サニテーション価値連鎖の提案―地域のヒトによりそうサニテーションのデザイン―

メンバー

リーダー / Leader

山内 太郎

総合地球環境学研究所 教授 / 北海道大学 大学院保健科学研究院 教授

専門分野:人類生態学、国際保健学、生物人類学、栄養生態学

研究のキーワード:
1.人類進化の視座に基づく適正な栄養、身体活動、体格・体組成の探求
2.エネルギー代謝・フィットネス・行動パターンを統合した栄養適応の検討
3.生態学的健康観に基づく地域住民・コミュニティのQOLと国際保健

›› 研究室ウェブサイト

サブリーダー / Sub Leader

船水 尚行

室蘭工業大学 理事 / 副学長

専門分野:環境学、土木工学

研究のキーワード:排水分離・分散型排水処理とバイオトイレ、持続可能なサニテーションシステム、排水分離分散型処理、資源回収型処理

中尾 世治Life TLSocio-Culture GL

京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 助教

専門分野:歴史人類学、物質文化研究

研究のキーワード:歴史人類学、物質文化、西アフリカ近現代史・イスラーム史

〈 西アフリカにおける近代の意味をさぐる 〉

私は、2012年から西アフリカのブルキナファソで、土器製作や鍛冶といった物質文化やイスラームの歴史、政治史を研究してきました。こうした物質文化研究と歴史研究は一見するとどのようにつながっているのかわからないかもしれませんが、私としては一貫して、西アフリカにおける近代とは何か、近代の経験とはどのようなものであったかを研究してきました。
たとえば、現在、土器は鋳造アルミ鍋やプラスチックの工業製品にとって代わられていますが、土器製作はほとんど水がめに専門特化して、都市においても水がめは土器が主流となっています。鋳造アルミ鍋は1940年代後半にセネガルの鍛冶屋がスクラップを素材として安価で技術的に簡易な製作技法を開発したものが、マッカ巡礼や労働移民などを通じて西アフリカ各国に広まり、ブルキナファソでは1970年代に最初の製作者が現われ、現在では地方においても、スクラップから鋳造アルミ鍋が製作されるようになりました。このように、もともとあった技術が、在地の人びとの創意工夫によって、独自の近代化を果たしました。
こうしたことは、西アフリカのイスラームにおいてもみられるものです。西アフリカではイスラームが伝来した中世以来、クルアーンの口頭での暗唱を経て、註釈書を学び、アラビア語の読み書きの技術を学ぶという伝統がありました。植民地統治期に、植民地政府によるフランス語の近代教育が導入されると、1940年代後半に、かつてのクルアーンの丸暗記ではなく、語学としてアラビア語を教え、フランス語と世俗教育を並行して、近代的なイスラーム教育を行なおうとする運動が西アフリカの各地で生じました。初期の運動では、伝統的な教育を受けた知識人やフランス語の読み書きのできる労働者たちが互いの知識を共有し合うといったことを行ないながら、イスラームを自ら近代化させていきました。
このように、西アフリカにおける近代とは、必ずしも欧米諸国の近代と同じものではなく、在地の技術と外来の技術との独自の複合のなかで、在地の人びとが創りあげてきたものです。本プロジェクトのサニテーションの研究においても、このような視角をもちつつ、ローカルな人びとにとっての近代を研究していこうと考えています。

チームリーダー / Team Leaders (TL), Working-Group Leaders (GL)

池見 真由インドネシア TL

札幌国際大学 観光学部 准教授

専門分野:参加型開発論、地域研究、開発経済学

研究のキーワード:コミュニティ組織、住民参加、地域開発、フィールドワーク、住民組織論

〈 低所得層のコミュニティ主体による所得改善と衛生管理の実践 〉

発展途上国や新興国に住む低所得層の多くは、乏しい経済資源や劣悪な衛生環境のもとで生活を余儀なくされています。これらの状況に対処するために人々は、地域で協力し合い、より良い暮らしを求めて日常的に自助努力を行なっています。例えばアフリカの農村や東南アジアの都市スラムといった低所得地域で暮らす人々は、それぞれのコミュニティで住民組織を形成し、地域住民が共有する共通の目的のために様々なグループ活動に参加しています。共通の目的とは、所得改善や経済活動の促進、健康維持や教育の向上などがあります。これらの取り組みはいわゆる参加型開発またはコミュニティ・イニシアティブと呼ばれ、地域住民の主体的な参加を通じた持続可能な開発という一面を持っています。さらに、地域の環境や文化、人々の慣習や知識・知恵を取り入れながら、住民の能力、経済・教育レベルに応じた生活改善を、住民自身によって目指す取り組みであるという特長も有しています。
以上の背景と問題関心を基に、私は西アフリカの国ブルキナファソの農村と東南アジアの国インドネシアの都市スラムで、現地調査に基づく事例研究を行なっています。研究の目的は、こういった低所得層が自分たちの暮らしをよりよくするために参加する住民組織の活動を通じてもたらされた効果や、逆に直面した課題から見えてくる様々な可能性の幅をより広げ、より理解を深めることです。地域のコミュニティ活動による持続可能な所得改善と衛生管理の実践を実現する、より適した参加型開発の手法についても追究し、政策提言につなげたいと考えています。

