終了プロジェクト
プロジェクト区分 | CR |
プロジェクト番号 | C-02 |
プロジェクト名 | 地球規模の水循環変動ならびに世界の水問題の実態と将来展望 |
プロジェクト名(略称) | 世界水プロジェクト |
プロジェクトリーダー | 鼎 信次郎 |
プログラム/研究軸 | 循環領域プログラム |
○研究目的と内容
当初計画における研究目的とその達成度
「地球環境問題における緊急課題の一つである世界水危機を対象として、21世紀の重要な鍵である水問題に対して解決への道筋を提案することができる情報基盤の構築」が、計画当初(あるいは地球研設立以前)の目標であった。
その後、所属する研究軸の変更、それに伴うプロジェクトタイトルの変更などに伴い、「地球水循環と世界規模の水問題に関して、その実態を明らかにし、将来展望を描く」ことが研究目標となった。背景が世界水危機である点は何ら変わらない。その中で、世界的な将来展望像を基に「具体的な水問題を対象とし、文理融合研究による問題解決志向の研究を試みる」ことも目標とされた。
期待される成果は第一に、IPCCレポートなどの国際出版物への報告、すなわち当該分野に関する日本からの情報発信と設定された。世界の水循環と水資源がどうなっているか、将来どうなるか、についてである。また、「人間活動の影響が大きくなり現実と自然が乖離している状況に対し、自然に人間活動を含めた全体を地球システムとして捉える」ということを世界水資源・水循環の視点から示し、その主張を広めることも成果目標であった。
研究成果の詳細は以下の「具体的な研究成果」に述べるが、「実態を明らかにし、将来展望を描く」という面および「国際出版物への報告」という面については、2007年発行予定であるIPCC/AR4への大きな貢献や、2006年8月に発行されたScience誌の淡水資源特集セクションでの冒頭論文などという形で、目標達成したと考えている。「自然に人間活動を含め..」という面では、Vitual Waterの我々の成果図が、地球環境に関する最大の国際学術会議であるESSP(2006年、北京)のプレナリーにおいて、まさにそのような文脈で、外国の他人によって少なくとも3回は紹介されたことが判明している。十分に達成したと考える。「文理融合...」という側面は、そもそも多くの大学等で失敗しているように、難しい課題であった。しかし、いくつかの挑戦を行い、一定の成果を得た。その経験は次世代へ伝えることができ、チャレンジした甲斐は十分にあったと考える。
○本年度の課題と成果
具体的な研究成果
「実態を明らかにし、将来展望を描く」という最大目標に関しては、世界でもほぼ最先端の世界水循環・水需給の推定を行い、それらの将来展望を行うことに成功した。その結果、前リーダーがIPCCおよびミレニアムアセスメントのリードオーサーとなり、特にIPCC/AR4へは我々の成果が反映されると考えている。また、Scienceの淡水特集の冒頭を飾ることによって(Oki and Kanae,2006)成果を大いに宣伝した。
上記に関して、具体的な内容を記す。まず地球水循環に関しては、過去100年(1901-2000)の日々の陸域水文量(流出、蒸発、土壌水分、積雪、洪水・渇水等々)の変動を世界で初めて再現した(Hirabayashi et al.,2005)。同時に将来100年についても、幾つかの手法により推定値を作成した。また、現在および将来100年の世界の水需要量も推定した(Shenetal.,submitted)。これらの多くは全球1度あるいは0.5度グリッドという水平解像度で行った。これらの推定値を統合することによって、現在および将来の世界の水逼迫度を算定した(Oki and Kanae,2006)。結果として、1)現在でも20億人超が水ストレス下にあること、2)将来、水ストレス下にある人口は増加するものの、その程度は我々の選択(=将来シナリオ)に大きく依存すること、3)温暖化問題のように遠い将来が問題ではなく、現在および現在からの数十年が重要であること、などが示された。
一方、これらの従来型の水逼迫度アセスメントでは、食料や製品の貿易による仮想的な水の出入り(Virtual Water Trade)が考慮されていなかった。我々は、過去数十年の世界のVWT量を算定し(Oki and Kanae,2004)、現時点でのVWTは通常の取水量の一割程度であることや、日本が最大のVW輸入国であることを示した。このVWTに関する推計は、たまたま注目され、多くのマスメディアや一般書で紹介され、世界水問題を日本で啓蒙する役割を担った。
VWTの将来予測も望まれるところではあるが、非現実的なものとなりがちであり省略する。
「具体的な地域の水問題を対象とし」という点では、カリフォルニアとアジアを扱った。前者は上記の「実態」研究でホットスポットとされた地域だが、そこでの水不足対策が吟味された。特に、大渇水への対応策として1991年に導入された水取引の仕組み(水銀行)に注目し、その法的枠組み、効果、問題点を考察した。その結果、水不足に対してはダムなどのハード面と同時に、法整備といったソフト面での対応も有効であること炉判明した。
具体的には以下のことを明らかにした。
1)カリフォルニア州には複数の水利権制度(主なものとして専用権、沿岸権)が存在するが、その形成過程で、思わぬ形で水取引を妨害する条項が多数内在するようになった。
2)水取引を重要な水不足対策と位置づけた州政府は、1980年代から法改正を通じてその除去を試み、それが水銀行を機能せしめた一因となった。
3)水銀行とは市場メカニズムの要素を取り入れた自発的な水取引の仕組みである。州政府は水の固定価格を設定し、それを基礎に利水者間で自発的な水取引が行われた。それは需要に応じた水の配分を実現し、政府が硬直的な割り当てを行った場合に比べ、渇水被害を抑制する効果をもった。
4)一方、問題点として、地下水の枯渇など取引外の第三者に負の影響が及ぶ可能性が判明した。この問題については、その後の制度改変で対応した。
最後に主要な成果論文をリストアップする。
・Oki,T.and S.Kanae(2006):Global hydrological cycles and world water resources,Science,313,1068-1072.
