雪や氷の世界



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雪に関するQ&A

中尾正義

Q 降ってくる雪の形にいろいろ種類があるわけは?

A 雪が生まれるのは上空にある雲の中です。雲の中に浮かんでいる小さな氷の粒に、どんどん周りの水蒸気が凝結して次第に大きくなり、ある程度以上の大きさに達すると落下し始めます。落下の途中でも、周りの水蒸気がどんどん凝結して、さらに大きくなりながら地上にやってきたものを、われわれは雪として見ることができます。雪には実に多くの種類があり、アメリカのベントレーという人は晩年に6000種類もの雪の写真を撮ったとのことです。

これらの多種にわたる雪も、よく見ると平板状のものと柱状のものとの組み合わせでできていることがわかります。平板状になるか柱状になるかというのは、氷の粒に周りの水蒸気が凝結して大きくなるときの温度によって決まります。0℃から-4℃の間では平板状、-4℃から-10℃の間では柱状、-10℃から-21℃の間では再び平板状、そして-21℃から-40℃の間では柱状になることがわかっています。

次に同じ平板状のものでも単純な正六角形の板になる場合と、雪印のマークのように細い枝がたくさん付いている場合とがあります。単純なものは、氷の粒の周りに凝結する水蒸気の量が少ないときにでき、細い枝をたくさん持つのは水蒸気の量が多いときにできるのです。これだけでは、温度の違いで2種類、水蒸気の量の違いで2種類、これらの組み合わせで合計4種類しかないことになってしまいます。

しかし、雪が落ちてくる途中がすべて一定の温度、一定の水蒸気量という状態だということはまずあり得ません。したがって落下途中の温度と水蒸気量の変化につれて、始め単純な平板であった雪も途中から急に柱状に大きくなったり、さらに次にはたくさんの枝を持った平板状の雪として大きくなるというようなことが起きることになります。このために先に述べた4種類のものだけではなく、これら様々な組み合わせとして、多種多様の雪の種類があることになるのです。また、このようにしてできた個々の雪が4個、5個とくっつき合ったぼたん雪といわれる雪や、一つの雪が幾つかにちぎれたような雪が降ることもあり、さらに雪の種類を増やしているといえるでしょう。

Q 積もった雪にも種類がいろいろあるけれど?

A まず、降り積もったばかりの雪を新雪といいます。新雪1立方センチの重さ(これを密度といいます)は0.1グラムよりも軽い場合が普通です。これが、三日から1週間もたつと雪が全く融けたりしなくても密度が新雪のx3くらいに増加します。これは新雪の雪粒一つ一つが丸まろうとする性質を持っていて、次第に丸くなっていくと同時に雪粒同士が互いにくっつき合いながら自重で圧縮された結果です。この変化をふつう雪が縮まるといい、このように変化した雪を締り雪といいます。以上は主に、特に寒さが厳しい厳冬期の変化です。

春先、暖かくなってくると積雪の表面は日中には融け出し、その融け水は下の雪にしみ込んでいくようになります。しかし夜間温度が下がると、雪の中で再び凍ります。この融けたり凍ったりする変化が繰り返して起きると、雪の一粒一粒はどんどん大きくなり、ちょうどグラニュー糖のようなザラザラの雪になってしまいます。これをザラメ雪といいます。夏の雪渓で見られるのはこのようなザラメ雪がほとんどです。

以上述べた、新雪、締り雪、ザラメ雪以外にもう一つ雪の種類として霜ざらめ雪があります。積雪の底は地熱で暖められて多くの場合0℃です。したがって、気温が0℃よりも相当低い場所での、積雪の表面と底とでは、その温度にかなりの開きが出てきます。このようなときには、底付近の雪はどんどん蒸発して表面付近の雪に凝結するという現象が起きます。こうしてできるのが霜ざらめ雪です。

霜ざらめ雪は気温の低い所にしかできないので、北海道では標高の低い里の雪の中にもしばしば見られますが、本州の里の雪の中にはあまり見られません。山岳積雪の中には本州、北海道を問わずよく見られます。南極では積もっている雪のほとんど全部がこの霜ざらめ雪だということも珍しくありません。霜ざらめ雪は非常にもろいので、斜面にできた霜ざらめ雪の上に多量の雪が積もると雪崩がおきやすくなります。斜面の積雪の中にこの雪の層があったら、雪崩の発生に注意しなくてはいけません。

Q 北海道と上越地方では雪の性質が大分違うけど?