ブルキナファソの農村,インドネシアの都市スラム
ブルキナファソの農村(左)及びインドネシアの都市スラム(右)で行なったアンケート調査の様子

牛島 健Co-creation TL石狩 TL

北海道立総合研究機構 北方建築総合研究所 研究主幹

専門分野:地域計画、社会システムデザイン

研究のキーワード:地域マネジメント、価値連鎖、インフラ、コミュニティ、MFA

〈 Sanitation Value Chainの共創 〉

肥料を大量に使う茶畑は、価値連鎖サニテーションの重要なパーツの候補(インドネシアの例)
肥料を大量に使う茶畑は、価値連鎖サニテーションの重要なパーツの候補(インドネシアの例)

たとえば、人のし尿が肥料として使えることは、多くの人が知っています。しかし、実際に使われることが少ないのは、心理的に受け入れられにくいということの他に、もっと受け入れられやすくなるような仕組みや加工技術が十分に議論されていないこと、し尿の肥料価値(のポテンシャル)を実際の価値に変換して、流通に載せる仕組みが無いこと、など、いわゆる価値連鎖のデザインがほとんどできていないからではないかと考えられます。
これまでの研究で、単純にし尿を回収して農地で使ってもらおうとしても、その輸送料だけで化学肥料の価格と同等もしくは上回ってしまう場合が多いことを、私たちはすでに知っています。ですので、地域の人々のくらし(広義の“なりわい”)の中で、サニテーションから複合的な価値を生み出していくことが必要と考えています。そのためには、地域の方々との対話を通じて、価値連鎖を共創していくことが必要です。
このプロジェクトでは、インドネシア・都市スラムや、北海道・石狩川流域などを対象に、価値連鎖サニテーションのしくみを、地域の方々と共創することを目指します。そして、そのプロセスを分析する予定です。

片岡 良美Vizualization TL

北海道大学 大学院工学研究院 工学系技術センター 技術職員

専門分野:情報科学・教材開発

研究のキーワード:トランスディシプリナリティ(TD)、トランスサイエンス・デザイン、インフォグラフィックス、映像制作、ICT教育、知的財産

〈 サイエンスが生み出す「価値」とは何でしょう? 〉

サニテーション価値連鎖の提案 -地域のヒトによりそうサニテーションのデザイン。このプロジェクトでは、お金で語られることの多かった「価値連鎖」を、地域のヒト、さらには、その一人一人にとっての「価値」によりそい、地域にあった仕組みをデザインすることを目標としています。
わたしにとってのサイエンスが生み出す「価値」は、人と人との出会い、知る喜びと分かる感動、そして、新たな未来への期待。それはサイエンスの発端にはいつも「ヒト」があるからです。技術を生み出そうとした目的、問題を解決したいサイエンティストの思いがあります。だからこそ、豊かな未来をつくるチカラを秘めています。しかしそれは時々とっても伝わりづらく、忘れられがちなことかもしれません。
わたしにとってのサイエンスが生み出す「価値」は、人と人との出会い、知る喜びと分かる感動、そして、新たな未来への期待。それはサイエンスの発端にはいつも「ヒト」があるからです。技術を生み出そうとした目的、問題を解決したいサイエンティストの思いがあります。だからこそ、豊かな未来をつくるチカラを秘めています。しかしそれは時々とっても伝わりづらく、忘れられがちなことかもしれません。
サイエンティストもそうでない人も平等に対話し、学び合うこと。それは、みんなが論理的に思考すること、または大量の専門知識を伝えることでしょうか?まずは、わたしたちのアイディアに興味を持ってもらうこと、共感し合うこと。難しいことは視覚化して分かりやすく、大切な思いを伝えるために、TDをVISUALIZATIONする「価値」を探っていきたいと思います。

キアラチョンドン地区の小学校の先生方と映像素材収録後の記念写真
キアラチョンドン地区の小学校の先生方と映像素材収録後の記念写真
プロジェクトのロゴ サニテーションバリューチェーンのカギとなるかもしれないオブジェクトを地球の中に詰め込みました。
プロジェクトのロゴ:サニテーションバリューチェーンのカギとなるかもしれないオブジェクトを地球の中に詰め込みました。

