本研究

プロジェクト区分FR
プロジェクト番号H-02
プロジェクト名農業が環境を破壊するとき-ユーラシア農耕史と環境-
プロジェクト名(略称)里プロジェクト
プロジェクトリーダー佐藤洋一郎
プログラム/研究軸文明環境史領域プログラム
ホームページhttp://www.chikyu.ac.jp/sato-project/

 

○研究目的と内容

 <研究目的>

 「農耕と環境の1万年関係史の構築」が本プロジェクトのテーマである。人類が農業を始めて以来、約1万年になる。本プロジェクトは、この1万年間におけるユーラシアとその周辺地域を3つの風土(「イネ農耕圏」「ムギ農耕圏」および「根菜類農耕圏」)に分け、それぞれの風土における農業と環境の関係の解明をめざした。とくに、おおきく突発的な農業生産の落ち込み(「農業生産の崩壊」)を、人間活動や自然作用が織りなす複雑な因果関係の環(Human-Food Web)における1つの事象として把握することを試みた。このようにして解明された関係史をベースに、これからの農業のあるべき姿についての提言をまとめ、社会へ発信していくことを本プロジェクトの目的とした。 

 

<背景> 

 農業生産は、生態系の持続的利用とは相反的でありつづけてきた。そのため、生態系サービスの持続的利用に目をとらわれ、農業のインパクトを軽視または無視する意見がいまだに強い(たとえば一部の里山論)。反面、農業の現実を肯定しすぎるあまり、食料生産のシステムや生産性が右肩上がりに発展してきたと考える「発達史観」、技術発展に対する過信、風土や食の文化を無視した一律的な増産理論などが横行する現状もある。さらに、環境変動を農業生産の崩壊(または始まり)の主因であるとする「環境決定論」、水田稲作が他の農業生産システムより持続的であるとする「稲作至上主義」などが台頭する現状はゆゆしき事態である。これらの議論は一面性という部分で通底的で、このままの状態で世界の食料生産の未来可能性を論じれば大きな禍根を残すと考えた。

 

 

<プロジェクトが地球環境問題に貢献できる点>

 本プロジェクトが明らかにした事実によれば、農業生産には、時間スケールにもよるがそもそも現状維持性はありえない。このことは将来にわたっても同じであると考えられるから、崩壊の回避(risk hedge)、生産性低下の緩和(mitigation)、崩壊からの回復(recovery)などの重要性を指し示した。とくに遺伝的多様性の喪失と崩壊の回避との関係には、特に集中的に分析・考察を進めた。また、それぞれの風土にあってどういうスタイルの農業生産がより望ましいかを、スケールの違いを視野に入れながら検討することの重要性を説いた。

 

<領域プログラム・イニシアティブにおける位置付け>

 文明・環境史プログラムは地球環境問題を時間軸に沿って解釈し、未来予測に資することを目的とする。とくに、文明史的スケールでの環境史の解明と未来予測を意図している。本プロジェクトは、生態系の中における農業生産に焦点を当てて環境史(あるいは生態史)の序論的位置づけをになうことになると思われる。

 未来設計イニシアティブについて言えば、食と農を一体に論じる「食学」的視点の提言を試みようとしている生存知イニシアティブに対し、農業の風土ともいうべき新たな風土概念の構築、枠組みの提示などの面で大きな貢献ができたものと考える。さらに、食の在り方(生産の在り方や消費の在り方)に関して、研究者だけでなく多様な分野の専門家との対話を行ってきたが、その過程で培われたネットワークや知の蓄積も生存知イニシアティブだけでなく 3 つのイニシアティブすべてに貢献できるものと期待する。

○本年度の課題と成果

<本年度の課題>

 本プロジェクトでは、歴史的にユーラシア各地の農耕が連続的発展をたどってきたわけではないという仮説の検証を試みてきたが、それについてはおおむね達成できたと考えている。本年度は、このような農耕の歴史的変遷を、当プロジェクトの基本コンセプトである「多様性(特に遺伝的多様性)の維持」という視点から再検証することを課題とした。一般に、人間が農耕を開始して以降、植物の遺伝的多様性が減少し、それゆえさまざまな環境破壊や災害が生じたと言われている。しかし、これについて具体的な農耕活動との関連性を精査した事例や、そもそも遺伝的多様性の低下を数値データで客観的に証明した事例はこれまでなかった。そこで今年度の研究においては、農耕と環境の関係史のさらなる精査とともに、こうした多様性の変遷にかかわる具体的なデータを各研究対象地で集めることを目的とした。