・Hirabayashi,Y,S.Kanae,1.Struthers,T.Oki(2005):A100-year(1901-2000)global retrospective estimation of the
terrestrial water cycle,J.Geophys.Res.,110(D19),D19101,doi:10.1029/2004JDOO5492.
・Oki,T.andS.Kanae(2004):Virtual water trade and world water resources,WaterSci.&Tech.,49,203-209.
・Shen,Y,T.Oki,N.Utsumi,S.Kanae,N.Hanasaki:Projection of future world water resources under SRES scenarios:1.
Water withdrawal,2.Assessment,Hydro.Sci.J.,submitted.
当初計画外の研究成果
Virtual Waterに関する情報が国内の一般市民レベルで、とても有名になるに至った。Virtual Water研究自体は「実態を明らかに」という方面の研究ではあるが、具体的にVW研究を行うかどうかは当初未定であったし、「国内の一般市民や他分野の研究者への啓蒙」も努力目標ではあったが、このように幅広く社会に影響を与える事態になるとは想定していなかった。
また、カリフォルニアを対象とした研究は、土地勘も手掛かりもなかったため、実際に現地を訪れないことには始まらなかっただろう。その機会を作っていただいた先生方、皆さん、研究所に感謝したい。
地球研の理念に対する成果の位置づけ
1,地球環境問題と設定した「人間と自然の相互作用環」をどれだけ深く掘り下げることができたか
1)水に関する問題は、そもそもが人間と自然が深く絡み合った世界であり、我々が初めて「人間と自然の相互作用としての水循環」などと言い出したわけではない。ただし、すでに記したようにESSPで数回我々の結果が赤の他人・外国人に引用されたわけだが、地球の自然水循環に関する研究は多数あったものの、地球規模の自然水循環・水収支を人間との相互作用を考える必要がある点はほとんど指摘されてこなかった。純粋なものを研究したい科学者達の諦めが悪かったともいえる。我々は、そのような中で、地球規模の水循環を考える際にも「自然一人間系」で考えるしかないことを世界の中でも先頭を切って主張してきた。掘り下げたのとは異なるかもしれないが、切り開いたとはいえよう。
2)「その相互作用環がどのような状態になれば地球環境問題が解決されたと考えるのか、その状態近づくために研究成果がどのように資するのかについて記すこと」に関しては、「解決」などという容易なものは現代社会では存在しないことをヴィジュアルに示した。というのでは逆説的過ぎるであろうか。本プロジェクトでは、地球上での我々の水利用は、これほどの空間および量的規模で広がっていることを示し、さらには、普段は意識しない他地域の水に多量に依存していることも示した。単純な仮定での未来像も示した。それでもまだ「解決」という
ことを考えるのだろうか。ある一つの小さな流域を完全にクリーンに保つことは、それなりに出来るかもしれない。しかし….地球環境問題とは解決策を探ることではなく、程度を踏まえての共存策を探ることであろう。そういう手掛かりを示したと考える。
2,未来可能性を実現する道筋の探求がどれほど達成できたか
1)世界の水需給の将来予測(正確にはprojection)をbusiness as usualに近い複数のシナリオで行い、「このままいくと、どうなりそうか」を示した。それによって21世紀半ばが、一つの超えるべき山場であるかもしれないことを示した。同じ結果から、未来は自分たちの手で選べるとの示唆も得られる。また、本プロジェクトは、自らが「未来予測」を出し、その未来予測を国際的に流布することに努めたわけだが、これも地球の未来に自ら働きかける一つの重要な手法であると考える。
2)また世界の水需給の将来予測と同時に、水需給の逼迫が予想される特定の地域(具体的にはカリフォルニア州)を対象に、水不足問題への対応策も検討した。そこではダム建設に代表されるハード面での対応と同時に、法整備といったソフト面での対応も有効な対策となり得ることを明らかにした。もちろんカリフォルニアの取り組みが世界全体に適用できるとは考えていない。むしろこの研究の意義は、カリフォルニア州の事例研究から水法規定と水配分の関係を抽出した事である。カリフォルニア州は様々な水管理手法が試されている「実験場」のようなところであり、この分析視点は将来、他地域の水不足対策を考える上で重要な視座になると考えている。