清水 貴夫ブルキナファソ TL

京都精華大学 国際文化学部 准教授

専門分野:文化人類学

研究のキーワード:子ども、イスラーム、教育、社会問題

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私が西アフリカ、ブルキナファソに初めて降り立って20年が経ちました。最初はバックパッカーとして、次に、NGOの職員として、そして、2005年からは研究者としてブルキナファソに関わり続けています。
研究を始めてからは、文化人類学と地域研究を中心的な課題としてブルキナファソの若者や子どもの調査研究を進めています。特にストリートを生活の場とする若者や子どもたちが織り成す文化、近代化や都市化の大きな物語が彼らに及ぼす影響と彼らがそこにいるためのリアクション(サバイバル、抵抗、従属、いなし、無視)を観察し、子どもたちの生を探ることが中心的な課題です。また、最近では、ブルキナファソの(伝統)家屋や食文化、生活の中の知恵と言った、多方面に研究領域を広げています。
このプロジェクトでは、これまでに調査研究を進めてきたブルキナファソをフィールドとして、まず、サニテーションの現在の姿を中心に資料収集を行い、この分析の中から人びとの生活の中に組み込み可能な価値循環の在り方を考えていきたいと考えていきたいと思います。

クルアーンを朗々と詠む(ワガドゥグのイスラーム学校の授業にて)
クルアーンを朗々と詠む(ワガドゥグのイスラーム学校の授業にて)
セネガルのムーリッド教団への調査の合間に
セネガルのムーリッド教団への調査の合間に

原田 英典ザンビア TLHealth GL

京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 准教授

専門分野:環境衛生工学

研究のキーワード:開発と衛生、糞便曝露解析、下痢症リスク管理、し尿汚泥管理、腐敗槽、下排水システム、エコロジカルサニテーション

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〈 糞便への曝露の複雑さ:地域の健康リスクを減らす効果的なトイレ導入・衛生介入とは? 〉

トイレの利用が健康な生活に不可欠なことは広く認識されています。さらには、肥料価値の高いし尿を農業利用することができれば、健全な資源循環をも可能にします。ところで、トイレの導入がヒトの健康状況を改善する証拠を示すのは、必ずしも容易なことではありません。大規模にトイレを導入したものの、思ったほど地域の下痢症が減らないなどの事例はしばしば見受けられます。さらには、途上国においてし尿を農業利用する際に健康にどのような影響があるかについての定量的な研究はあまりなされていません。
その要因の一つは、ヒトが糞便に曝露される経路は単純ではないからです。一度ヒトのし尿が環境中に拡散すると、特に非衛生的な環境下では様々なルートからヒトは糞便に曝露され、結果として糞便由来の病気になります。糞便が出たまさに直後にその拡散を断つことができるトイレの導入は、衛生改善の重要な方策の一つであることに疑いはありません。しかし、周辺環境まで含めて地域を完全に衛生的にするのは容易ではなく、そうした状況下で,汚染された池で泳いだり,汚染された土に触れた汚れた手で口を拭ったりしていては,下痢症を有意に減らすことが困難になるのは容易に想像できます。健全なトイレの導入することに加え、トイレの導入でどんなリスクがどの程度減るのか、何が健康リスクを高める要因になっているのかを知ることは、より効果的な衛生介入策を見出す上で必須の情報と言えるでしょう。
残念ながら、衛生介入による健康改善の価値はしばしば見えにくく、実感を持たれにくいことが多いです。そしてこれは、トイレ導入を困難にする主要な原因の一つと考えられます。本研究では、特に糞便曝露と健康リスク解析の観点から、トイレの導入をはじめとした衛生介入が地域の健康改善にどのように貢献するのか、より効果的に地域の健康状態を改善する衛生介入とは何かをテーマとして、健康改善の側面からサニテーションの価値の見える化に挑戦したいと考えています。

藤原 拓Technology TLMaterials GL

京都大学 大学院工学研究科(都市環境工学専攻・水環境工学分野) 教授

専門分野:水環境工学

研究のキーワード:下水汚泥

これまでの環境保全技術は、マイナスとなる汚染物質をできるだけ取り除いて(ゼロに近づけて)環境に放出することが目標でした。しかし、これからは環境保全が同時に地域に価値をもたらす、すなわち「マイナスからプラスを産む」技術やシステムが求められると思います。そこで私は、品質の良い未利用バイオマスからは高付加価値な製品(たとえば食品)を産み出し、それができない品質のものからは工業製品を、次のレベルのバイオマスからはエネルギーや元素を回収するなど、バイオマスを発生源で多段的に利用する「カスケード型資源循環システム」について研究してきました。これに加えて、産み出された価値を地域にどのようにつなげていくかという「Value Chain」の考え方も地域に価値をもたらすためには重要と考えており、このプロジェクトで共同研究者の皆さんとともに研究を進めていきたいと考えています。