 

<具体的な成果>

 モンスーン農耕班

 モンスーン農耕班では農業と環境変動との関係を捉えるべく、大阪府の池島・福万寺遺跡の土層を引続いて分析し、さらに青森県の前川遺跡などの調査を含めて、これまでの結果を集成した。それにより、災害とその後におきた様々な事象からなるHuman-Food Webと名づけた連関図を描くことができた。遺伝的多様性に関して言えば、遺伝的多様性の維持は生産の崩壊に対する回避策として重要であるとの言説の正当さを確認したほか、崩壊からの回復過程でも遺伝的多様性の重要性が認識された。さらに昨年、バンコクの国際会議で東南アジア 12 か国のイネ研究機関と野生イネの保全活動を推進する声明を発表した。この声明に基づき、今年度はラオス政府と研究機関に働きかけ、保全活動を開始する合意を得た(下記参照)。

 

 ムギ農耕班

 全研究期間を通して実施してきた、新疆ウィグル自治区・小河墓遺跡(中国)での調査に関して、大きな進展があった。9 月に遺跡周辺におけるボーリング調査を実施した結果、小河墓遺跡の時期(約 4300年前)を含む過去 6000 年の間に、湖沼の堆積土と考えられる層が三層認められた。これらは現代のような砂漠ではない、水の豊かな時期が存在したことを示している。湖沼堆積土の一層は小河墓遺跡の時期に相当し、人間活動が営まれた時期には豊富な水源に基づいた農耕・牧畜が行われていたという、当プロジェクトの仮説を改めて支持する結果となった。また、小河文化期の後半にはインドからのヒトやモノの流入も認められることが分かった。さらに 11 月には小河墓遺跡調査についての日中共催シンポジウムを北京で開催し、年代測定や各種化学分析を含む最新のデータを発表し合い、まとめることができた。その他、2007 年度より定期的に開催してきた国際植物考古学シンポジウムの第 3 回を 9 月に開催し、研究例の少ない「雑穀」をテーマに据えて、全 6 ヶ国の研究者たちで討論、情報交換を行った。

 

 根栽類農耕班

 2008 年に実施した、パプアニューギニア・ココダ谷周辺の考古学調査の成果をまとめる作業を行った。特に、この調査で採取したコアサンプルの花粉分析は、人間による環境改変(栽培活動)の開始期を知る重要な手がかりであるので、調査メンバーのジェフ・ホープ氏(オーストラリア国立大学)

を招聘し、分析作業を進めている(12 月に分析結果が出る予定)。調査成果を考古学、民族植物学などの視点からまとめる英語論文集の出版準備にも着手した(Springer、来夏刊行予定)。

 

 火耕班

 石川県旧白峰村(現白山市白峰)で土地利用関連文書の調査を行った結果、焼畑用地は江戸期において売買されており、地域の生活を支える重要な土地であることがわかった。現在、資料のデータベース化を進めている。また、これまでの研究活動、特に焼畑サミット(全 4 回、2010年度は京都で開催)で育まれた研究者や住民との親交により、地域文化の復興に向けた活動を進めた。班では研究活動と成果を発信すべく、学術書『焼畑の環境学―いま焼畑とは?』の出版に向けて準備を進めている(2011年9月刊行予定、思文閣出版)。

 

<最終成果との関わり>

 本プロジェクトは、歴史的考察に重きを置くものであるが、その目的はあくまで将来の食と農のあるべき姿を考えるベースを構築することにあった。そのキーワードを5年間の研究活動から引きだすとすれば、「多様性」と「個別性」ということができる。近代農業は地域性を平準化してしまったが、多様な風土に応じて、本来、農業の姿も、そこで栽培される作物も多様である。個々の風土内においても地域差があり、また歴史的変遷があり、一様ではない。人類は、品種の多様性、また遺伝的多様性に依拠することで、破綻的状況からの回復を図ってきたということを、本プロジェクトは明らかにした(池島・福万寺遺跡、小河墓遺跡)。他方で、農業の営みはそれぞれの生活文化と密接に絡み合った個別的なものであるということも、本プロジェクトでは明らかにしてきた(火耕班)。単に多様性のレベルをあげることが大切なのではなく、それらが生活文化と一体になって継承されることが求められている。

