研究テーマと対象地域

T.森林農業(ラオス →周辺地図  詳しくは森林・農業班ホームページ

@有用植物に関する民族植物学的研究

 東南アジアの住民が日常生活で周りの多様な植物を伝統的に利用してきたことが知られている。最近の社会・経済的事情の変化によって,その利用法の多様性や知識などが変化してしてきている。本研究では,人間・植物関係の変移の一例として,日常生活に利用される植物に着目し,観察および聞き取り調査により民族植物学的に実態を明らかにすることを目的とする。これによって過去の状態との相違が検討可能となると期待される。

A植生変動に関する生態学的研究

 ラオスでは植物が天然資源として特に重要である。本研究では植生の潜在的生産能力と回復力に着目する。回復力は,人間による植生攪乱をかいくぐる能力,ストレスに対するキャパシティーでありこれは持続可能な再生可能天然資源利用を理解する上で重要な概念である。
 本研究の目的は次の点である。@植生の遷移と生産力のメカニズムとその変化を明らかにする。A潜在的な生産力と植生の回復力を評価する。B過去60年間の生産力と植生の多様性を評価する。

Bラオスにおける授粉者と食植者の相互作用

 ある生態系の生態学的特質を描く最良の方法は,開花フェノロジー,植物・授粉者および植物・食植者の関係を記述することである。ラオスの植物相は高い多様性と固有性が特徴的であり,植物の開花特性は授粉者と共進化してきた。植物・授粉者および植物・食植者の相互作用に関する基礎的なデータはラオスの生物多様性の保存、および人間と自然の相互作用の理解に重要なものとなるであろう。
 本研究は目的は次の点である。@熱帯季節林における開花フェノロジーを記述する。A植物・授粉者相互作用の多様性と特性を記録する。B植物・食植者相互作用の多様性と特性を記録する。

C人間と生物資源の相互作用

 豊かな生物資源はラオスにおける生計の基盤のひとつである。生物資源は食料、薬、衣類および住宅用材を提供するのみならず、遺伝子資源でもある。生物資源の生態は人為の影響などにより常に変化している。人々の生計のあり方と生物資源の相互作用に対する理解の深化は、生物資源の持続可能な使用および保全するうえで重要である。
 本研究は目的は次の点である。@生物資源、特に草本植物と栽培種と野生種を含む種集団についてその多様性を明らかにずる。A60年もしくはそれ以上のタイムスパンで、生物資源の変化を明らかにする。B生物資源の生態に人間が及ぼした影響を検討する。

D森林−農業系の動態

 上流地域における林業・移動耕作の複合と,低地における水田は,ラオスにおいて史は的な土地利用システムである。かつて、このシステムは生態学的,経済的に持続可能だった。しかし近年の人口増加、移住、商品作物生産の変化、および土地使用と環境保護に関係する政策および規則の施行は生態系に影響を与えた。土地利用システムの変化がその土地の生産性と生物多様性に与えた影響を検討することが求められている。
 本研究の目的は次の点である。@過去60年間の森林−農業複合系の変化について,その原因と結果を明らかにする。A栄養と水循環のメカニズムとその変化を明らかにする。B土地利用システムの生産力および生物多様性の変化を評価し,生態学的・経済学的見解から示唆を得ること。

E地域資源の管理および利用権の変遷

 ラオスの人々にとって土地は基本的な資源である。その管理および使用権は彼らの生計にとって重要な問題である。ラオス北部では複合的な土地利用が一般的にみられ,生物多様性保全地域で移動耕作や非木材林産物採取の後に林業やアグロフォレストリーが行われることもある。相互に了解されている土地所有の重層性はまた、特に移住者による新しい居留地の設立によっても生じてくる。こういった状況の中,土地利用の失敗や村落間および村落内の土地資源をめぐる軋轢が生じてきた。近年,政府はこれらの問題を解決する土地使用計画の立案および土地割付け政策を施行してきた。しかし、それらは多くの問題を抱えています。
 本研究の目的は次の点である。@原住民による慣習的な村落内の資源管理および利用権を明らかにする。A政府主導および自発的な移住によって新たに設定された居留地のもとでの,村落間の資源管理および利用権を明らかにする。B村レベルでの土地使用計画および土地割付け政策の施行を明らかにし、その効果を検証する。

F北ラオスにおける社会経済的、文化的な変遷

 ラオスのほとんどの僻地においても市場経済は浸透している。このことは地方の人口動態に影響するが,その影響は流通体制,就業構造,民族など様々な要因によって異なる。こうした流れによって、さらに北部山岳地方における経済、社会、文化がその多様性を増すことが考えられる。
 本研究の目的は次の点である。@ラオス北部において,居留地の決定要因,就業構造とそれらの動態を明らかにする。Aラオス北部において,特に牛,水牛の商品フローとその変化を明らかにする。Bラオス北部における最近60年間の社会・経済的および文化的変遷を検討する検証する。