3)また、タイを対象として、水資源管理の制度がいまだ整備されていない場合の未来可能性を探った。その結果、資源量の多寡の実態からその認識に、焦点を移すことの有用性を明らかにした。
4)現在においても、たとえばvirtual water貿易という形で、どれだけ「不自然」なことをしているかを定量的に示した。その過去数十年の変遷も示した。一方で、水不足を緩和すると思われがちなvirtual waterであるが、最貧国には効果がないことも示した。
5)洪水・渇水への現実的な対処のためには、予警報の充実が、特に途上国で必要とされる。期間内に具体的なシステムの開発、実現とまではいかなかったが、いくつかの基礎研究を進めた。プロジェクトは終了するが、この交流を続け、数年後には本当に実際に役立つシステム構築へと結び付けたい。
3.総合性、国際性、中枢性はどの程度満たされていたか
1)総合性については、プロジェクトリーダーの出身である水文学を母体としながらも、既存の水文学からは完全にはみ出るような総合的研究を行った。自然水循環については気候システム学や地球化学の知識も取り込み、取水の将来予測は社会工学などと言われる分野の手法を用いた。また、たとえばvirtual waterに関しては、水資源と食糧とをsustainabilityの視点からつなぐ重要な研究である、と評されたこともある。さらに、それらの水危機を示す図表とリンクする形での政治学的、社会学的研究を進め、社会制度面からの危機脱出の方策を探った。
2)国際性に関しては、個別の研究の面においては、国際的な地球規模水循環推定計画であるGlobal Soil WetnessProject2のデータセンターの一部を米国COLAおよび東大生産研と共に担ったり、あるいは水循環モデルの精度向上や取水データ等の取得において、アジアおよびヨーロッパのいくつかの機関と協力するなどの活動を行った。また、発表面では、IPCCやミレニアムアセスメントのリード一オーサー、Scienceへのレビュー論文の招待、国際学会への幾つかの招待講演の要請、上記ESSPでの成果の広まりからも、十分に国際的に活動したと考える。
3)中枢性なるものがあったかどうかについては、本書類に記述した成果をもとに判定していただくしかないと考える。
4.地球環境問題の解決に資する研究蓄積として何が残せたか
1)世界が将来どうなりそうかという予測は、水資源に関しては、これまではたいてい欧米の研究成果に基づいて行われてきた。日本の予測が取り入れられている例は非常に少ないのではないか。我々の未来をどうしていくかを自分達で決める第一歩として、「世界の未来予想図を我々自身が発信して世界のコミュニティに取り入れてもらう」、ということがあるだろう。将来の水資源というテーマに関して、本プロジェクトは、その可能性を示したと考える。これによって、世界水危機に関して国際的に何らかの意思決定が為される場合、我々の予測値が使わ
れる可能性が十分にある。一方で、基礎理論のように一度発見すれば永遠に名前が残るというものではなく、今後も同様の努力を継続して最新の予測やアセスメントを発表し続けることが肝要である。
2)ローカルに現れる地球環境問題の影響や現在の状況を正確に把握するためには現地を訪れたり、現地の研究者との交流することが欠かせない。これは、世界規模の予測に途上国の実情を組み入れるためにも必要である。本プロジェクトを通して、これまで足がかりのなかった地域を開拓して現地との研究協力体制、現地での情報収集体制を構築/強化できたことは大きな財産といえる。
5.他の研究プロジェクトといかに連携できたか
1)残念ながら、それほどの大きな連携の成果はない。ただ、佐藤プロジェクトにおいて、積極的にVirtual Water的な考え方を取り入れようとして下さる動きがあり、有り難く思っている。
2)個別のデータや方程式を利用したということはないが、いくつかの水関係のプロジェクトの報告や発表を「概念的」に参照させていただいた。ただ、それらは成果の中でも自分の頭の中でも、他の要素と一緒に溶け込んでいて、細かくは言及できない。一方で、他の水関係のプロジェクトの方においても、我々の作成した大雑把な図が何らかの発想の種になっているようであれば、幸いに思う。
○共同研究者名(所属・役職・研究分担事項)
◎ |