所内メンバー / RIHN Members

林 耕次Cameroon TL

総合地球環境学研究所 研究部 研究員

専門分野:生態人類学、地域研究

研究のキーワード:アフリカ狩猟採集民、生業、人類学、地域開発、ザンビア、インドネシア

〈 人類にとってのトイレ文化を考える 〉

これまで、アフリカの熱帯雨林で人類学的な調査を長く続けてきましたが、人びとの〈排泄行為〉をとくに対象とすることはありませんでした。いくら気心の知れた人びととはいえ、その領域に踏みこむのは私個人が抱いているモラルや慣習、あるいは他人の排泄に対する忌避感があってか、無意識的に避けてきたのかもしれません。しかし、サニテーションプロジェクトにかかわり始めてからのフィールド調査を通じて、いわゆる「トイレ文化」や「排泄(行為)」に対する各地域や民族ごとの規範や観念についてあれこれと考えることになりました。
2016年の夏にカメルーンの森で、定住した狩猟採集民バカ族の「トイレを持たない文化」を観察し、そのあとに首都ヤウンデのスラムを訪れました。現地の友人に連れられて、初めて足を踏みいれたスラム地区の奥でまず目に飛びこんできた光景は、市内でもあまり見かけることのないほどの雑然としたゴミの山と、不潔きわまりない下水路でした。かろうじて家の片隅や離れにトイレはあるものの、処理をせずに垂れ流しであることも多いそうです。こうした劣悪な環境は、とうぜん日常の暮らしにも影響を及ぼします。清潔で安全な生活用水の確保はむずかしく、衛生面の問題はもとより、雨季にはコレラなど疫病の発生源ともなりうるといわれています。このようなスラムでのトイレ事情やサニテーションにかかわる状況は、次に訪れたアフリカ南部のザンビア、首都ルサカでも似たような状況でした。
例えば極論とはいえ、「トイレ」をもたない森に生きる人びとと、都市スラムで垂れ流しのトイレ文化に生きる人びとは、果たしてどちらが幸せといえるのでしょうか。プロジェクトでの研究活動をつうじて、ひとにとってのサニテーション、トイレ文化や排泄行為に対する慣習・規範等に関心をもちながら、そこから見えてくる人間と環境の関係性について考えてゆきたいと思います。

カメルーン東部、焼畑農耕民コナベンベのトイレ。穴を掘って、板を渡した簡易なつくりである。
カメルーン東部、焼畑農耕民コナベンベのトイレ。穴を掘って、板を渡した簡易なつくりである。
カメルーンの首都ヤウンデのスラム地区にて。汚水は垂れ流しの状態である
カメルーンの首都ヤウンデのスラム地区にて。汚水は垂れ流しの状態である。

白井 裕子

総合地球環境学研究所 研究部 研究員

専門分野:農村社会学

研究のキーワード:人間生態学、生活システム論

東南アジアのタイとラオスの村落を中心に、これまで私は熱帯の農学、農村社会と環境、人々の暮らしや世帯構成について、住民参加型アプローチやシステム論的アプローチによって、それらの変容と要因解明に取り組んできました。現在も国籍や研究分野の異なる共同研究者たちと国際的学際的研究を続けており、農村地域の工業化や都市化、道路開発による“Cross-Border Issues” などに焦点をあて、研究の深化を意図しています。

