります。事務職員がいてこそ研究者が輝けると思うので……。
狭き門をくぐり地球研へ
増田●私は、国立大学法人等職員統一採用試験を受けて地球研にきました。「研究所の事務職員になって研究を支えるには勉強しておいたほうがよいかな」くらいの気持ちで、大学院の修士課程に進学しました。それでも、地球研で自分の道を切り開く研究者のじっさいの姿を見て、すごいなと思います。
鎌谷●行き止まりかもしれませんよ、その道は。(笑)
増田●先生がたの突き進むパッションはすごい。これを支えることができたらなと思うのですが、足を引っ張っているのではという気もする。
大元●就職試験のまえに見学の機会があるんですよね?
増田●はい、第一次試験に合格したあと、地球研に採用予定があるというので機関訪問しました。そのあとの第二次試験に合格して、ようやく採用になりました。
大元●そこまでして、地球研で働きたいと思った?(笑)
増田●私が通った中学・高校は規模が小さかったのですが、大学になると規模が大きくなって、よくわからない不安にいつも駆られていました。だから、地球研の小ささは居心地がよくて、ここがいいなと。
大元●事務系職員の採用は狭き門ですね。
辻村●試験を受ける人数はわかりませんが、機関訪問にくる人は60人くらい。採用は毎年1人あるかないかですから、倍率は100倍くらい。
大元●そういう話を聞くと「研究者よりよほど優秀」ですね。たいへんお世話になっています。(笑)
どんどんいろんなつながりを!
大林●理系もたいへんだと思うのですが、文系で研究をつづけるのは生半可ではないですよね。就職口が少ないし。
大元●厳しいですよね、風当たりが。
大林●博物館の学芸員の席も空かない。大学や研究所の倍率も高いですよね。
国は歴史や伝統文化を重要視していますね。学校教育や地域の文化遺産の保護などの活動とリンクして、人文系の職が増えないかな。あと、地球研の研究者が国や自治体の委員会によばれて、話すチャンスがあればいいなと思います。たとえば、琵琶湖の富栄養化の研究がありますよね。日本のどこかの湖で問題が起こったときに意見を述べたり、委員会の座長や座長代理になって、研究成果を課題解決に直結させたり……。
小林●男性社会のにおいがします……。
大林●多様なつながりがあると、研究所としても予算担当職員にとってもありがたいです。国や自治体とかかわっている先生、NPOや地域のグループと仲のよい先生、民間企業とパイプがある先生。全員同じタイプだと困るので、どんどん多様なつながりが拡がってゆくといいなと。
小林●次のプロジェクトを公募するときに、これまでにないカラーのグループを採用するのはどうですか。企業とのかかわりとか、多様なつながりをふくむプロジェクトをあえて採用するとか。
アイディアをかたちにする遊び
増田●地球研になぜ人が集まるのでしょうか。大学でも環境問題は研究できるのに、なぜ地球研でプロジェクトを立ちあげるのかな。
小林●若い人たちが多くて、おもしろいという評判なのかもしれない。
大元●参加人数の多い、大型のプロジェクトが実施できるからかもしれない。けど、研究員レベルの人にとっての魅力は、そういうものではないかも。
小林●予算的にまだ余裕があるから、おもしろいアイディアが生まれる。
大元●アイディアを実現する環境がある。
小林●アイディアをかたちにするには遊びがすごくだいじだと思う。失敗が許される余裕がないと、みんな気を詰めて研究しないといけないから。
増田●遊び心をもてる。
小林●そう、「おもしろい人だから」という理由だけでも、人をよんで話を聞くことができる。そういう余地から生まれるアイディアはすごくだいじ。
大林●これから仕事の量は増える、人は減る、研究費も活動費も減る。それでも地球研にいたいと思える魅力をどう維持してゆくかがだいじだと思いますね。
大元●トランスディシプリナリーの研究はそういう魅力ではないでしょうか。一つの研究室に、自分の分野からかけ離れたことをしている人がいる。私の研究室でいうと、三木弘史さん。物理や数理モデルを研究している。それから、私の前職は国際NPOのスタッフでした。そんな経歴の人間を研究員として採用するのも、トランスディシプリナリーを掲げる地球研ならではのことです。
鎌谷●その意味で、地球研の売りは人ではないかなと思います。いろいろな知識や経験をもつ人が、ひとつの場所にいる。
ほかの学問分野の人と接すると、気づかないうちに研究者としての自分が修正されるというか、影響を受けている。たとえば、私は日本史専攻ですが、日本史の研究会ではいまだに紙のレジュメをつかいます。ほかの分野の研究会に出ると、当然のようにパワーポイントをつかう。
小林●刺激の質がほかの研究所とはちがう。
鎌谷●文理融合研究にしても、ほんとうにできている大学や研究所はじつは少ない。「理系のプロジェクトにいるけれど、言われることだけをしている」という文系の人もいる。それはかたちだけの文理融合です。地球研は、ほんとうの文理融合をめざして、いろいろな人を巻き込んでいる。
辻村●地球研は、じっさいに文理融合ができている研究所ですか。