鼎 信次郎
|
( 総合地球環境学研究所・助教授・総括 )
|
|
安形 康
|
( 東京大学大学院新領域創成科学研究科・助手・地球陸水水循環の算定 )
|
○ |
荒巻 俊也
|
( アジア工科大学大学院・助教授・都市用水の需要分析とモデル化 )
|
|
生駒 栄司
|
( 東京大学空間情報科学研究センター・助手・地球環境水情報ライブラリの構築 )
|
○ |
遠藤 崇浩
|
( 総合地球環境学研究所・助手・カリフォルニアの水管理政策 )
|
○ |
大手 信人
|
( 京都大学大学院農学研究科・森林水循環過程の観測とモデル化 )
|
|
大瀧 雅寛
|
( お茶の水女子大学大学院人間文化研究科・助教授・アジアの都市用水分析 )
|
|
大瀧友里奈
|
( 東京大学大学院情報学環・大学院生・アジアの都市用水分析 )
|
|
荻野 慎也
|
( 神戸大学大学院自然科学研究科・助手・東南アジアの水循環予測の改善 )
|
○ |
沖 大幹
|
( 東京大学生産技術研究所・助教授・世界の水資源需給とVirtualWater交易 )
|
○ |
川島 博之
|
( 東京大学農学生命科学研究科・助教授・国際的な穀物価格を考慮した農業水需要モデル )
|
○ |
喜連川 優
|
( 東京大学生産技術研究所・教授・地球環境水情報ライブラリの構築 )
|
○ |
金 元植
|
( 農業環境技術研究所・主任研究官・東南アジアの陸域水循環の観測 )
|
○ |
蔵治光一郎
|
( 東京大学農学生命科学研究科・講師・森林における水管理と地域コミュニティ研究 )
|
○ |
里村 雄彦
|
( 京都大学大学院理学研究科・助教授・メンスケールの大気水循環のモデル化 )
|
○ |
柴崎 亮介
|
( 東京大学空間情報科学研究センター・教授・水需要と食料需要を考慮した土地利用変化モデル )
|
○ |
白川 直樹
|
( 筑波大学機能工学系・講師・環境用水の需要分析とモデル化 )
|
○ |
平川 幸子
|
( 広島大学国際協力研究科・助教授・水に関する国際政治的ガバナンス )
|
○ |
平林由希子
|
( 山梨大学大学院医学工学総合研究部・助手・地球温暖化による水循環の変動予測 )
|
|
松村寛一郎
|
( 関西大学総合政策学部・助教授・21世紀の食料需給と水需給予測 )
|
○ |
松本 淳
|
( 東京大学大学院理学系研究科・助教授・アジアモンスーンの季節変動と人間社会 )
|
○ |
松本 充郎
|
( 高知大学人文学部・講師・アジアの水法研究 )
|
|
村田 文絵
|
( 総合地球環境学研究所・非常勤研究員・東南アジアモンスーンの季節内変動 )
|
○ |
安岡 善文
|
( 東京大学生産技術研究所・教授・環境リモートセンシング )
|
|
楊 大文
|
( 清華大学土木水利学院・教授・水文モデリングと水資源マネジメント )
|
|
芳村 圭
|
( 東京大学生産技術研究所・助手・世界水同位体循環観測とモデリング )
|
|
HansaVATHANANUKIJ
|
( カセサート大学(タイ)・助教授・東南アジアの水問題調査 )
|
|
ThadaSukhapunnaphan
|
( タイ王立灌漑局(タイ)・北方領域上部水文水資源センター長・東南アジアの洪水対策 )
|
|
楊 大文
|
( 清華大学(中国)・教授・中国の水資源問題調査 )
|
○今後の課題
残された重要な課題と今後の対応
1)水資源のsustainabilityあるいは未来可能性を考えるためには、どうしても地下水資源の枯渇を扱う必要がある。
また、大規模な水質の劣化の可能性についても研究をする必要がある。
2)本プロジェクトの単純な延長、高精度化も、十分に意義ある研究であると考える。
3)国際的、国内的な水紛争に関する研究も未着手の課題である。
4)発行される予定であるが、我々はAR5へ向かっての体制を作る必要があろう。基礎的な研究はAR5以降(たとえばAR6)へ焦点を合わせることも必要かもしれない。それらに対応した水循環、水資源研究を開始するのも一つの手である。
5)実社会が水問題を避けるための工夫として、我々はダムや堤防や貯水池をつくることが役目でないとしたら、予警報システムを作るあるいは法制度を整えるというのが一つの有力な策である。実際、プロジェクトの一部としてpreliminaryな研究を行った。
6)「今後それらを解明・解決する方法・研究体制について記すこと」に対しては、なかなか良い回答は思いつかないのが正直なところである。
研究成果の発信
1.広く社会へ向けた発信