木村 文子

総合地球環境学研究所 研究部 研究推進員

事務担当

本間 咲来

総合地球環境学研究所 研究部 研究推進員

事務担当

所外メンバー / External Members

赤尾 聡史

同志社大学 理工学部 准教授

専門分野:環境衛生工学

研究のキーワード:機性廃棄物処理・活用、人口減少地域の環境計画

伊藤 竜生

株式会社タクマ

専門分野:化学工学、環境工学

研究のキーワード:発展途上国向けコンポストトイレの開発、尿中栄養塩類の回収、尿中医薬品の電解酸化

〈 新しいカタチを実現するための技術とシステムの提案 〉

サニテーションのための技術といわれると何を思い浮かべるでしょうか?身近なところでは飲み水を作るためのろ過、排水をきれいにするための微生物を使った処理などがあります。例えば、排水をきれいにすることを考えます。濁った水があればその濁りを取るために沈殿やろ過をします。さらに溶けている有機物を取りたい場合は活性汚泥を用います。このように複数の技術を組み合わせたシステムを作って目的を達成します。また、この要求は時代とともに変化しています。河川や湖沼の富栄養化が問題になったため、この原因である窒素やリンを取り除くことが求められました。そして今は窒素やリンを取り除くのではなく回収することが求められています。この先は単に回収するのではなく、より排泄物由来の高付加価値・高機能な製品が求められるようになります。そのため今までなかった要求を満たすための新しい技術が必要とされています。
一方、新しく良いシステムがあればすぐに普及するのでしょうか?必ずしもそうとは言えません。装置の価格や運転費用が非常に高価であればだれも使うことはできません。使い方が非常に複雑でわかりにくいものであれば使うことそのものが困難です。また、システムの機能に対して不明確な部分があったりや目的を達せない場合はそのシステムを選ぶことはないでしょう。もしかすると生理的に受け入れられない色や形、操作があるかもしれません。このようにシステムを使う人や導入の決定をする人からの目線で見るといくつかのハードルがあることがわかります。このハードルを越えるためにサポート体制を充実される、情報提供をする、コンピューター制御を導入する、色や形を工夫するなどの解決策がありますが、ほとんどの場合はコストという形で評価されます。つまり、必要な要求をすべて満たしたうえでこのコストを小さく、さらには利益を得られるようにするシステムが求められています。
このプロジェクトではよいシステムを作るために技術のカタログを作り、どのシステムがどのような価値を生み出すかをまとめます。その一方で新しい要求を実現するための技術を作ります。

尿から肥料を作る実験装置:この装置を使って無価値な排泄物から有価値な肥料を作ります。
尿から肥料を作る実験装置:この装置を使って無価値な排泄物から有価値な肥料を作ります。
尿や排水を濃縮する装置:この装置は尿や排水から水だけを取り出します。取り出した水は雑用水として使うことを考えています。水を取り除かれ濃縮された尿や排水は別の装置で有価値なものに変換されます。
尿や排水を濃縮する装置:この装置は尿や排水から水だけを取り出します。取り出した水は雑用水として使うことを考えています。水を取り除かれ濃縮された尿や排水は別の装置で有価値なものに変換されます。

井上 京

北海道大学 大学院農学研究院 教授

専門分野:環境資源学

大石 若菜

東北大学 大学院工学研究科 大学院生

専門分野:衛生環境工学

研究のキーワード:消毒、病原体、し尿汚泥管理

糞尿中にはウイルスなどの病原体が含まれるため、サニテーション価値連鎖の中で糞尿を扱う人の感染リスクが問題になります。
私はこれまでの研究で、濃縮した尿中の病原体の不活化に取り組んできました。アンモニアなどの尿に元々含まれる成分が濃縮されることで不活化が促進され、WHOの推奨する貯蔵期間を短縮できることがわかりました。この結果は、尿の回収を収入を得るための仕事として確立できることを衛生安全的側面から保障しています。
今後は研究対象をし尿汚泥や糞便に広げ、これらを安全に扱うための管理方法の構築を目指します。

大越 安吾

北海道立総合研究機構 農業研究本部

専門分野:衛生工学・畜産環境学・飼料学

研究のキーワード:消毒・堆肥化処理

楠田 哲也

九州大学 高等研究院 特別顧問

専門分野:環境学、土木工学

研究のキーワード:環境技術と理念、環境システム、流域環境管理、人間と環境の関係性、地域水循環

ウズベキスタンで都市施設の説明を受ける。
ウズベキスタンで都市施設の説明を受ける。

〈 自己実現可能な社会を持続させる環境技術思想の体系化と持続可能な社会における適正な技術と社会システムの創出 〉

通時性のもとで持続可能な環境技術と社会構造のあり方を探求し、人間の欲求に応える自然の資源を減少させる高度技術は持続可能な社会では受容されないという視点で、適正技術の開発に携わっています。

佐井 旭

北海道大学 大学院保健科学研究院 学術研究員

専門分野:地域研究、社会心理学

研究のキーワード:フィールドワーク、ボディイメージ、肥満、ソーシャルメディア、東南アジア(マレーシア、インドネシア)、メラネシア(パプア・ニューギニア、ソロモン諸島)

私は、2013年よりマレーシアにおいて大学生のボディイメージと肥満の関係について民族性やテクノロジーの発達に着目し調査を行ってきました。これまで肥満の発生プロセスについては主に食生活や運動頻度等の環境要因に目が向けられてきましたが、近年自身や他者の身体に対する認識、知覚など個々の「意識」による影響が叫ばれています。本プロジェクトでは共通課題として「健康意識」をテーマに幅広く取り組みたいと考えています。

昆虫採集(サンボンツノカブト)の情報を共有し合う子供達(ソロモン諸島・ササムンガ)
昆虫採集(サンボンツノカブト)の情報を共有し合う子供達(ソロモン諸島・ササムンガ)
調査風景の一部(ソロモン諸島・ササムンガ)
調査風景の一部(ソロモン諸島・ササムンガ)

佐野 大輔

東北大学 大学院工学研究科 教授

専門分野:衛生環境工学

研究のキーワード:病原体、消毒

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〈 Value chainにおける微生物学的安全性の確保 〉

