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プロジェクトについて

水・エネルギー・食料は、人間の生存にとって最も基本的かつ重要な資源で、しかも互いに複雑な依存関係にあります。
これら資源間には、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないというトレードオフ関係があり、資源を効率的に利用・保全することが求められています。
そのためには、自然科学と人文・社会科学による水・エネルギー・食料のつながり(ネクサス)の解明が必要です。

本プロジェクトは、科学では明らかにしきれない部分も考慮しながら、資源間のトレードオフを減らし、利害関係者(ステークホルダー)間の争い(コンフリクト)を解決することで、人間環境安全保障を最大化する政策立案に貢献することを目的としています。

その背景として、気候変動や経済発展、都市化やグローバリゼーションの進行等の自然・社会環境の変化が、水・エネルギー・食料資源の安全保障にますます圧力をかけるようになったことがあげられます。
2016 年1 月に世界経済フォーラムにより発表された「グローバル・リスク報告書」では、潜在的な影響が大きい世界的リスクとして、水危機、食料危機、エネルギー価格ショックが特定されています。さらに、同報告書のリスクの相互関係を示すマップにおいて、水危機、食料危機、エネルギー価格ショックが直接・間接的に関連するリスクとして位置づけられています。

そこで、プロジェクトでは、水・エネルギー・食料ネクサスのトレードオフとコンフリクトを対象に、最適な資源利用・保全のあり方を検討すると同時に、地域レベルとグローバルレベルを結ぶ地球環境研究の推進機関であるFuture Earth(フューチャー・アース)や、国連総会で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)といった課題に貢献し、さまざまな世界的ネットワークとも連携しながら、特定地域の問題解決に取り組むことで、全球的な地球環境問題の解決に資することをめざしています。

各グループについて

プロジェクトでは、
(1)水とエネルギーネクサスの解明
(2)水と食料(水産資源)ネクサスの解明
(3)ステークホルダーの分析
(4)学際的研究手法の開発と統合
(5)資源利用と社会・文化
の5つのサブテーマ・グループを設定し、研究を進めています。

水・エネルギー・食料ネクサスのシステム全体の自然科学的解明と、得られた科学的知見に基づくステークホルダーとの対話・協働をとおして、コンフリクトの緩和をめざします。最終的には、3 つの資源間のトレードオフを減らす政策形成に貢献していきます。

(1)水とエネルギーネクサスの解明

地下水環境システムの解明、地熱利用による地下環境および河川・沿岸生態系への影響の解明、水力利用のあり方の分析等、水とエネルギーおよび周辺環境とのつながりのしくみを考察し、効率的なエネルギー生産や最適な再生可能エネルギー源の多様化について研究を進めています。


大槌町での小水力発電ポテンシャル Source: 澤舘(2017)
小水力発電賦存量評価

  • ・2,171MWh(大槌町内消費電力量の4%に相当)
  • ・2,026tのCO2削減が可能

エネルギー生産のための効率的な水利用 Source: 藤井、山田
水1kgでどのくらいのエネルギーが生産できるか?


温度環境の変化がもたらす河川生態系の変化 Source: Yamada et al., 2016
温泉排水の流入が、水温の上昇とそこに生息する植物プランクトンの増加を引き起こし、
温度・食料の点でティラピアが快適に生息できる環境を形成


岩手県大槌町では井戸の深さごとに地下水採取調査を実施し、地下水位のモニタリングを進めています。
福井県小浜市では地下水のもつ熱をエネルギーとして活用する地中熱利用のポテンシャル(潜在利用可能量)を算出しました。
大分県別府市では重力測定装置を使って地面の微かな振動を測定することで、地下水や温泉の流れ等の地下環境が徐々に明らかになってきました。


(2)水と食料(水産資源)ネクサスの解明

小浜湾、大槌湾、別府湾奥部等において、海底湧水と水産資源とのつながりを解明しています。


海底湧水を可視化するためのラドン調査 Source: Sugiomoto et al., 2017


海底湧水と栄養塩の関係 Source: 本田
海域に供給される地下水の量は、河川水に比べて非常に少ないが栄養塩供給の貢献度は高い


海底湧水と魚類群集の関係(岩礁域:日出) Source: 小路
海底湧水の周辺で魚類の出現率が有意に高かった


海底湧水と一次生産力の関係 Source: Sugimoto et al., 2017

小浜湾や別府湾において海底湧水の湧出地点が特定され、生物生産への影響が明らかになってきました。


(3)ステークホルダーの分析

温泉資源保護と発電を両立させるガバナンス体制の構築をめざし、温泉資源ステークホルダーの共通認識を可視化するとともに、これまでステークホルダー会議やインタビュー調査により特定した関係者とともに、将来シナリオを検討するワークショップを行ないます。


小浜市の地下水資源に関わるステークホルダー分析に基づく関係性の可視化 Source: 木村 ほか(2016)
共通の関心事項が多いほど、資源保全についての協力関係が構築されやすいか?