  

<想定外の成果>

 2009年に開催した「国際野生イネ会議」(タイ・バンコク)で締結された野生イネ保全に関する共同声明は、あくまで学術的な認識共同体というレベルで考えていたが、この声明に基づき、2010年度には、ラオスの関連行政機関が政策レベルでの保全実施方策を検討し、2011年2月行政担当者との合意を得た。  

 

<全研究期間を通じて達成できたと評価できる成果>

 イネ農耕班における池島・福万寺遺跡(大阪府)、ムギ農耕班における小河墓遺跡(中国)の調査成果が示すように、湿潤なモンスーンならではの洪水との関わり、また後者は半乾燥地域の限られた水資源との関わりといった通時的な視座において、農業活動の破綻と回復のメカニズムを解き明かすことに寄与した。また、イネの起源については、Fuller & Sato, Nature Genet. 2008、Fuller et. al, Science. 2009 をはじめ、世界水準にたって学会の議論をリードする形で展開してきたと自負している。

 他方、成果公開にも重点的に取り組んできた。書籍としては、既刊の『ユーラシア農耕史』[全 5 巻]ならびに『麦の自然史』などに加え、さらに公刊準備を進めている。また、市民向け講座として、連続公開講座「ユーラシア農耕史―風土の醸成」[計 12 回]、公開トークセッション「人と自然:環境思想セミナー」[全35回]などを行い、研究者のみならず一般への成果発信に努めた。特に、国立科学博物館(東京)での企画展「あしたのごはんのために」(2010 年 9 月 18 日~2011 年 1 月 16 日)では、延べ 14 万人以上の人々が足を運び、多くの一般来場者からもプロジェクト成果に対する意見が寄せられるなど、社会的発信についても務めを果たしているものと評価できる。

○共同研究者名(所属・役職・研究分担事項)

佐藤洋一郎 ( 総合地球環境学研究所・副所長・教授 )

■コアメンバー

石川 隆二 ( 弘前大学 農学生命科学部・教授・モンスーン農耕班リーダー )

WILLCOX George ( フランス東洋先史学研究所・研究員 )

大野旭 (楊 海英) ( 静岡大学 人文学部 社会学科・教授 )

加藤 鎌司 ( 岡山大学大学院自然科学研究科作物育種学研究室・教授・ムギ農耕班リーダー )

木村 栄美 ( 総合地球環境学研究所・研究員・地球研ヘッドクォーター )

鞍田  崇 ( 総合地球環境学研究所・特任准教授・地球研ヘッドクォーター )

篠田 謙一 ( 国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ・研究主幹 )

JONES Martin K ( ケンブリッジ大学・教授 )

田中 克典 ( 総合地球環境学研究所・研究員・地球研ヘッドクォーター )

中村 郁郎 ( 千葉大学大学院園芸学研究科・准教授 )

細谷  葵 ( 総合地球環境学研究所・研究員・地球研ヘッドクォーター )

MATTEWS Peter J ( 国立民族学博物館・准教授・根栽農耕班リーダー )

原田 信男 ( 国士舘大学21世紀アジア学部・教授・火耕班リーダー )

■モンスーン農耕班

芦川 育夫 ( (独)農業・生物系特定産業技術研究・研究チーム長 )

井上 勝博 ( 公立大学法人島根県立大学・副理事長 )

宇田津徹朗 ( 宮崎大学附属農業博物館・准教授 )

内山 純蔵 ( 総合地球環境学研究所・准教授 )

北川 淳子 ( 国際日本文化研究センター・研究支援推進員・ムギ農耕班を兼務 )

SONGKRAN Chitrakon ( タイ農業局・副所長 )

田淵 宏朗 ( 中央農業総合研究センター 北陸研究センター 低コスト稲育種研究北陸サブチーム・主任研究員 )

湯  陵華 ( 中国 江蘇省農業科学院 糧食作物研究所 品種資源研究室・教授 )

中村 郁郎 ( 千葉大学大学院園芸学研究科・准教授・ムギ農耕班を兼務 )

中村 慎一 ( 金沢大学人間社会研究域歴史言語文化学系・教授 )

羽生 淳子 ( カリフォルニア大学バークリー校人類学部・准教授 )

藤井 伸二 ( 人間環境大学人間環境学部・准教授 )

FULLER Dorian Q ( ロンドン大学考古学研究所・研究員・ムギ農耕班を兼務 )