図1.ノロウイルス吸着性腸内細菌の電子顕微鏡写真。矢印がノロウイルス粒子。
図1.ノロウイルス吸着性腸内細菌の電子顕微鏡写真。矢印がノロウイルス粒子。

本プロジェクトで構築することを目指すValue chainでは、重要な取引物として糞尿が含まれます。したがって、Value chainによって経済を回すことと同時に、糞尿中に含まれる病原体による感染リスクを十分に抑える必要が生じます。私はこれまでの研究で、水中病原体、中でもノロウイルスなどの胃腸炎ウイルスに関し、消毒剤感受性や水環境中動態解明に関する研究を行ってきました。研究成果の1つはノロウイルス吸着性細菌の発見です(図1)。ある種の腸内細菌は特定の糖鎖を分泌し、そこにノロウイルス粒子が結合することで、紫外線や消毒剤などからノロウイルスを守っていると考えられます。本プロジェクトでは、これまでの研究経験を生かし、Value chainを動かす中で病原体による感染リスクを如何に管理するか、という問題に取り組んでいます。

鍋島 孝子

北海道大学 大学院メディア・コミュニケーション研究院 教授

専門分野:国際政治学、アフリカ地域研究

研究のキーワード:統合的水資源管理、水の民主主義的政策決定

これまで国際政治学は、農村や農民を研究対象としてきませんでした。通常、私の専門分野では、国家体制や戦争と平和、そしてアフリカ地域研究としては、植民地統治の負の遺産であるエリート統治や腐敗、軍事政権、人権蹂躙、民族紛争などを扱ってきました。アフリカの農民や農村組織を研究してこなかった理由は、この学問領域は国家や国際政治の権力のあり方を問うものであり、こういった社会勢力や組織体は、政策決定を担う中枢から最も遠く、その能力もないとみなされてきたからです。でも、本当にそうでしょうか。
アフリカの農民は歴史上、植民地体制や独立後の権威主義体制、そして今日のグローバリゼーションの中で非合法ながらも抵抗してきました。そして貧困や抑圧故に、ときに民族中心主義に駆り立てられ、暴力の加害者にも被害者にもなってきました。まず、この構造を理解し、「アフリカはもともと暴力的なのだ」という偏見を取り除くことが、今日の国際政治学の課題と考えます。
その上で、あえてアフリカの農村の再編の可能性を問うことが重要だと考えます。その際、水資源管理と衛生に関する政策決定や合意形成には、農民は重要な政治アクター、主要なステークホルダーとなってきます。それは、伝統回帰でも新たな政治的扇動でもなく、農民が国境を越えた知見と技術を理解し、近代化によって壊されても尚残る農村の自治性に応用していく過程を検証しようと思っています。

ブルキナファソの農村の人々)
ブルキナファソの農村の人々
マダガスカルの田園
マダガスカルの田園

西 真如

京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 特定准教授

専門分野:医療人類学

研究のキーワード:ケアの生態系、グローバルヘルス、疾病負荷と生活の質

〈 サニテーションの技術が支えるケアの生態系 〉

近年のグローバルヘルスの取り組みは、「ユニバーサルな」技術、つまりどんな場所でも同じように使えて、誰にでも簡単に扱えて、しかも経済効率性の高い技術を用いることで、低中所得国の人々の健康指標を大きく改善することに成功してきました。たとえばアフリカのHIV治療を支えているのは、一回わずか数十円のコストでその場で結果がわかるHIV簡易検査キットとか、一日一錠の投与で目覚ましい効果が得られる安価な抗HIV治療薬です。中低所得国の人々の命を救う技術の普及そのものはすばらしいことですが、ただ残念なのは、ユニバーサルな技術への期待が高まる一方で、人々の生活の質を高めるための手間のかかる取り組みが顧みられなくなっていることです。場所によって異なる人々の多様な生き方と価値観、病いの経験とその背景にある社会–経済環境、生態環境といった要因をぜんぶすっとばして、即座に効果を得られる「魔法の弾丸」をつくりだすことこそが健康への近道だと考えられがちです。
しかし実際には、人々の健康に関わるさまざまな介入の中には、「魔法の弾丸」が決して通用しない分野がいくつもあります。とりわけサニテーションは、最適な技術を配置するために社会と経済と生態環境の要因とを丹念に読み込まねば成立しない、複雑な取り組みの分野です。本プロジェクトでの私の研究関心は、ケアの生態系という分析枠組みを用いて、複雑なサニテーションの取り組みを説明することです。ケアの生態系とは、特定の場所で生活する家族を中心に据え、それを取り囲む社会、経済、生態的な環境との関係において、家族の成員ひとりひとりの疾病負荷に結びつくリスクと、生活の質に結びつく資源とがどのように配置されているかを可視化するための枠組みです。サニテーションの技術が、ケアの生態系のなかでどのようにふるまい、さまざまな地域で生活する家族の疾病負荷を緩和し、その生計をささえるのか考えてゆきたいと思います。