水の同一特性(量・質)に関心を持つ人同士は、意見の違いが表面化しやすいことにより、
保全に対する協力関係を結びにくい。


シナリオワークショップに向けた手順 Source: 馬場 ほか(2016)より一部改変


資源をめぐるステークホルダーの分析結果から、別府市等において関係者間で共通に認識されている論点を絞り込み、将来の社会変化に備えるための複数のシナリオ策定を進めています。


(4)学際的研究手法の開発と統合

水・エネルギー・食料ネクサスの課題を特定し解決するとともに、各専門分野の研究結果を統合するための手法、具体的には、統合指標、統合モデル、統合マップ、オントロジー工学、費用便益分析の開発と適用を行なっています。


学際統合ツール開発 Source: Endo et al., 2015


オントロジー Source: Kumazawa et al., 2016

各分野の研究成果を横断的に統合するための各種モデルやマップ、オントロジー工学の開発が進み、大槌やアメリカ・カリフォルニア州では具体的な費用便益分析や経済的な評価結果が明らかになりました。


(5)資源利用と社会・文化

地域社会における資源管理のあり方や資源開発の歴史、地下水資源の生態学的・社会文化的重要性の解明をふまえ、地域社会と科学的知見を共有・共創するアプローチの開発と実践に取り組んでいます。


井戸の変化から見る地下水資源利用の社会文化史(小浜) Source: 王
明治初期の町図(城下町エリア)における辻井戸の分布。井戸の数が増加し、河川近くに掘り抜き井戸も見られる。
赤:堀井戸 青:掘り抜き井戸

現在の小浜市中心部における自噴井の分布と水温や自噴高などの観測データを市民と共有する「湧水マップ」。

雲城水(平成の名水百選)におけるアンケート調査。地下水資源の利用形態の変化(上水道)/利用者の広域化/利用・関心・価値のギャップの拡大。


小浜市で地下水の食育講座や地下水市民講座を開催したほか、別府市では市民参加型の温泉一斉調査を実施しました。
各地で地下水に関する研究成果を共有するための「湧水マップ」をウェブ上で公開し、自治体、民間企業との共同研究を継続することで、ネクサスに関係するステークホルダーの関心を高めることに貢献しました。

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プロジェクトの目的

プロジェクトをとおして、
(1)いまだ国際的に統一された定義が存在しないネクサスの概念を、本プロジェクトの成果に基づいて学術的に定義していきます。
(2)水・エネルギー・食料ネクサスのシステム全体の複雑性の解明と、そのために必要な専門分野の統合と学際的な研究手法の開発を進めます。例えば、将来シナリオの作成に必要な水収支バランス・物質移動・熱移動を考慮した統合モデル開発や水・エネルギー・食料ネクサスに関連する経済的な価値を推定します。
(3)社会と学術的な研究をつなぐ取組みとして、ステークホルダーと協働で作成した将来シナリオの政策への反映、具体的には計画策定とその実現等、研究成果の実装化を実施します。
(4)空間スケールと時間スケールを考慮し、社会と科学の共創に関して、縦の空間スケールとしてローカルからグローバルレベルへつなぐ手法開発、横の空間スケールとして、プロジェクトサイト間のネットワーク構築を進めます。さらに、時間スケールに対応するため、各プロジェクトサイトにおける将来シナリオについて、さらに具体化します。
(5)以上の研究成果を基盤として、国内外でネクサス問題解決に取り組む研究者やステークホルダーとのネットワークの構築・連携の強化に努めます。

Co-Production(協働生産)の取り組み

Accountability(科学の社会に対する責任を高める)

ローカルセミナー開催
大槌全体会議:特別セミナー(2015)
出版物による成果発表
「大槌発 未来へのグランドデザイン」(2016)
「地下水・湧水を介した陸―海のつながりと人間社会」(2017, 水産学シリーズ)
共同イベント開催
・地下水の食育講座/地下水市民講座(2016, 小浜市・福井県立大学 共催)
城下かれい祭り前夜祭シンポジウム(2015, 日出町・京大地球熱学研究施設 共催)
大槌学の地平から考える復興シンポジウム(2014, 大槌学の地平から考える復興シンポジウム実行委員会 共催)


Impact(社会における科学的知識の実装化を強化する)

・大槌町における成果の復興計画・実行計画への実装化
・小浜市における成果の地下水利活用への助言
・西条市における成果の地下水保全管理計画への反映


Humility(科学的知識生産においてextra-scientific actorsの知識、視点、経験を含めること)

・シナリオ・プランニング
別府市温泉一斉調査
・(株)八千代エンジニヤリングとの共同研究
湧水マップ


別府市温泉一斉調査

地下水の食育講座

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