岩波新書の「地球の水は危ない」「ウォータービジネス」のそれぞれの一部に本プロジェクトの成果が大きくとりあげられた。どちらも、それなりに売れている本である。他の書籍にも結果の要点が、少しずつではあるが、取り上げられている。水資源白書にも引用された。また、プロジェクト代表者らの分担執筆として「水をめぐる人と自然(有斐閣)」「地球研叢書3(昭和堂)」などがある。また、いくつかのテレビ、ラジオや数々の新聞記事、雑誌記事などでも研究の成果がとり上げられてきた。「仮想水」あるいは「間接水」と「総合地球環境学研究所」でGoogle検索すると、いくつものページにヒットする。また、Scienceに発表されたレビュー論文は、国際的には、一般市民への啓蒙という意味も持つ。
2.学会へ向けた発信
Scienceのレビュー論文をはじめ、国内外のjournalに多数の論文を発表してきた。また、本プロジェクトでの成果を契機として、IAHS Tison Award、土木学会環境賞、水工学論文賞、日本水大賞奨励賞などを受賞した。また、上述のようにESSPのプレナリーにおいて3度も我々の成果の図が引用されたということは、国際的に異分野交流で地球環境を考える場において、我々の成果が流通していることを示すと考えてもよかろう。
進捗状況(2006年4月~2007年3月)
1)世界の水需給の将来予測(正確にはprojection)をbusiness as usualに近い複数のシナリオで行い、「このままいくと、どうなりそうか」を示した。それによって21世紀半ばが、一つの超えるべき山場であるかもしれないことを示した。
2)また世界の水需給の将来予測と同時に、水需給の逼迫が予想される特定の地域(具体的にはカリフォルニアやタイ)を対象に、水不足問題への対応策も検討した。カリフォルニアの事例からは、水不足という問題に対して、そこではダム建設に代表されるハード面での対応と同時に、法整備といったソフト面での対応も有効な対策となり得ることを明らかにした。またタイは、カリフォルニアに比較して水資源管理の制度がまだ十分に整備されていないところだが、そうしたところでは、水不足の問題を考える際、資源量の多寡の実態からその認識に、焦点を移すことの有用であることを明らかにした。
3)洪水・渇水への現実的な対処のためには、予警報の充実が、特に途上国で必要とされる。期間内に具体的なシステムの開発、実現とまではいかなかったが、いくつかの基礎研究を進めた。プロジェクトは終了するが、この交流を続け、数年後には本当に実際に役立つシステム構築へと結び付けたい。
著書(執筆等)
【分担執筆】
・日高利隆・中尾正義・井上隆史・中野孝教・鼎信次郎・小野浩 2006年 シルクロードから消えた水と世界水危機. シルクロードの水と緑はどこへ消えたか?. 地球研叢書. 昭和堂, pp.163-198.
論文
【原著】
・M.S.Islam, T.Oki, S.Kanae, N.Hanasaki, I.Agata, and K.Yoshimura
2007 A grid-based assessment of global water scarcity including virtual water trading. Water Resources Management 21:19-33. DOI:10.1007/s11269-006-9038-y

・花崎直太・鼎信次郎・沖大幹 2006年 Bucket型の陸面過程モデルをベースにした全球統合水資源モデルの開発. 水工学論文集. pp.529-534.
・浅田晴久・林泰一・我妻ゆき子・寺尾徹・村田文絵 2006年 インド、アルナチャル・プラデシュ州を訪ねて. 地理 51(1):103-110.
・山田朋人・鼎信次郎・沖大幹 2006年 降水変動に与える陸面影響度の季節性. 水工学論文集 50:541-546.
・村田文絵 2006年 チェラプンジ滞在記. 天気 53(11):61-64.
・小松光・堀田紀文 2006年 森林蒸発散フラックス計測大流行の産物. 水文・水資源学会誌 18(5):613-626.
・山口健介・佐々木創・岩城孝信・佐藤正喜 2006年 南タイ視察旅行記一鉱物資源に見る、現在と過去. 盤谷商工会議所報 526:62-73.
・QiuhongT.,T.Oki,S.Kanae 2006年 A distributed biosphere hydrological model(DBHM) for large river basin. 水工学論文集 50(7).