松田 隆二 ( (株)古環境研究所・取締役 )

武藤 千秋 ( 総合地球環境学研究所・RA )

安田 喜憲 ( 国際日本文化研究センター・教授 )

龍  春林 ( 中国科学院昆明植物研究所・教授 )

渡部  武 ( 東海大学 文学部 歴史学科 東洋史専攻・教授 )

王   巍 ( 中国社会科学院考古研究所・所長 )

■ムギ農耕班

有村  誠 ( 東京文化財研究所 文化遺産国際協力センター・特別研究員 )

井上 隆史 ( (株)アジア・コンテンツ・センター・取締役 )

池部  誠 ( フリーライター )

石黒 直隆 ( 岐阜大学応用生物科学部・教授 )

伊藤 敏雄 ( 大阪教育大学教育学部・教授 )

植田信太郎 ( 東京大学大学院理学系研究科・教授 )

WEBER Steven A ( ワシントン州立大学バンクーバー校・准教授 )

呉   勇 ( 新疆文物考古研究所・副研究館員 )

大田 正次 ( 福井県立大学生物資源学部・教授 )

長田 俊樹 ( 総合地球環境学研究所・教授 )

河原 太八 ( 京都大学大学院農学研究科・准教授 )

小葉田 亨 ( 島根大学生物資源科学部・教授 )

最相 大輔 ( 岡山大学大学資源生物科学研究所・助教 )

斉藤 成也 ( 国立遺伝学研究所集団遺伝研究部門・教授 )

笹沼 恒男 ( 山形大学 農学部 生物資源学科・准教授 )

相馬 秀廣 ( 奈良女子 大学文学部 国際社会文化学科・教授 )

竹内  望 ( 千葉大学大学院自然科学研究科・准教授 )

丹野 研一 ( 山口大学農学部・助教 )

辻本  壽 ( 鳥取大学 農学部 植物遺伝育種学研究室・教授 )

冨永  達 ( 京都大学大学院農学研究科・教授 )

外山 秀一 ( 皇學館大學文学部・教授 )

中井  泉 ( 東京理科大学 理学部 応用化学科・教授 )

中野 孝教 ( 総合地球環境学研究所・教授 )

那須 浩郎 ( 総合研究大学院大学葉山高等研究センター・上級研究員 )

西秋 良宏 ( 東京大学総合研究博物館・教授 )

西田 英隆 ( 岡山大学大学院 自然科学研究科 作物育種学研究室・助教 )

万年 英之 ( 神戸大学大学院農学研究科・准教授 )

森  直樹 ( 神戸大学大学院農学研究科・准教授 )

山本 紀夫 ( 国立民族学博物館・名誉教授 )

李   軍 ( 新疆ウイグル自治区文物局総合所・教授 )

渡辺千香子 ( 大阪学院大学国際学部・准教授 )

■火耕班

赤坂 憲雄 ( 東北芸術工科大学東北文化研究センター・所長 )

江頭 宏昌 ( 山形大学 農学部 生物資源学科・准教授 )

岡  恵介 ( 東北文化学園大学・教授 )

笠松 浩樹 ( 島根県中山間地域研究センター・主任研究員 )

川野 和昭 ( 鹿児島県歴史資料センター黎明館・学芸課長 )

米家 泰作 ( 京都大学大学院文学研究科・准教授 )

小山 修三 ( 吹田市立博物館・館長 )

佐々木長生 ( 福島県立博物館・専門学芸員 )

佐藤 雅志 ( 東北大学大学院生命科学研究科・准教授 )

橋尾 直和 ( 県立高知女子大学文化学部・教授 )

馬場  徹 ( (有)一級建築士事務所建築商会・代表取締役 )

藤山  浩 ( 島根県中山間地域研究センター地域研究グループ・科長 )

宮平 盛晃 ( 沖縄国際大学総合文化学部・非常勤講師 )

六車 由実 ( 民俗学者 )

山口  聰 ( 愛媛大学 農学部 花卉育種研究室・准教授 )

山田 悟郎 ( 北海道開拓記念館学芸部・元学芸部長 )

山田 仁史 ( 東北大学大学院文学研究科・准教授 )

山本 智代 ( 錦城学園高等学校・教員 )

■根栽農耕班

印東 道子 ( 国立民族学博物館民族社会研究部・教授 )

西田 泰民 ( 新潟県立歴史博物館学芸課・専門研究員 )