A 北海道の雪はさらさらしているが、上越辺りの雪はべたべたしているという話をよく聞きます。たとえば雪をぐっと握り締めても砂のように指の間からこぼれてしまって固まらないような場合はさらさらと感じ、握り締めると団子のように固まってしまう場合にはべたべたしていると感じます。これは雪が水を含んでいない場合と含んでいる場合の違いです。雪が水を全く含んでいないときには、積雪の中の隣り合う雪粒同士は非常にゆっくりしかくっつき合うことができません。しかし、雪の中に水が含まれている場合には、ほんのちょっと力を加えるだけで容易に雪粒同士がくっつき合うことができ、極端な場合には氷になってしまうほどです。雪粒同士が強く結びついている雪ほど壊れにくいことになります。ねっとりと粘っこい、いわゆる重い雪です。

北国札幌の場合、積もっている雪が1月の始め頃まで湿っていることもありますが、1月、2月のいわゆる厳冬期においては水分を含まないいわゆる乾いた雪であることが多いです。これに反して雪国新潟県の上越の場合には、厳冬期においても積雪は水分を含んで湿っていることがよくあります。これは、緯度が北になればなるほど寒いということを反映しているのです。寒ければ積雪の中の水分は凍ってしまい、乾いた雪になってしまうからです。

山間部に入れば、上越辺りでも厳冬期には全く水を含まない積雪が見られることがありますが、同じ海抜高度を持つ北海道の山と比べると、雪が乾いている期間は短く、上越辺りの雪の方が湿っているという印象が強いことになります。

Q 雪の付着力とは?

A 新雪が3日から1週間もたてば、雪粒同士がくっつき合って締り雪になることは前に述べました。砂丘などの砂粒同士は何十年たってもお互いにくっつき合うことはありません。どうして雪粒は簡単にくっつき合うのでしょうか?それはマイナス5℃とか10℃とかの温度では、真っ赤に焼けた鉄と同じような状態だからなのです。

雪や氷は冷たいではないか、それが焼けているとはどういうことなのか、と思う人がいるかもしれません。たしかに雪や氷は手で触れると冷たく感じます。しかし、それはわれわれ人間にとって冷たいのであって雪や氷にとっては熱い状態なのです。雪や氷が融ける温度(融点)は0℃です。したがって雪や氷にとってマイナス5℃というのはたとえば融点が1536℃である鉄にとっては1500℃ぐらいの温度に相当するのです。1500℃くらいの高温になると鉄は赤熱していて、鉄の粒子は互いに簡単にくっつき合うことができます。砂もその融点に近い温度になると簡単にくっつき合ってしまいます。土の粒子のこのような性質を利用して作ったのが茶碗などの焼き物なのです。焼き物は陶土を水で練ったものを、熱してその温度を融点付近まで上昇させ、土の粒子同士をお互いに強く結びつかせたものなのです。

雪粒の場合でも土粒の場合でも、粒子同士は接着剤のようなものでつなぎ合わされているのではなく、物質そのものがつながったものです。ですから雪粒同士がつながっているところでの付着力は1平方センチ当たり20キロにもなることがあり、トラックに踏まれたときに受ける力のx4からx5に相当することになります。

Q 「エビのしっぽ」はどうしてできるのだろう?

A 水は通常は0℃以下の温度では凍結して氷になってしまいます。ところが非常に小さな水滴は0℃以下の温度でも凍らずに水として存在することができます。このような水滴は過冷却水滴と呼ばれます。過冷却水滴が風によって運ばれてきて何かに衝突すると、そこで凍り付いて氷になります。このように過冷却水滴が次々に凍りつき成長したものがエビのしっぽと呼ばれるものです。したがってエビのしっぽが成長している方向は風が吹いてきた方向を示しています。

エビのしっぽにも、白く濁ったものと透き通って見えるものとがあります。過冷却水滴が衝突してすぐに凍ってしまい、その後で次の水滴がぶつかってくると、以前に凍りついた粒と次の粒との間には空気が取り込まれて、できあがったエビのしっぽは白濁して見えます。透明に見えるものは、水滴がぶつかってまだ完全に凍りきらないうちに次の水滴がぶつかってできたものです。

エビのしっぽによく似たもので、地方によっては木ばなと呼ばれるものがあります。木に咲いた花のように見えるからでしょう。これは樹霜というもので、エビのしっぽのように過冷却水滴が付着したものではありません。空中の水蒸気が木の枝などに凝結してできたものです。しかし、これも水蒸気の源は過冷却水滴だろうと考えられています。蔵王の「モンスター」としてよく知られている樹氷も過冷却水滴の仕業です。しかし、樹氷は過冷却水滴が次々に凍りついてできたのではなく、空中を飛んでくる雪粒や雪片を水滴がのり付けしてできたものだろうと考えられています。

Q 雪上の踏み跡やシュプールはなぜ春先まで融け残るのか?