長谷川 祥樹

北海道立総合研究機構 北方建築総合研究所 研究職員

専門分野:環境工学

研究のキーワード:価値連鎖、環境計測、物質循環

私は、大学で環境フィールド工学を専攻し、水・大気の環境保全について学んだ後、民間企業で水・大気を対象とした環境計測機器の技術開発に従事してきました。これまでの経験から、本当の困りごと(解決すべき課題)やそれを解決するヒントは現場(フィールド)で見つかることを実感しました。このプロジェクトでは、現場(フィールド)主義を忘れずに、人間活動と環境保全の両立に貢献できるような研究を目指します。

藤井 滋穂

京都大学 大学院地球環境学堂 客員教授 / 名誉教授

専門分野:環境工学

研究のキーワード:水環境衛生、流域管理、微量化学物質汚染

古澤 輝由

立教大学 理学部 共通教育推進室(SCOLA) 特任准教授

専門分野:サイエンスコミュニケーション

研究のキーワード:ヘルスコミュニケーション、科学教育、ワークショップデザイン、サブサハラアフリカ(マラウイ)

サイエンスコミュニケーターとして、様々な分野の科学技術を伝える場、共に考える場づくりに取り組んできました。サニテーションを巡る状況を改善するためには、その環境だけではなく人々の意識、行動の変容が肝要と考えます。サイエンスコミュニケーションの手法、事例を転用し、楽しみながら新たな価値を創出する体験・ワークショップをデザインしつつ、持続可能な枠組みの構築を目指します。また、本プロジェクトの国内外における効果的なアウトリーチについても模索したいと考えています。

増木 優衣

大東文化大学 国際関係学部現代アジア研究所 日本学術振興会特別研究員

専門分野:地域研究、文化人類学

研究のキーワード:インド、サニテーション、ダリト、清掃人

私はこれまで、現代インドにおけるサニテーション運動の広がりと、近代以降のサニテーションにおいて重要な役割を担ってきたとされる清掃労働者(その多くはダリトに属する)との関係について、社会文化的・生態環境的・技術的な側面から研究してきました。今後は、フィールドとアーカイブ双方の手法を取り入れ、近現代のインドだけでなく、日本の被差別民など、世界各地で清掃労働に従事してきた人びとにも焦点を当てていきたいと考えています。これにより、彼らが構築してきた伝統的なサニテーション・システムが、資源活用などの分野において担ってきた役割を明らかにします。また、それらが近代的な公衆衛生運動や差別撤廃運動の展開により、いかなる変化をたどったのかを注意深く検討していきます。

元イスラーム藩王国の史料を所蔵する研究所(インド北西部)
元イスラーム藩王国の史料を所蔵する研究所(インド北西部)
フィールドであるインド北西部の小都市にも広がりつつある国家レベルの公衆衛生運動「クリーン・インディア・ミッション」
フィールドであるインド北西部の小都市にも広がりつつある国家レベルの公衆衛生運動「クリーン・インディア・ミッション」(描かれているのはM. K. ガーンディーとスローガン "A Step toward Cleanliness")

渡辺 一生

京都大学 東南アジア地域研究研究所 連携准教授

専門分野:地域研究、地理情報学

研究のキーワード:リモートセンシング、ドローン、データベース、東南アジア、エリアケイパビリティー

Hermes DINALA

北海道大学 大学院保健科学院 大学院生

専門分野:Child & Youth-led Participatory Action Research, Quality of Life

研究のキーワード:Sanitation, Health, Civic Participation, Children & Youth, Slums

My name is Hermes Dinala from Malawi, South-Eastern Africa. My country borders with Zambia to the West, and Tanzania to the East. I have recently (April, 2019) joined as a first year Master course student (M1) at Hokkaido University in the Faculty of Health Sciences in ‘Smile Lab’. My background study was bachelor of Arts Humanities, with a major in Bio-medical ethics. At the meantime my interested is in Sanitation, especially in Sub-Saharan Africa because I believe this region is facing similar sanitation and health problems. I plan to conduct a research in Peri-urban Lusaka, Zambia. During this research period I plan to work with Dziko Langa, a youth Initiative in the areas of Kanyama and Chawama. Children will be the main subjects I intend to work with. I would like to employ the nudge concept (a process of indirectly influencing or reinforcing a behaviour and decision making through illustrations or modification of the subject’s environment). Both children and Parents will be active participants of this research. I would like to work with children in improving sanitation because behaviour is easily built when people are young therefore sustainable and long lasting, and children are the most vulnerable.