HIDE Robin Lamond ( オーストラリア国立大学・客員研究員 )

堀田  満 ( 西南日本植物情報研究所・所長 )

山本 直人 ( 名古屋大学大学院文学研究科・教授 )

■情報発信班

秋道 智彌 ( 総合地球環境学研究所・教授 )

阿部 健一 ( 総合地球環境学研究所・教授 )

斉藤 清明 ( 総合地球環境学研究所・教授 )

湯本 貴和 ( 総合地球環境学研究所・教授 )

小倉 一夫 ( 小倉一夫編集計画研究所・代表取締役 )

吉沢 泰樹 ( (株)紀伊國屋書店映像情報部・部長 )

○今後の課題

<全研究期間から得られた問題と解決案>

 プロジェクトは研究対象地域が海外に及ぶため、調査にあたっては海外の複数の研究機関と研究協力協定を結んできた。協定を締結しながらも、中国・新疆ウィグル自治区での調査では政治事情により調査期間中の安全が危惧され、渡航を延期せざるをえない状況があった(2009 年度)。そこでプロジェクトでは調査を早期に再開すべく、協定を締結した研究機関と密に連絡を取り合い、担当者を日本へ招へいして事情を詳しく伺うと共に調査を行う意図を説明した。これによって、政治情勢が安定するとすぐに調査を再開できた。プロジェクトを遂行する中で、調査相手国の政治事情による調査の延期は予期ができない。このため、相手研究機関との研究協力協定を必ず締結し、密に連絡を取ることは研究を推進する上で必要である。

 

<基幹ハブ・イニシアティブへの研究提案>

 農と食、さらに生活文化との関わりについてプロジェクトから得られた知見は、基幹ハブにおけるイニシアティブ(特に「生存知」)の具体化にも大いに貢献するものと考える。そこで、リスクマネージメントにつながる下記2つの研究を提案する。

 ① プロジェクトでは農業生産量は右肩上がりに安定して増加してこなかった事例と災害に対して適宜対応してきた事例、さらには破綻した事例を提示した。現在の食料生産は化石燃料に依存しているが、永久に続くとは考えられない。そこで、化石燃料の枯渇を想定したうえで、食料生産と生活のあり方を提示できるプロジェクトの立ち上げを検討していただきたい。

 ② プロジェクトでは農業生産を通じて遺伝的多様性が減少する様相について提示した。しかしながらその原因を追求するまでには至らなかった。おそらく、遺伝的多様性の増減には人間の考えや社会の事情が大きく関わっていると考えられる。そこで基幹ハブでは、文化的背景や社会事情がいかに食料事情を変遷させるのかについて研究するプロジェクトを立ち上げていただきたい。

 

<研究所の支援態勢>

 ① 研究所では研究プロジェクトは原則公募で立ち上げられる。これまで研究所には多くの外国人研究者が招へいされており、こうした研究者の中にはプロジェクトの立ち上げに興味を抱いている者もいる。外国人が研究プロジェクトを立ち上げた際の対応についても、そろそろ考えておかなければならないと思う。

 ② プログラムで行うシンポジウムなど、プロジェクトを超えて行う研究活動に関して、現状では経費を各プロジェクトで等分に分割して負担しようとしても、項目単位の支出しかできない等の理由で困難であるなど、問題が多い。通プロジェクト的な活動は奨励されるべきものであると思うので、こうした経費の問題、また活動の実施そのもの(広報など)についても、研究所として支援することを考えていただきたい。

著書(執筆等)

【単著・共著】

Habu, J., C. Fawcett and J. M. Matsunaga (eds.) 2007,12 Evaluating Multiple Narratives: Beyond Nationalist, Colonialist, Imperialist Archaeologies. Springer, New York

佐藤洋一郎 2006年05月 よみがえる緑のシルクロード ―環境史学のすすめ―. 岩波ジュニア新書, 535. 岩波書店, 東京, 204pp.

【分担執筆】

佐々木高明,佐藤洋一郎,堀田満,安田喜憲 2007年11月 第三部 討論 照葉樹林文化と稲作文化をめぐって. 照葉樹林文化とは何か 東アジアの森が生み出した文明. 中央公新書, 1921. 中央公論社, 東京, pp.200-309.