・Oki,T.,S.Kanae 2006 Global Hydrological Cycles and World Water Resources. Science 313(5790):1068-1972. DOI:10.1126/science.1128845

・Hanasaki, Naota; Kanae, Shinjiro; Oki, Taikan 2006 A reservoir operation scheme for global river routing models. Journal of Hydrology 327(1-2):22-41. DOI:10.1016/j.jhydrol.2005.11.011

・Yoshimura,K.,S.Miyazaki,S.Kanae,T.Oki 2006 Iso-MATSIRO, a land surface model that incorporates stable water isotopes. Global and Planetary Change 51(1-2):90-107. DOI:10.1016/j.gloplacha.2005.12.007

・Kanae,S.,Y・Hirabayashi,T.Yamada and T.Oki 2006年 Influence of "realistic" land surface wetness on predictability of seasonal precipitation in boreal summer. J.Climate 19:1450-1460.
・P.A.Dirmeyer,X.Gao,M.Zhao,Z.Guo,T.Oki,and N.Hanasaki 2006年 The Second global soil wetness project(GSWP-2): Multi-model Analysis and Implications for Our Perception of the Land Surface. Bull.Amer.Meteor.Soc 87(10):1381-1397. DOI:10.1175/BAMS-87-10-1381

・Murata F.,M.D.Ymanaka,H.Hashiguchi,S.Mori,M.Kudsy,T.Sribimawati,B.Suhardi,and Emrizal 2006年 Dry intrusions following eastward-propagating synoptic-scale cloud systems over Sumatera Island. J.Meteor.Soc.Japan 84:277-294. DOI:10.2151/jmsj.84.277

・KodamaY-M,,M.Tokuda,and F.Murata 2006年 Convective activity over the Indonesian maritime continent during CPEA-I as evaluated by lightning activity and Q1 and Q2 profiles. J.Meteor.Soc.Japan 84a:133-149.
・Shibagaki Y,T.Kozu,T.Shimomai,S.Mori,F.Murata,Y.Fujiyoshi,H.Hashiguchi,and S.Fukao 2006年 Evolution of a super cloud cluster and the associated wind fields observed over the Indonesian maritime continent during the first CPEA campaign. J. Meteor.Soc.Japan 84a:19-31.
・Areki R.,M.D.Yamanaka,F.Murata,H.Hashiguchi,Y.Oku,T.Sribimawati,M.Kudsy,and F.Renggono 2006年 Seasonal and interannual variations of diurnal cycles of wind and cloud activity observed at Serpong, West Jawa, Indonesia. Meteor.Soc.Japan 84a:171-194.
・Komatsu H.,Y Kang,T Kume,N Yoshifuji and N Hotta 2006年 Transpiration from a Cryptomeria japonica plantation, part2:responses of canopy conductance to meteorological factors. Hydrol.Process. 20:1321-1334.
・Komatsu H, Y Kang, T Kume, N Yoshifuji and N Hotta 2006 Transpiration from a Cryptomeria japonica plantation, part 1: aerodynamic control of transpiration. Hydrol.Process. 20:1309-1320.
・Y. Hirabayashi, S.Kanae, I.Struthers and T.Oki 2005年 A 100-year (1901–2000) global retrospective estimation of the terrestrial water cycle. J. Geophys. Res. 110:D19101. DOI:10.1029/2004JD005492

・Komatsu H,Hotta N,Kuraji K,Suzuki M and Oki T. 2005 Classification of Vertical Wind Speed Profiles Observed Above a Sloping Forest at Nighttime Using the Bulk Richardson Number. Boundary-Layer Meteorology 115(2):205-221. DOI:10.1007/s10546-004-3408-x

・Komatsu,H.,Kumagai,T.,Hotta,N. 2005 ls surface conductance theoretically independent of reference height?. Hydrological Processes 19(1):339 -347.
・Kiguchi,Masashi,Matsumoto,Jun, 2005年 The rainfall phenomena during the pre-monsoon period over the Indochina Peninsula in the GAME-IOP
year. J:Meteor.Soc.Japan 83:89-106.
・松本淳・村田文絵・浅田晴久 2005年 世界の最多雨地・メガラヤ高原を訪ねて. 地理 50(1):96-105.
・須賀可人・平林由希子・鼎信次郎・沖大幹 2005年 施肥料の増加に伴う全球河川の硝酸輸送量変化. 水工学論文集 49:1495-1500.
・平林由希子・鼎信次郎・沖大幹 2005年 20世紀の世界陸域水文量の長期変動. 水工学論文集 48:409-414.
・Ichiyanagi,K.,K.Yoshimura and M.D.Yamanaka 2005年 Validation of Changing Water Origins over Indochina during the Withdrawal of the Asian Monsoon using Stable Isotopes. isotopes SOLA 1:113-116.
