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乾燥地域の農業生産システムに及ぼす地球温暖化の影響

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プロジェクトリーダー

渡邉紹裕 総合地球環境学研究所

研究プロジェクトについて

厳しい水の制約を受ける乾燥地域の農業生産システムが、地球温暖化による気候変動で受ける影響の方向や様相を、その幅が大きいといわれる地中海東岸地域のトルコ・セイハン川流域を対象にして、描き出すことを試みました。将来の地球温暖化による気候の変化を見通して、気温の上昇や降水量の減少、海面の上昇などによって、地域の農業にどのような問題が起こるのかを考えました。この試みを通して、「人間の自然への関わり方としての農業」の仕組みを理解し、地球規模の気候変動に対する課題と対策を検討しました。プロジェクトは、トルコ科学技術研究機構の協力も得て、日本人とトルコ人の研究者各40余名を中心に、国際共同研究プロジェクトとして実施しました。

 

成果の概要

プロジェクトでは、セイハン川流域を対象に、地球温暖化が地域の気候の変化を通して、流域の水文や農業にどのような影響を及ぼすかを評価しました。

最新の気候モデルと温暖化実験手法などを用いて、2070年代の気候変化を見通した結果、セイハン川流域では気温は2~3.5℃上昇し、降水量は夏を除いて20%程度減少する可能性が示されました。

主要作物コムギの収量は、現地試験と開発した作物モデルによると、気温と二酸化炭素濃度の上昇による増加と、降水量の減少による減少の、相反する効果が複雑に働いて、地域的に増加と減少に分かれることが予測されました。流域の自然植生も影響を受け、ステップ・常緑広葉樹などの範囲が拡大し、亜高山林帯は縮小することが予想されました。

冬の雪や雨の減少は流域の水資源量の減少をもたらし、収益性の高い果物や野菜の栽培を増やしたり、灌漑面積を増やしたりすると、農地で水不足や生育障害が起こることも分かりました。

こうした見通しや予測は、想定できる流域条件と利用できる知識の組合せの「思考実験」です。今後は、変化をよく観察・確認しながら対応していくことが重要です。

 

地球環境学への貢献

地球温暖化による気候変動が生じると、農業生産の基本的な条件に変化が生じ、それに対して人間の生産活動は影響を受けると同時に、その影響を活用したり、悪影響を回避し克服する次の活動を起こします。そしてその行動が新たな問題を惹き起こす可能性があります。したがって、気候変動の農業への影響と、農業が気候変動に与える影響の基本的な理解を背景にして、気候や地域の条件の変動に対応できる知恵や仕組みを常に機能させることが大切です。本プロジェクトでは、問題の構造を理解し、検討すべき対象を考察する手法を開発することができました。また、トルコ現地において、問題に取り組む総合的な学際研究の契機を提供し、温暖化の流域水文や農業への影響評価の重要性の認識を喚起することができました。

 

成果の発信

プロジェクトの成果は、書籍・講演・報道などの形で国内外で発信しています。共同研究者は、学術雑誌や国際会議・学会で、成果論文を発表しています。トルコでは、トルコ語の報告書も刊行し、農業の持続可能性の向上のための国際シンポジウムも開催しました。また、テレビ番組にも成果を提供しました。

ICID国際灌漑排水委員会などの国際機関にも手法や成果を送り出すなど、地球温暖化に対する国際的な取り組みへの貢献も進めています。

 

図:トルコ・セイハン川流域での温暖化影響の評価

トルコ地中海地域のセイハン川流域(約25,000km2)では、山間部には天水小麦地帯が広がり、海岸平野部は冬の山岳地帯の雨や雪を貯水して夏に利用する広大な灌漑農業地帯で、主にトウモロコシや綿花、果樹などが栽培されています。

ここでの2070年の気候シナリオを、領域気候モデルなどを使って設定し、それに伴って流域の水文条件がどのように変化するかを流域モデルで予測。 これらの条件を基に、農地での作物生育や水需給を推定しました。

将来の1月降水量変化の例。
青:降水量増加、茶:降水量減少

 

年流出量の将来変化。
青:流出量増加、赤:流出量減少

 

海岸平野の年平均地下水位の将来変化。
青:地下水位上昇、赤:地下水位低下

 

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