丹野研一 2007年 西アジア先史時代の植物利用―デデリエ遺跡、セクル・アル・アヘイマル遺跡、コサック・シャマリ遺跡を例に. 西秋良宏編 遺丘と女神. 東京大学総合研究博物館, 東京, pp.64-73.

著書(編集等)

【監修】

鞍田崇編 (佐藤洋一郎監修) 2008年12月 モンスーン農耕圏の人びとと植物. ユーラシア農耕史, 第1巻. 臨川書店, 京都市左京区, 274pp.

論文

【原著】

六車由実 2007年 山焼きの民俗思想-火を介した自然利用の方法の現代的可能性-. 季刊・東北学 11:56-71.

細谷葵 2007年 “社会植物考古学”の視点によるバリ島稲作の民族誌調査. 東南アジア考古学(27):19-38. (査読付).

細谷葵 2007年 先島諸島における初期稲作と植物考古学 . 海老澤衷編 ジャポニカの起源と伝播/伊予国弓削島荘の調査. 講座水稲文化研究, 3. 早稲田大学水稲文化研究所, pp.41-43.

Luo, M.-C., Z.-L. Yang, F.M. You, T. Kawahara, J.G. Waines and J. Dvorak 2007 The structure of wild and domesticated emmer wheat populations, gene flow between them, and the site of emmer domestication . Theoretical and Applied Genetics(114):947-959.

Hiroaki Tabuchi, Yo-Ichiro Sato and Ikuo Ashikawa 2007 Mosaic structure of Japanese rice genome composed mainly of two distinct genotypes. Breeding Science 57(3):213-221.

Tanno, K. and Willcox, G. 2006 The origins of cultivation of Cicer arietinum L. and Vicia faba L.: Early finds from northwest Syria (Tell el-Kerkh, late 10th millennium BP). Vegetation History and Archaeobotany(15):197-204.

Tsuneki, A., Arimura, M., Maeda, O., Tanno, K., and Anezaki, T. 2006 The early PPNB in the north Levant: A new perspective from Tell Ain el-Kerkh, northwest Syria. Paleorient 32 (1):47-71.

細谷葵 2005年03月 パプア・ニューギニアの農耕活動に関する民族調査. 岡内三眞,菊池徹夫編 社会考古学の試み. 同成社, 東京都, pp.179-192.

その他の出版物

【解説】

佐藤洋一郎 焼畑サミットin高知に寄せて下 今なぜ焼畑なのか-祖先支えた生業の姿. 高知新聞, 2007年11月 .

六車由実 焼畑サミットin高知に寄せて中 火を介した自然利用-先人の生活考え方も継承. 高知新聞, 2007年11月 .

佐藤洋一郎 2007年10月 水田の変化. 人と水(3):2-3.

佐藤洋一郎 2007年06月 稲作の起源. 科学 77(6):618-620.

佐藤洋一郎 農業・水・文明. 水と文明(9).

.

【報告書】

山田悟郎 2007年 北の農耕-考古学的見地から. 平成14年度~18年度市立大学学術研究高度化推進事業「オープン・リサーチ・センター整備事業」研究成果報告書. 東アジアのなかの日本文化に関する総合的な研究, pp.167-180.

佐藤洋一郎編 2007年 『農業が環境を破壊するとき ―ユーラシア農耕史と環境―』2006年度報告書.  http://archives-contents.chikyu.ac.jp/3319/Nougyou_Redacted.pdf

松田隆二 2006年 登呂遺跡におけるプラント・オパール分析. 特別史跡登呂再発掘調査報告書(自然科学分析・総括編). .

Kato K., Yoshino H., Matsuura S., Akashi Y. and Tanaka K. 2006 Cucurbitaceae crop. Takeda K. (ed.) Genetic assay and study of crop germplasm in and around China (3rd). pp.69-85.

【その他の著作(会報・ニュースレター等)】

羽生淳子 2006年 世界の狩猟採集民研究から見た三内丸山:文化景観の長期的変化とそのメカニズム. 特別史跡三内丸山遺跡年報 (9):48-55.

会合等での研究発表

【口頭発表】

佐藤 洋一郎 小麦生産と環境問題 ―歴史あれこれ―. 第7回中国環境問題研究会, 2008年03月12日-2008年03月13日, 和歌山県古座. (本人発表).