・Kim W, S.Kanae, Y.Agata and T.Oki 2005 Simulation of potential impacts of land use/cover changes on surface water fluxes in the Chaophraya river basin, Thailand. J.Geophys.Res. 110:DO8110. DOI:10.1029/2004JD004825

・Komatsu H. 2005 Forest categorization according to dry-canopy evaporation rates in the growing season: comparison of the Priestley-Taylor coefficient values from various observation sites. Hydrological Processes 19:3873-3896. DOI:10.1002/hyp.5987

・Lei,H.,Yang,D.,Sun,F,Kanae,S.,Miyazaki,S.and Shen,Y 2005 Field Experiment and Analysis of the Energy-Water Balances for the Winter Wheat in the Weishan Irrigation District along the Downstream of the Yellow River. Proceedings of the International Sympo. on Sustainable Water Resources Management and Oasis-Hydroshperie-Desert lnteraction in Arid Regions. 20051027-29; Beijing(CN)
・Shen,Y,,C.Tang,J.Xiao,T.OkiandS.Kanae 2005 Effects of Urbanization on water resource development and its problems in Shijiazhuang,China. IAHS Publ. 293:280-288.
・Yang D.,G.Ni,S.Kanae,C.Li and T.Kusuda 2005 Water resources variability from the past to future in the Yellow River,China. IAHS Publication 295(174):182.
・松本淳・村田文絵・浅田晴久 2005年 2004年7月インド・アッサム州の大洪水. 地理 50(4):104-110.
・花崎直太・鼎信次郎・沖大幹 2005年 灌漑取水の影響を考慮した全球河川流量シミュレーション. 水工学論文集 49:403-408.
・西田顕郎・松田咲子・鼎信次郎 2005年 インドシナ半島における地表面状態の経年変動・季節変動と,降雨・エルニーニョ・DME. 日本リモートセンシング学会誌 25(5):473-481.
・Shen, Y., Xiao, J., Oki, T. 2005年 Evaluation the impacts of urbanization on local hydrological environments: a case study of Shijiazhuang, China. 生研フォーラム 宇宙からの地球環境モニタリング 第14回論文集:58-61.
・澤野真治・小松光・鈴木雅一 2005年 森林における年降水量の農地・都市域との違い-日本全域を対象として-. 水文・水資源学会誌 18(4):435-440.
・小松光・堀田紀文 2005年 森林蒸発散フラックス計測大流行の産物. 水文・水資源学会誌 18(5):613-626.
・小松光・澤野真治・久米朋宣・橋本昌司 2005年 森林の特性と蒸発散量の関係. 日本森林学会誌 87(2):170-185.
・Oki,Taikan,Kanae,Shinjiro 2004年 Virtual water trade and world water resources. Water Science&Technology 49(7):203 -209.
・Yoshimura,K.,Oki,T.,Ichiyanagi,K. 2004 Evaluation of two-dimensional atmospheric water circulation fields in reanalyses by using precipitation
isotopes databases. J.Geophys.Res 109(D20). DOI:10.1029/2004JDOO4764.

・Komatsu,H. 2004 A general method of parameterizing the big-leaf model to predict the dry-canopy evaporation rate of
individual coniferous forest stands. Hydrological Processes 18(16):3019-3036.
・Yoshimura,Kei,Oki,Taikan,Ohte,Nobuhito,Kanae,Shinjiro 2004年 Colored moisture analysis estimates of variations in 1998 Asian monsoon water sources. J.Meteor.soc.Japan 82:1315-1329.
・Koster,R.D.,Dimeyer,P.A.,Guo,Z.,Bonan,G.,Chan,E.,Cox,P.,Gordon,C.T.,Kanae,S.,Kowalczyk,E.,
Lawrence,D.,Liu,P.,Lu,C.H.,Malyshev,S.,McAvaney,B.,Mitchell,K..,Mocko,D.,Oki,T.,Oleson,K.,Pitman,
A.,Sud,Y.C.,Taylor,C.M.,Verseghy,D.,Vasic,R.,Xue,Y.,Yamada,T. 2004 Regions of strong coupling between soil moisture and precipitation. Science 305(1138):1140.
・小松光 数値モデルの利用・理解を容易にする無次元化ー多層植被モデルを題材としてー. 水文・水資源学会誌 17(4):401-413.
その他の出版物
【報告書】
・世界水プロジェクト編 2007年 地球規模の水循環変動ならびに世界の水問題の実態と将来展望 最終年度報告書. 162pp.
【その他の著作(新聞)】
・鼎信次郎 水を通してつながる世界(地球研京都発). 毎日新聞社, 2007年03月10日 朝刊.
