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砂漠化をめぐる風と人と土

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地球研年報(業績一覧など)

R-07

プロジェクトリーダー

田中 樹 総合地球環境学研究所

サブリーダー

石本雄大 総合地球環境学研究所

コアメンバー

真常仁志 京都大学大学院農学研究科
伊ヶ崎健大 首都大学東京都市環境科学研究科
小林広英 京都大学大学院地球環境学堂
中村 洋 財団法人地球・人間環境フォーラム
三浦励一 京都大学大学院農学研究科
内田 諭 国際農林水産業研究センター
DEORA, Krishan Pal Singh インド・ラジャスタン研究所

プロジェクト研究員

宮嵜英寿 プロジェクト研究員
清水貴夫 プロジェクト研究員
佐々木夕子 プロジェクト研究員
手代木功基 プロジェクト研究員
遠藤 仁 プロジェクト研究員
紀平 朋 プロジェクト研究推進支援員

研究プロジェクトについて

アフリカやアジアの半乾燥地は、資源・生態環境の荒廃と貧困問題が複雑に絡みあう砂漠化地域です。わが国を含む砂漠化対処条約(1994)の批准国には、問題解決のための学術研究と社会実践の両面での実効ある貢献が長らく求められてきました。対象地域の風土への理解を深めながら、日常のなかの生業活動を通じて、暮らしの安定や生計の向上につながり、結果として環境保全や砂漠化抑制ができる技術や道筋を探ります。

 

なぜこの研究をするのか

図1 砂漠化の原因は日常の暮らしや生業

数ある地球環境問題のうち、本プロジェクトは砂漠化をテーマとします。それは、今なお多くの地域が砂漠化や貧困問題に悩み、人々の暮らしや生存が脅かされているためです。

砂漠化には、資源・生態環境の荒廃や劣化と貧困問題が複雑に絡みあっています。わが国を含む砂漠化対処条約(1994)の批准国には、問題解決のための学術研究と社会実践の両面での実効ある貢献が長らく求められてきました。これまでにも、さまざまな取り組みが行なわれてきましたが、その解決は依然として国際社会の急務となっています。

砂漠化問題の解決が難しいのは、それが人々の暮らしを支える農耕や牧畜、薪炭採集などの日常的な生業活動に起因している点にあります(図1)。その取り組みには、原因である暮らしや生業を維持しながら砂漠化対処にあたるという困難がともないます。それゆえに、研究でも実践活動でも未解決のまま積み残された仕事が山積みです。研究課題は取り立てて新しいものではありませんが、「周回遅れのランナー」のような気持ちで人々の暮らしの目線に立った丁寧なフィールド研究を重ねます。

どこで何をしているのか

主な対象地域は、西アフリカ内陸部のサヘル地域(ニジェール、ブルキナファソ)、南部アフリカ(ザンビア、ナミビア)、インド(ラジャスタン州)です(図2)。これに、地域間比較や技術移転の可能性を探るための予備調査地域として東アジア(中国、モンゴル)、スーダンやセネガルを加えます。

プロジェクトの目標は、次のように集約されます。

  1. 砂漠化地域の社会・生態・文化的な諸相、生業動態と生存適応、
       問題の背景への学術的理解を深めること
  2. 人々の暮らしとの親和性があり実践可能な砂漠化対処技術や
       地域支援アプローチを開発・実証すること
  3. 得られた知識や経験を対象地域の人々、砂漠化対処や地域支援に
       取り組む人々や機関に提供すること
図2 対象地域

伝えたいこと

写真1 セイニさんの圃場試験

砂漠化地域には、いわゆるグローバル化のなかで取り残されていく地域やコミュニティ、情報や知識に触れる機会に恵まれず、何らかの取り組みに参加したくてもできない弱い立場や状況におかれている人々がいます。私たちは、これらの人々の存在を強く意識します。日常的に無理なく片手間に行なうことができ、暮らしの安定や生計向上に資する生業活動をとおして、間接的にあるいは結果として資源・生態環境の保全や砂漠化抑制が図られるものをみつけたいと考えています。

写真2 気象と土壌中の養水分環境の変動を観測する試験サイト

それに対して希望をもたせてくれることがありました。ニジェール西部の村落で一緒に農民技術の形成に取り組んでいるセイニさんの自発的な圃場試験です(写真1)。畑に等高線状に並べた草は、アンドロポゴンという多年生の野生のイネ科草本で、穀物倉の材料として利用されます。近くの市場で売ることもでき、生計の足しになり、土壌侵食の抑制にも効果があります。セイニさんは、嬉しそうに私たちにその経験を教えてくれます。「大きく古い株よりは、若い株を移植するほうが生育が良い」、「草の種子を深くまいてはいけない」、「野生のものには所有者がいる」、「自分の畑に植えることで貧しい世帯でも手に入れることができる」、「草で編んだゴザはお金や食料にかわる」、「思いついたアイデアを畑で次々と試している」。これらの言葉は、どれも私たちの地域理解に深い洞察を与えます。美辞麗句や誇張なしに、地域の人々による農民技術の形成に現実味がでてきました。砂漠化対処をめぐる知識や技術には、研究者やそこに暮らしてきた先人のたゆまぬ努力による膨大な蓄積がすでにあります。しかし残念ながら、地域の人々に必ずしも受け入れられてはいません。もったいないことです。私たちが行なう学術研究(写真2)に、セイニさんのような人々と一緒に取り組むトライアルを加えることで、親和性と実効性のある対処技術に変身させることをめざします。

これからやりたいこと

地球環境学は、「持ち寄りの学問」です。地域の人々と私たち、異なる専門をもつ研究者や実務者との学びあいを通じて、問題や可能性を発掘し、互いの知恵を積み重ねていくつもりです。

2013年度に新たに取り組みたいのは、「土を材料に使うさまざまな地域の風土建築」、「西アフリカの日常の暮らしのなかにあるイスラーム」、「サヘル地域の弱者層(特に女性たち)の暮らしとコミュニティとの関係」、「インド半乾燥地の少数民族の生業と適応戦略」、「ヤギやヒツジの気まぐれな行動」についてです。

 

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