鎌谷●できている、できていないかよりも、挑戦している。これがだいじだと思う。英語の名称はヒューマニティとネイチャーの研究所。対象は、人と自然です。いま自然界で起こっていることに応急処置を施す研究は必要ですが、自然界が変わったときに人がどう考えるか、どう行動するかの研究も必要です。地球研はそれができる場所だと思います。
なにかが壊れるかも、でも
鎌谷●50年、100年先の日本人の暮らしにも役だつ研究は、人と自然という視点でしか見えてこない。それをつくり出している背景は、やはり人と人とのつながり。
いろいろな分野の研究者が出会って話をするなかでなにかが生まれる。なにかが壊れるかもしれないけれども、またなにかが生まれる。そういうものを売り出すことができれば、地球研はとてもよい研究所だといえるのではないですか。
小林●なにかを生むには壊れる場、壊す場が必要かもしれない。自分の研究分野に集中している人が多いから。
鎌谷●よい意味で自分の分野を壊す。成果を急ぐいまの世の中だからこそ、それができる場はすごく大切です。私自身が歴史研究者の少ない地球研に所属して、とくにそのように思います。
環境問題は、かたちとして見えにくいかもしれません。でも、機械ではなく人が考えることです。人と自然との問題を文理が手を携えて探って、「これができる研究所は日本でここしかない」とアピールしたい。
小林●国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)でも、プロジェクトはグループで行ないますね。環境問題に取り組むには、異分野コミュニケーション能力は欠かせない。同じ分野の人とのコミュニケーション能力だけを高めても、環境問題は解決しにくくなるだけです。地球研のプロジェクトはIPCCと似た構造だと思う。
大元●だから、地球研にはちがう分野の人に「それはわからない」とはっきり言える雰囲気があります。「知っていてあたりまえ」の雰囲気はない。
小林●「なにが問題なのか」をきちんと見分けるために必要な体制、しくみを探ろうとする空間が地球研にはできていますね。
地球研は好きですか?
鎌谷●予算も少なくなって、したいこともできなくなって、研究所の規模も小さくなるかもしれない。でも、地球研は人と人とをつないで新しい研究を生む空間だと思います。みなさん、地球研は好きですか。
大林●好きです。赴任してまだ1か月ですが。今後の予算獲りを思うと、いまから頭が痛いですが。(笑)
辻村●大好きにちかいくらい好きですね。
鎌谷●私も大好きです。
大林●地球研はまっすぐな人が多い印象がありますね。
辻村●研究者は地球研の「人と自然の相互作用」や「環境問題は人間と文化の問題」というポリシーに共感する人が多い。だから、こういう雰囲気になるのかなと思います。
増田●でも、厳しさが足りない気もします。
小林●地球環境の研究者はよりよい世界を求めてもいるけれど、そう一筋縄ではいかない。課題の大きさも意識している。それでも、「なにをしてもむだ」とは思っていない。「なにかをしたら、よくなるだろう」という期待があるからがんばれる。
大林●「いま」をだいじにしましょう。ずっとここにいられるわけではないんだから。
鎌谷●ここにいるあいだに得られることは、この先の研究者人生にも役だつと思いたい。
それに、こういう座談の場を定期的にもてると楽しいですよね。互いがどういうことを考えているのかがわかる。
大元●毎号しますか? でも、だんだんほろ酔いではなくなる。(笑)
鎌谷●「へべれけ地球軒」。みなさんから迷惑がられそう。(笑)
大林●女子会にせず、毎回男性のゲスト一人にきていただくのは。
鎌谷●みんなで攻めてみる。
小林●所長一人とか。(笑)
大林●プロジェクトリーダーとか。(笑)
(2016年5月9日 地球研ハウスにて)
(写真右より)
ますだ・まほ
地球研管理部企画連携課連携推進室共同利用係員。大学院で水圏微生物学を専攻。研究基盤国際センターを中心に地球研の研究活動を支える。2015年から地球研に在籍。
おおばやし・れいこ
地球研管理部財務課長。大学院では日本中世史を専攻。京都大学、文化庁、文部科学省、山梨大学、鳥取大学等を経て、2016年から地球研に在籍。
かまたに・かおる
専門は歴史学(日本近世史)。研究プロジェクト「高分解能古気候学と歴史・考古学の連携による気候変動に強い社会システムの探索」プロジェクト研究員。2014年から地球研に在籍。
つじむら・はなこ
2011年四月採用。卒論のテーマは、海水魚のなわばり防衛行動。某水族館の飼育員経験有り。地球研の予算に関する業務を担当し、現在、予算獲得のために奮闘中。2014年4月から現職。
おおもと・れいこ
専門は認証制度地理学。研究プロジェクト「地域環境知形成による新たなコモンズの創生と持続可能な管理」プロジェクト研究員。2013年から地球研に在籍。
こばやし・まい
専門は環境社会学。研究プロジェクト「持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築:食農体系の転換にむけて」(FEAST)プロジェクト研究員。2016年から地球研に在籍。