丹野研一 作物の進化はどこまで分かってきたか、今日的到達点~考古植物からみたコムギの栽培化について. 種生物学会、第39回種生物学シンポジウム, 2007年12月, 神戸. 六甲山YMCA

世界における稲作起源. 稲作起源学術シンポジウム, 2007年11月05日, 南京、中国. 中国江蘇省農業科学院

細谷葵 貯蔵形態と生業サイクル- バリ島稲作とパプアニューギニア焼畑作の民族誌調査から. 南山大学人類学博物館オープンリサーチセンター弥生部会公開研究会/日本考古学協会2008年度大会シンポジウム予備研究会, 2007年10月, 名古屋市. 南山大学

Katayama, M. and J. Habu Human-animal interactions at Sannai Maruyama: the importance of small fish in Jomon foodways.. 72nd Annual Meeting of the Society for American Archaeology, April 2007, Austin, USA.

N., Ikuo Probable artificial selection for edible plants at prehistoric Jomon site. Sannai Maruyama.. Society of Ethnobiology 30th Annual Conference, March 2007, USA. University of California-Berkeley

【ポスター発表】

 Identifying domestication from charred Triticum spikelets from early farming sites in the Near East. 14th Symposium of the International Work Group for Palaeoethnobotany, 2007年06月17日-2007年06月23日, クラクフ, ポーランド.

高精度プラント・オパール分析による住居址内植物利用の復元. 日本文化財科学会第24回大会, 2007年06月02日-2007年06月03日, 奈良市. 奈良教育大学

【招待講演・特別講演、パネリスト】

佐藤洋一郎・宇田津徹朗・藤井伸二・田中克典・木村栄美 災害と「しのぎの技」. 第4回地球研セミナー, 2008年11月08日, 大阪府和泉市.  http://archives-contents.chikyu.ac.jp/155/20081108_chiikiseminar_4.pdf

佐藤 洋一郎 中国における稲作のはじまりと環境の変化-考古学と遺伝学の対話- 「稲作のはじまりは気候変動によるのか?」. 中国稻考古学研究会, 2008年01月28日, 地球研 京都市.

学会活動(運営など)

【その他】

2008年11月16日 第2回焼畑サミットin鶴岡「焼畑と野焼きの文化―今、東北が熱い!―」 湯海ふれあいセンター、山形県鶴岡市  http://archives-contents.chikyu.ac.jp/97/yakihata_tsuruoka20081116.pdf

2008年 人と自然:環境思想セミナー(連続セミナー) 総合地球環境学研究所、京都市北区

2008年 連続公開講座「ユーラシア農耕史―風土と農耕の醸成」(全12回) 同志社大学、京都市上京区

2007年11月24日 焼畑サミットin高知 対談「火とともに暮らす」、総合地球環境学研究所 (焼畑による山おこしの会・高知女子大学共催)、高知女子大学、高知市  http://archives-contents.chikyu.ac.jp/96/yakihata_kouchi20071124-25.jpg

2007年08月23日 国際植物考古学シンポジウム”Recent Advancements of Archaeobotany in Eurasia”、総合地球環境学研究所、京都市 2007.8/23-24  http://archives-contents.chikyu.ac.jp/147/Archaeobotany_2009.pdf

2007年06月23日 海外学術調査総括班フォーラム地域別分科会 (東アジア)、東京外国語大学アジア・アフリカ研究所、府中市

2007年06月11日 「Field Research History in Cambodia」、「カンボジアにおける遺伝資源調査」CARDIならびに総合地球環境学研究所間 研究協力協定締結記念シンポジウム、総合地球環境学研究所、京都市  http://archives-contents.chikyu.ac.jp/144/20070611_RIHNCambodiaSympo.pdf

2007年 人と自然: 環境思想セミナー (連続セミナー)、総合地球環境学研究所、京都市

その他の成果物等

【その他】

2007年09月03日 インドネシア・ハサヌディン大学 (UNHAS)との間で研究協力協定 (MOU)を締結

2007年06月11日 カンボジア農業研究開発研究所 (CARDI)との間で研究協力協定 (MOU)を締結

2007年02月16日 フィリピン大学 (UPLB)との間で研究協力協定 (MOU)を締結

2007年01月26日 中国社会科学院考古研究所と考古生物資料のDNA並びに形態解析に関する協力協定 (MOU)を締結

2006年12月01日 新疆文物考古研究所との間で第二次の研究協力協定 (MOU)を締結

調査研究活動

【国内調査】

民藝運動と建築との関係に関する調査. 東京都目黒区・日本民藝館, 2007年08月.