A アイスバーンやカチカチに凍った雪は別にして、普通、雪の上をつぼ足やスキーで歩くと、まず雪面は押し下げられて周りの雪面より低くなり、窪地になります。しかし、押し下げられたときに雪はほとんど周りに逃げないので、地面の上に積もっている雪の量(1平方センチ当たりに積もっている雪の重量)は、押し下げられる前と後とではほとんど変化がありません。いい換えると、押し下げられた所の雪の量と周りの自然のままの雪の量とは同じです。

ところが、風によって飛ばされてくる雪粒は地形的な窪地にたまりやすいので、足跡やシュプールの跡はちょっと風が吹いただけでたちまち雪がたまり、その跡はわからなくなってしまいます。こうなると、踏まれた場所にある雪の量が踏まれていない場所にある雪の量より、後で吹きだまった分だけ多いことになります。ところが、暖かくなって雪が融けるときの表面からの融け方は、踏まれた所もそうでない所でもほとんど同じなので、積もっている雪の量が多い踏まれた場所の方が融け残ることになります。

もう一つの原因は、底で融ける雪の量が踏まれた場所とそうでない場所とでは異なるということです。厳冬期においても、地熱によって積雪は底から融けている場合が多いのです。ところがこの地熱は、雪を底から融かすと同時に雪の中を伝わって上空にも逃げています。踏み固められた雪は、そうでない雪よりも熱を逃がしやすいのです。したがって踏み固められた雪の方が、逃げる熱が多いということになり、雪を融かすのに使う熱は少なくなってしまうのです。つまり、踏み固められた雪は、踏み固められない自然の雪よりも底で融ける量が少ないことになり、ますます融け残ることになるのです。

Q 雪洞の中はなぜ暖かいのだろう?

A われわれの身の回りにある物質の中で最も熱を伝えにくい物質の一つは空気です、というとびっくりする人がいるかもしれません。われわれは空気の中にいるのだから何も着なくても充分暖かいはずではないかと。そのとおり。ただし、空気が全く動かなかったらです。

空気は暖められると軽くなって上昇し、代わりに冷たい空気が下降してきます。この現象は対流と呼ばれ空気中での熱の移動が起きるのは、ほとんどこのことに起因しています。したがって空気が対流を起こさないようにさえすれば、空気に囲まれているということは、人間にとってとても暖かい状態なのです。

対流を起こさせないためには、空気が動けないように狭い範囲に閉じ込めるなり空気の移動に対する障害物を設けるかすればよいのです。こうして考えられたのがセーターであり、布団や寝袋(シュラフ)であり、防寒着なのです。細かい繊維に邪魔されて空気が対流できないのです。こうなると空気の熱を伝える度合い(熱伝導率)は木材の十分の一、鉄の3000分の一ぐらいになってしまいます。雪はその体積の半分以上を空気が占めており、また、氷の繊維が複雑に絡み合っていて空気の対流を防いでいます。したがって雪の熱伝導率は非常に小さく、木材の熱伝導率以下です。まさに雪洞の中にいるということは、厚い布団にくるまっているようなものなのです。

雪と水とが混在していると、その温度は必ず0℃です。周りから熱を与えるとその中の雪粒は融け始めます。雪はそれが融けるときに、与えられる熱を吸収してしまうので、雪がすっかり融けてしまうまでは温度は相変わらず0℃です。逆に熱を奪ってやると、雪と水との混合物の中の水の部分は凍り始めます。水は凍るときに奪われただけの熱を発生するので、この場合も水がすっかり凍ってしまうまでは温度は0℃のままです。

雪洞の中には多くの熱源があります。炊事用コンロからはもちろん、人間の体自身からも熱が発生しています。この熱はテントなどの場合にはたちまち外界に逃げてしまいますが、雪洞の場合、そのほとんどは雪洞の壁を融かすのに使われます。コンロの火を消した後、雪洞の中の空気が0℃よりも低くなってくると、先ほど融けた水は熱を発生させながら凍っていき、これによって雪洞内の温度が低くなるのを防ぎ、0℃という温度を維持します。つまり雪洞の壁は余った熱を水という形でためておいて、必要なときにその水が凍ることによって徐々に熱を生みだしてくれるいわば熱の貯金箱のようなものなのです。

(「あなたは雪についてどれだけ知っていますか」【山と渓谷】1977刊を修正)

(2019年12月)

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