第32回 中国環境問題研究拠点 研究会

 

日時:2012年7月6日(金) 15:00-17:00

場所:総合地球環境学研究所 セミナー室1・2

報告者: 太田 出 氏 (広島大学)

タイトル:「中国太湖流域漁民と内水面漁業の権利関係―費孝通の開弦弓村調査との比較から分析する―」

コメント:遠藤 崇浩 氏(大阪府立大学)

 

要旨:

伝統中国の水面権に関する研究はまず皆無であるといって過言ではない。
なぜなら、歴史文献はほとんどが「陸上世界」のエリートの手になるものであり、
「水上世界」に関心を有していなかったからである。
そこで本報告では、太湖流域を事例とし、口碑資料なども用いながら、内水面の権利関係を、
「官」「私」「共」の3つの視点から考えてみたい。その際重要となるのは、以下の4点である。
第一に、基本的に内水面=「官」の世界。生活・交通・治安の問題から、
王朝(国家)は「私」的な空間が内水面へ伸長・拡大するのを恐れた。
第二に、内水面に利益を見出した者は「官」の世界に「私」的な世界=なわばりを築こうとした。
税収に目をつけた地方官府は問題さえなければ、「私」的な空間の存在を認めたため、
あたかも所有権を有するかのように売買の対象となった。
第三に、少なくとも巨大水面は「官」の世界たることが求められたが、
上記(第二点)の内水面との境界も曖昧であったから、「私」的な空間が伸長してくることもあった。
第四に、小規模な内水面も「官」の世界であったが、現実にはほとんど認識されることなく農漁民に開放されていた。
それが外部の観察者には「共」的な世界に見えた。
しかしそれは所有権・使用権といったレヴェルのものではなく、ゆるやかな「官」の世界の中で、
オープンアクセスを享受していたにすぎなかったのではないか。