高倉に関する民俗調査. 鹿児島県奄美大島, 2007年06月.

民藝運動草創期における空間デザインに関する調査. 静岡県浜松市・高林家, 2007年05月.

福万寺遺跡. 大阪府池島, 2007年05月.

山焼について、現状と歴史的変遷についての民俗調査. 伊東市大室山, 2007年02月.

高倉に関する民俗調査. 鹿児島県奄美大島, 2006年07月.

【海外調査】

中国新石器文化の出土品、屈家嶺文化期囲壁集落および良渚遺跡群新発見遺構, 博物館視察. 中国、浙江省田螺山遺跡, 2007年10月-2007年11月.

小河墓遺跡調査; DNA分析、花粉分析のサンプル収集. 中国新疆ウイグル自治区, 2007年10月.

中国新石器文化の出土品、屈家嶺文化期囲壁集落および良渚遺跡群新発見遺構, 博物館視察. 中国、浙江省田螺山遺跡, 2007年09月.

中国新石器文化の出土品、屈家嶺文化期囲壁集落および良渚遺跡群新発見遺構, 博物館視察. 中国、浙江省田螺山遺跡, 2007年06月-2007年07月.

ムギ類野生種の分布調査. トルコ・ウルファ周辺, 2007年06月-2007年07月.

ムギ栽培試験調査. シリア・イドリブ県, 2007年05月.

小河墓遺跡調査; DNA分析、花粉分析のサンプル収集. 中国新疆ウイグル自治区, 2007年04月.

社会活動・所外活動

【依頼講演】

地球温暖化と植物育種. 京都産業大学バイオフォーラム2008秋 第7回, 2008年12月17日, 京都産業大学図書館ホール 京都市.

 風土と酒. 「吹田とビール」吹田市立博物館平成20年度秋季特別展「ビールが村にやってきた!」関連シンポジウム・講演会, 2008年11月29日, アサヒビール吹田工場ゲストハウス 大阪府吹田市.

「環境講座」食べて地球環境を守る―食料と環境―. , 2008年11月19日, 宇治市生涯学習センター 京都府宇治市.

シンポジウム「海と陸からみた食の未来」. , 2008年02月21日, ペガサート 静岡市.

【その他】

2007年11月04日 「熱帯地域の水飢饉」、大分大学開放イベント2007「アジアにおける環境と水」、大分大学、大分県大分市

2007年10月06日 「イネはどこから来てどこへ行く」、「イネと日本海、その持続可能性」、日本海学シンポジウム「稲から見つめる環日本海 人・風土・環境」、富山県・日本海学推進機構、タワーⅢ(インテックビル)スカイホール、富山県富山市

2007年09月08日 民間ユネスコ運動発祥60周年記念 2007年度中部ブロック・ユネスコ活動研究会「農と地球環境」、日本平ホテル、清水ユネスコ協会、静岡県静岡市

2007年05月28日 「地球環境の歴史 われわれはどれだけほんとうのことを知っているだろうか」、京都府生物教育会研修会、総合地球環境学研究所、京都市

報道等による成果の紹介

【報道機関による取材】

新疆調査. 韓国KBS, 2008年01月19日.

下之郷遺跡 (守山市)弥生時代のメロン関連記事. 読売新聞, 2007年06月01日.

下之郷遺跡 (守山市)弥生時代のメロン関連記事. 中日新聞, 2007年06月01日.

下之郷遺跡 (守山市)弥生時代のメロン関連記事. 朝日新聞, 2007年06月01日.

下之郷遺跡 (守山市)弥生時代のメロン関連記事. 毎日新聞, 2007年06月01日.

下之郷遺跡 (守山市)弥生時代のメロン関連記事. 京都新聞, 2007年06月01日.

「フィールドスクール」『コラム風の響き』. 毎日新聞, 2007年03月30日 夕刊(大阪版).

世界最古のメロンの仲間が発見された. 2007年, ニュートン 27(8) :125 . 田中克典・佐藤洋一郎

大量の水必要な小麦. 毎日新聞, 2006年07月11日 朝刊, 2面.

赤米関連記事. 化学工業日報, 2006年.

赤米関連記事. 日本農業新聞, 2006年.

赤米関連記事. サイエンス, 2006年.

赤米関連記事. 日本経済新聞, 2006年.

Early farmers took time to tame wheat. 2006年, Science News (169) :237. K. Tanno