・遠藤崇浩 水不足への「ソフト」な政策(地球研京都発). 毎日新聞, 2006年09月30日 朝刊.
・ 脱・水ストレス. 東京新聞, 2006年09月12日 朝刊.
・ 中国北部や米西部で危険,水問題でアセス. 科学新聞, 2006年09月01日 .
・ 世界の水不足に悩む人、70年後は倍増40億人. 読売新聞, 2006年08月25日 朝刊.
・ 世界の水資源需給予測. 日刊工業新聞, 2006年08月25日 朝刊.
・ 水不足時代世界に到来!?. 日本経済新聞, 2006年04月30日 朝刊.
会合等での研究発表
【口頭発表】
・Naota Hanasaki,Shinjiro Kanae,Taikan Oki Development of a physically based global integrated water resources model. ESSP 2006 0pen Science Conference, 2006.11.11, Beijing,China.
・Naota Hanasaki,Taikan Oki Simulated global irrigation water requirement using a process-based agricultural model. ESSP 2006 0pen Science Conference, 2006.11.11, Beijing,China.
・宮崎千尋 アジアにおける冬季地上気温の主要モードからみた2005/06年の日本の寒冬の原因. 日本気象学会, 2006年10月25日, ウィルあいち、名古屋市.
・Takahiro Endo The Role of Government in the Water Rights Market. The 3rd International Conference on Hydrology and Water Resources in Asia Pacific Region(APHW2006), 2006.10.18, Bangkok,Thailand.
・Toshiyuki Inuzuka, Naota Hanasaki, Shinjiro Kanae, Taikan Oki Predicting food producition and water demand under global warming condition using an agricultural model. The 3rd International Conference on Hydrology and Water Resources in Asia Pacific Region(APHW2006), 2006年10月17日, Bangkok,Thailand.
・Dawen Yang, H.Lei, F.Sun, Yanjun Shen, Shin Miyazaki, Shinjiro Kanae Understanding the ecohydrological processes in agriculture field along the downstream of the Yellow River. The 3rd International Conference on Hydrology and Water Resources in Asia Pacific Region(APHW2006), 2006.10.17, Bangkok,Thailand.
・Tomohito J. Yamada, Shinjiro Kanae, Taikan Oki Predictability of precipitation on seasonal scale and the role of and-atmosphre interactions. Asia Oceania Geosciences Society 3rd annual meeting(AOGS2006), 2006年07月11日, Singapore,Singapore.
・遠藤崇浩 水配分における政府の役割-カリフォルニア渇水銀行を事例に. 公共選択学会第10回全国大会, 2006年07月01日, 京都大学、京都市.
・村田文絵、山中大学、橋口浩之、森修一、Mahally Kudsy,Tien Sribimawati,Budi Suhardi, and Emrizal インドネシアにおける対流性降水雲に関する研究(第12報). 日本気象学会春季大会, 2006年05月24日, エポカルつくば、つくば市.
・ . 第二回沼口敦さん記念シンポジウム「水循環環境科学のアプローチ」, 2006年03月. (本人発表). 第二回沼口敦さん記念シンポジウム実行委員会主催
・ . 流域管理の新たな動向:流域委員会、自治体連携から考える, 2005年12月26日. 青の革命と水のガバナンスおよび総合地球環境学研究所共催
・ . Executive Authority Confederacy Forum on Hydro-informatics Harmonious Solidity, 2005年11月04日-2005年11月06日, タイ.
・ . 第2回アジア太平洋水文・水資源協会国際会議スペシャルセッション JS4「Water and Energy Cycles in Asia Pacific, 2004年07月06日, シンガポール. ・8:45-17:30
調査研究活動
【海外調査】
・バングラデシュ気象状況調査. バングラデシュ, 2006年12月. 村田文絵
・スリランカ、コロンボ市国際水資源管理研究所での学術交流. スリランカ、コロンボ市, 2006年12月. 山口健介
・アメリカ合衆国カリフォルニア州における水管理の実態調査. アメリカ合衆国カリフォルニア州, 2006年08月. 遠藤崇浩
・タイ国チェンマイ市における水資源調査. タイ国チェンマイ市, 2006年08月. 山口健介
・インド・メガラヤ州気象状況調査. インド・メガラヤ州, 2006年06月-2006年07月. 村田文絵
・アメリカ合衆国オレゴン州における水利権取引の実態調査. アメリカ合衆国オレゴン州, 2006年05月. 遠藤崇浩
・オーストラリア、キャンベラ市オーストラリア国立大学での学術交流. オーストラリア、キャンベラ市, 2006年05月. 山口健介
|