U.生態(ラオスおよび北部タイ →周辺地図

@)低湿地生態(ラオス)詳しくはズブズブ(平地生態班)ホームページへ。

”ラオスの水資源利用に関する歴史地理学的研究”

 水の使用、水田稲作、および漁業に代表される水資源利用は、東南アジア大陸部の人々の生活にとって重要な側面である。ラオスは大陸の水が集中する地域であるため、この国の水資源利用および水環境に対する認識は、様々な種類の環境問題に大陸規模で影響する。ダム建設や都市化による近年の環境変化によって、人と水資源の関係は、国内の地理的な変位に伴いながら変化を余儀なくされている。
 この研究は、水資源使用および人々の環境認識がどのように確立され変化してきたか、ラオスの中でどのような相違が生じたか理解するためのフレームワークを提供することを目的とする。とくにダム建設や都市化といったような最近の環境変化のインパクトに着目する。

A)北部タイ生態(北部タイ)

”北部タイのイン川・メコン川分水界における固有知識、共同管理と生態史”

 タイ北部にを流れるイン川は,メコン川の支流の1つである。この川は季節による環境変動が特徴的である。例えば、雨期に氾濫した水は森林にも浸入し,そこは魚の産卵場所となり,魚はメコン川からイン川へ移動する。イン川分水界の住民は何世紀もの間、移住する魚および川岸の環境に依存してきた。季節的に魚類が移動するために、人々はそれぞれの場所に応じて様々な技術を使用して、水資源を開発してきた。しかしながら、川岸の環境は人口成長および近代化により,ため池の埋め立てや河畔林破壊などの変化が生じた。このことによってメコン川から移動してくる魚の産卵場の消滅だけでなく,地域文化の低下、および人々の生存手段の損失が懸念される。
 イン川分水界の山地においては、人々は焼畑耕作を行う。彼らは森林環境に依存してきた。それは、殖裁による生産だけでなく狩猟と採集を通じて獲得される天然資源も含んでいる。換金作物の導入と市場経済の影響によって、彼らの生活も急激に変わってきている。地域の生産物は彼らの自給用だけでなく、地域市場もしくは国際市場で商品として取り扱われるようになった。植栽、狩猟、採集にかかわる彼ら固有の知識と慣習は消滅しつつある。これらの外部の要因が彼らの文化と社会にどの程度影響するのか、持続可能な将来を評価するうえで重要な問題だと思われる。商業的つながりにおいての河川住民と産地住民の相関の問題は、この地域の将来を考える上でもうひとつの重要な要素である。この問題は人間と環境の相互作用を短期的および長期的にみることによって理解すべきである。現在の研究の成果は、価値のある文化的伝統として地域住民の間で共有され、環境教育プログラムを通してより若い世代に継承されるべきである。


V.医学(ラオス →周辺地図  詳しくは医学班ホームページへ。

”2003〜2008年のラオスにおける人間の生態学的推移に関する研究”

  第二次世界大戦後の60年間,ラオスの地域社会には人口学的変化(出生率の低下、死亡率の低下、移入および移出)、保健学的変化(感染症の減少、非感染症の増加、健康志向の変化)、栄養学的変化(食事と栄養摂取の変化、肉体的活動の減少、身体のサイズと構成の変化)が訪れた。なかにはいい方向に変化した社会もあるが,あまりいい方向に変化しなかった社会もある。その成功と失敗の度合いによって,それぞれの社会の健康状態が左右される。地域社会間の健康状態には大きな格差があり,この格差を縮小する必要がある。


W.中国(雲南省)

”中国雲南省における環境史と生態史の包括的研究”

 中国の地域社会では特にこの2,30年の間に、その環境および文化が変化してきた。これは主に1950年代に始まる急激な社会経済的発展、近代化と、政局の混乱が原因であった。中央政府および省政府の環境政策、文化政策の施行を受けて、環境の保全と持続可能な利用、伝統文化の保持を成功させた地域社会がある。雲南省には多くの少数民族が様々な環境に暮らしているため、様々な地域社会における変化の過程を検討し、将来における環境および文化両方の維持可能の指針を探求するが、急務である。現代の環境史、生態史だけでなく、さらに数世紀にわたって考察することが、中国の環境史および生態史の長期敵傾向を評価するために有意義である。

X.モノ・情報(ラオス →周辺地図詳しくはモノと情報班ホームページ

「博物館コレクションをコレクションする −モノ研究からみたメコン河流域地域収集の民族資料の可能性−」をご参照ください。