Mokhtar GUIZANI

北海道大学 大学院工学研究院 助教

専門分野:環境衛生工学

研究のキーワード:機性廃棄物処理・活用、人口減少地域の環境計画

Sikopo P. NYAMBE

北海道大学 大学院保健科学研究院 学術研究員

専門分野:Child & Youth-led Participatory Action Research, Quality of Life

研究のキーワード:Sanitation, Health, Civic Participation, Children & Youth, Slums

〈 The goal of my research 〉

footage from slums in Lusaka, 2016
footage from slums in Lusaka, 2016

My research is focused in Zambia, a country which though improving, still struggles with poor sanitation and healthcare. According to the United Nations Children’s Emergency Fund (2015), 36% and 50% of the population lack access to clean water and sanitation facilities whilst infant, neonatal and under-five mortality rates are quite high (at 70, 34, and 119 per 1,000 live births respectively). The move from Millennium Development Goals (MDGs) to Sustainable Development Goals (SDGs) renewed the focus on children and youth civic participation as a solution. However, levels of their participation is still limited. Over 60% of the Zambian population are under the age of 24 years, yet this large and capable group of people are underestimated as change agents. My work therefore examines the benefits and possible demerits of incorporating children and youth as change agents in community change and development, with particular focus on sanitation and health care in the urban slums of Lusaka, Zambia’s capital city.

Joy SAMBO

北海道大学 大学院保健科学院 大学院生

専門分野:Sanitation, Health, Solid Waste, Menstrual Hygiene Management

研究のキーワード:Sustainable, Solid Waste, Treatment, Dumpsite, Menstrual Hygiene Management, Adolescents

My previous study investigated challenges of sustainable Solid Waste Management (SWM) in Lusaka, Zambia. The study focused on sustainable SWM, particularly the waste treatment process after disposal. Results revealed several challenges: lack of waste separation at source, insufficient funds and lack of equipment. Waste treatment was conducted at very minimal rates and not sustainable. Dumpsite machinery was out of service facilitating indiscriminate dumping rather than the use of landfill method.
The current research is with adolescent school girls on Menstrual Hygiene Management (MHM). Many adolescents struggle with poor sanitation and MHM which may impact their health and school experiences. Menstruation is a natural part of life and monthly occurrence for 1.8 billion girls, yet millions of menstruators across the world are denied the right to manage their monthly menstrual cycle in a dignified, healthy way (UNICEF 2019). Gender inequality, discriminatory social norms, cultural taboos, poverty and lack of basic services often cause girls’ menstrual health and hygiene needs to go unmet. Adolescents may face stigma, harassment and social exclusion during menstruation. The study aims to establish MHM Knowledge, Attitudes and Practices, social cultural issues surrounding MHM, menstrual products affordability and accessibility, and functionality of school sanitary facilities.

海外メンバー / Overseas

Aileen HUELGAS-ORBECIDO

デ・ラ・サール大学(フィリピン) 准教授

専門分野:環境学
研究のキーワード:water treatment, wastewater treatment

Aswatini Manaf

インドネシア科学院 教授

専門分野:社会学

Amadou Hama MAIGA

国際水環境学院(ブルキナファソ) 教授

専門分野:環境工学

Carolina

インドネシア科学院 上級研究員

専門分野:環境工学

Diana Rahayuning WULAN

インドネシア科学院 研究員

専門分野:環境工学
研究のキーワード:wastewater treatment, risk analysis

HAMIDAH Umi

インドネシア科学院 研究員

専門分野:遺伝工学
研究のキーワード:バイオエネルギー、生物化学

Imasiku Anayawa NYAMBE

ザンビア大学 教授

専門分野:衛生工学

Jonathan Jared IGNACIO

デ・ラ・サール大学(フィリピン) リサーチアシスタント

専門分野:環境工学
研究のキーワード:Environmental Engineering, sanitation, rural sanitation, eco-toilet

Joseph WETHE

ヌーヴェル・ボボ大学(ブルキナファソ) 教授

専門分野:サニテーション学
研究のキーワード:sanitation technology, wastewater treatment and reused

Joseph Mumba Zulu

ザンビア大学 講師

専門分野:社会医学

Jovita Tri Astuti

インドネシア科学院 上級研究員

専門分野:衛生工学

Lopez Zavala Miguel Angel

モンテレイ工科大学(メキシコ)

専門分野:衛生工学

Marlon ERA

デ・ラ・サール大学(フィリピン) 教授

専門分野:社会学
研究のキーワード:community mobilization, social acceptability, participatory approach

Neni Sintawardani

インドネシア科学院 上級研究員

専門分野:環境工学

Nilawati DEWI

インドネシア科学院 研究員

専門分野:環境工学
研究のキーワード:waste treatment

Rizkiana Restu Utami

Polteknik Kesehatan Bandung リサーチアシスタント

専門分野:人類学

Syam Surya

スルヤ大学 講師

専門分野:社会学

Widyarani

インドネシア科学院 研究員

専門分野:環境工学

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